徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ



意 見 書


                                    2003年10月6日
 中部地方整備局事業評価監視委員会
  委員長  網中政機 様                      
   委員各位                                                     徳山ダムをやめさせる会
                                                          共同代表:在間正史・伊藤達也

                        意  見  書

 水資源開発公団(本年10月1日に独立行政法人「水資源機構」に改組)は、8月8日、徳山ダム建設事業に係る変更事業費を算定したと発表しました。それは現在の事業費約2540億円に対して1010億円を増額をし、3550億円に変更するという内容です。
 徳山ダム事業は2001年度に評価を経ており、本来は対象事業とならないところ、今般の発表を受けて、今回の事業評価監視委員会における審議の対象事業とされたことは、当を得たものと存じます。

 2001年10月、貴委員会は、徳山ダム事業を「継続」とするに当たって、次の二点の留意事項を付記しました。

○ 徳山ダム建設事業の実施に際しては、以下の点に留意すること。
1.環境対策等
  工事の実施にあたっては、引き続き環境の保全に十分配慮すること。
  また、関係者が一体となって、上流域の森林保全に努めること。
2.コスト削減と完成期限
 なお一層のコスト削減に努力し、治水・利水面の早期効果発現のため、平成19年の完成に万全を期すこと。

 水公団(水機構)は、上記留意事項2において、なお一層のコスト削減の努力を要求されたにもかかわらず、これに対し、実に約40%の事業費増額という形で応じたことになります。

 今回の事業評価監視委員会における徳山ダム事業の審議の参考にしていただきたく、以下の意見を申し述べます。

<目次>
T.費用対効果 について
 1.納税者との約束・財政民主主義
 2.導水事業計画が存在しない
   1)水価の算定ができない
   2)渇水対策になりえない
 3.水は余っている
     1)新規利水の計画はない
   2)やはり水は余っている
   3)付記:「利水者・岐阜県の意向」(主に水道用水)について
 4.徳山ダムによる洪水対策の問題性
 5.発電経済性は極めて悪い
U.留意事項1も守られていない
 1.ワシタカ類絶滅の危険は増大している
 2.水機構(水公団)の環境対策は行き詰まっている
V.早期完成の必要はない−住民参加による再検討を
W.貴委員会として「工事凍結」の意見を

<添付資料>
1:2003年6月12日に中村敦夫参議院議員より提出された「徳山ダムに関する質問主意書」及びそれに対する7月29日付「答弁書
2:中部地方整備局事業評価監視委員会(2001年度第1回)配付資料
3:徳山ダム事業認定取消訴訟・原告側最終準備書面 抜粋
4:嶋津暉之氏作成に係るグラフ、及び、木曽川水系における水資源開発基本計画需給想定調査票(国土交通省水資源計画課)
5:岐阜県の水需要予測(主に水道用水)と実績との乖離、及び、岐阜県予測の根拠(大  垣地域水道事業者14市町の意向を含む)についての市民団体の聞き取り等の文書

T.費用対効果 について
 網中政機委員長も述べておられるように、公共事業における費用対効果の問題は極めて重要な問題です。

1.納税者との約束・財政民主主義
 公共事業の事業計画における事業費は、「その額によって事業を完成させる。それ以上は支出しない」という納税者・国民との約束です。そしてダム事業における事業費は、費用対効果、利水事業での水価等を検討する上で最も重要な要素です。事業費を実に40%も「膨らませる」とすれば、事業の適否を判断するに際しての前提条件、基礎が変更されることになります。
 これまで関係県市の住民は、「事業費3550億円の徳山ダム」の建設の是非に関して投票権行使の機会を与えられたことは一度もありません。代表民主制をもってしても、費用負担をすることになる利水者として水道事業や工業用水道事業を行う愛知県、岐阜県、名古屋市は、短期間の判断をもってこの大幅な増額費用負担の同意を行ってはならないはずです。いったん事業を凍結し、水供給のため必要な費用とその料金回収の可能性、事業の費用対効果等、改めて広範な住民、市民、国民の議論に付すべきです。
                  
2.導水事業計画が存在しない
 徳山ダム事業においては、取水・導水の計画は全く存在していません。
1)水価の算定ができない
 @  水源開発事業としてダム建設を行う以上、その開発水を利用するための取水・導水事業が必要です。それがなければ、開発水を利用できませんので、利水事業として全く意味がありません。水道・工業用水道事業は、地方財政法6条により、地方公営企業として、事業収入つまり給水料金による独立採算を義務づけられています。したがって、利水者は、料金算定の前提となる当該ダム開発水利用のための投資単価(給水原価・水価1)、また、投資を回収するために必要な給水料金単価(供給単価・水価2)の算定をしなければなりません。ダム事業計画と取水・導水事業計画を併せてはじめて、水道・工業用水道事業において事業を行うべきか否かの検討に不可欠な水価の算定が可能となります。しかし、徳山ダム事業においては、取水・導水事業計画が全く存在しないため、水価の算定、特に、前提となる上記水価1の算定からして不可能です。そして、どの利水者も水価の算定していません。
 水道事業者は、徳山ダム開発水を利用したとき、上記水価2がどれだけになるかの試算を行っていません。特に、需要が頭打ちになって今後の需要増が期待できない現在、地方公営企業として水価1は水道料金で回収しなければなりませんので、新たな供給施設の追加により水道料金の値上げが避けられませんが、水価2の給水料金をどれほど値上げしなければならないのかの試算を全く行っていません。水道料金を払わざるを得ない住民は、慮外の不利益を被ることになります。
 工業用水道事業は、事業所への給水は企業との契約ですから、試算される水価で、企業に工業用水を買ってもらえるのか、つまり工業用水の需要が実際に存在するのかどうか、極めて具体的な見通しが要求されているはずです。獲得したダム使用権や水利権に見合う需要が無ければ、工業用水道事業は破綻します。
 木曽川フルプランエリアでは、工業用水は過剰な水余り状態にあり、料金で回収できない工業用水道事業の費用負担金は、一般会計から工業用水道事業会計への繰入れによる支払−岐阜県においては一般会計からの直払い−という形で取り繕われてきました。地方財政法や地方公営企業法の予定しないこうした異常なことが拡大固定化して良いはずがありません。
 A そして、利水者たる愛知県と名古屋市は、自らが、揖斐川から現在取水施設のある木曽川までの導水計画の主体である(*1)という認識すら欠いています。新規利水に係る導水事業の主体は利水者であるのに、愛知県及び名古屋市は、国に対して「導水計画を明らかにするよう」に要望しているのです。利水者として徳山ダム開発水を使用する意思があるならば、考えられない行動です。
 2001年の事業評価監視委員会に資料として、「徳山ダム新規利水者(岐阜県・愛知県・名古屋市)の意向:徳山ダムの早期完成をお願いするものです」という文書(*2)が出されていますが、自ら行うべき導水計画を考えることすらしない「利水者の意向」は、徳山ダム開発水を本当に使用する意思のない、口先だけのものです。
 B 岐阜県は、揖斐川と接する大垣地域に徳山ダムの水を供給すると言いますが、これを利用するためには、取水・導水・浄水施設が必要です。この地域は現在の水源のほぼ全てが地下水であるため、河川表流水を利用するための取水・導水施設はもちろん浄水施設もありません。しかし、この地域では、取水・導水・浄水施設のどれをとっても計画は存在しません。徳山ダムの直接の利水者として水道用水供給事業を行う岐阜県においても、最終利水者として水道事業を行う大垣地域市町においても、水価を算定しようと試みた痕跡さえもありません。(この項につき、3.水は余っている 3)へ)
2)渇水対策になりえない
 @ 河川管理者としての国土交通省(以下、国交省)が事業を行うには、河川管理としての「治水」目的に限られます。
 徳山ダム事業においては、1996年10月に名古屋市が「返上」した利水容量を「渇水対策」という「治水」容量に振り替えました(97年12月フルプラン変更。98年2月事業実施計画変更)。徳山ダムの水を木曽川(その利水区域は、名古屋市を含む愛知県、岐阜県、三重県の一部)の「渇水対策」とするには「揖斐川から木曽川へ水を融通するための導水」を行わなくてはなりません。
 国は、この「揖斐川から木曽川へ水を融通するための導水」は「両河川の管理を行う国土交通省において、関係県市等の意見を踏まえて検討することとしている」(*1)といいますが、未だ関係県市等の意見も聞いておらず、計画の片鱗もありません。
 徳山ダムを完成させても「揖斐川から木曽川へ水を融通するための導水」計画すら存在しない以上、渇水対策とはなりえません。「現在渇水が頻発しており、今すぐに渇水対策を実施しなければならない」かのような国交省の説明からは、考えられない、それが本当ならあり得ないことです。「揖斐川から木曽川へ水を融通するための導水」計画すら存在しないことが、この説明が不安をあおるだけのもので、実体のないことを示しています。
 A 木曽川流域のダム群、特に、牧尾ダムで、ダム貯水量が低下しやすく、その結果、ダム依存水利権の取水制限が生じやすいのは、実は、ダム依存水利権の河川自流からの取水とダム貯留を制約する基準流量によるものであり、人為的な要素が極めて大きいのです。そして、地下水や河川自流水利権などの自己水源がなく、専らダム開発水に頼る地域が、渇水に脅かされているのです。(*3)
 この新規のダム依存水利権に対し河川自流取水を制約しダム貯留水の使用を強制する木曽川の基準流量は、大量の農業用水流量と河川維持流量を確保するために設定されたものです。上記の「渇水対策」も「揖斐川から木曽川へ水を融通する」という表現から理解できるように、基準流量を確保し、その結果、新規ダム依存利水者の河川自流利用を可能にするという論理なのです。そうすると、問題はこの基準流量、それも大量の基準流量なのですから、それだけの基準流量を確保する必要があるか、河川自流の少なくなった渇水時にも、それだけの基準流量を確保必要があるか、ダム依存水利権の河川自流取水やダム貯留を制約してまでこの流量を確保する必要があるか、です。基準流量を調整、つまり切り下げることで(当然、補償が必要となるでしょう)、ダム依存水利権の河川自流取水とダム貯留が可能となり、渇水対策となるのです。その結果、「揖斐川から木曽川へ水を融通する」必要もなくなります。
 渇水対策には多様な方法があります。その中で、渇水対策のために新たな水源ダムを造るという方法は、費用対効果の極めて悪い方法です。膨れあがるダム建設費に加えて大きな費用を要する導水事業が必要です。まさにペットボトルで売られる水との値段を比較しなければならないような、異常に高コストの水となってしまいます。
 
*1:「答弁書 二について」
 「お尋ねの「揖斐川からの新規導水計画」とは、関係県市が揖斐川から取水するに当たって必要となる導水施設に係る計画を指すものと考えられるが、その有無については、関係県市において考慮されるべき事項の一つであると考えており、国土交通省において直接の確認は行っていない。なお、揖斐川から木曽川へ水を融通するための導水については、両河川の管理を行う国土交通省において、関係県市等の意見を踏まえて検討することとしている。」
*3:「第4章 被告の主張する新規利水開発以外の目的の検討/第1 流水の正常な機能の維持/2 渇水対策」


3.水は余っている
 1)新規利水の計画はない
 上記「留意事項」では「利水面の早期効果発現」に言及しています。しかし、上述したように、徳山ダム開発水を取水・導水して水道用水や工業用水に使用する計画は存在しません。
 都市用水需要はもはや右肩上がりではありません。工業用水需要は一貫して減り続けています。1990年代始めまで漸増であった水道用水においても、その後は1人1日使用水量(需要量原単位)は横ばいないし漸減となっており、今後の人口減を考えれば、水道用水需要も横ばいというよりむしろ漸減となっていくだろうと予想されます(*4)。現在の供給能力で今後の需要に対応できるのです。「長期的な展望に立」てば、新規利水開発事業に投資する必要はありませんし、新たな投資は、使用されないその費用の支払のみが残る不良資産を生んでしまうので、そのような余裕のないことは明らかです。
 2)水は余っている
 国は、木曽川フルプランエリアの「利水安全度が低い」ことを強調します(「実力が計画の6割程度しかない」といっています)。しかし、2000年度におけるこの地域の需要実績は、「水道水は見通しの約六割、工業用水は見通しの約四割となっている」(*1)。国のいうような仮定であっても、なお、水は十分に余っているのです。

*1:「答弁書 八について」

 3)付記:「利水者・岐阜県の意向」(主に水道用水)について
(この項については、添付書類5だけでなく、Tの2の1)@及びB、Vの3も併せてご参照下さい。)
@ 徳山ダム開発水のうち水道用水1.5m3/秒について利水者となっている岐阜県と、その水道用水の供給を受けることになっている水道事業者(大垣地域14市町)との間で、具体的な水需給見通しについての認識を共有したことはありません。2001年に貴委員会に「利水者の意向」として示されたもの(*2)のうち、少なくとも岐阜県の水道用水分は水道事業者の具体的な需要予測の裏付けのないものなのです。
A 02年に「徳山ダム建設中止を求める会」(代表:上田武夫。「徳山ダムをやめさせる会」参加団体)が大垣地域14市町を訪ねて聞き取りを行ったところ、「新たな上水道水源の必要があって県に水源確保を要望したところは一つもない」「負担については何も考えていない」ことが分かりました。そこで同会は、同年9月9日に岐阜県に質問書を提出しました(*5-1)。同年9月25日、岐阜県水資源課は、14市町からの聴き取り無しに利水者としての意向を決めていることを認め、徳山ダム新規利水(水道用水)が必要である旨の意向の根拠は「岐阜県水資源長期需給計画(H6年)」であると回答しました(その後、当該「計画」のバックデータの情報公開請求に対し、『公開することにより、事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報』として非公開と決定した。*5-1)。
B そして「岐阜県水資源長期需給計画(H6年)」(2001年の「意向」根拠)と大垣地域の実績・計画とは著しく乖離しています(*5-2)。「徳山ダムの水が要る」という岐阜県の需要予測は、過大というより架空というべきです。
 岐阜県は、この事実(自らの予測と実績の甚だしい乖離)を省みることなく、今般のフルプラン全部変更に係る水需給想定調査において、市町村から一切の聴き取りはしないと言明しています(*5-3)。
C 貴委員会におかれましては、「利水者の意向」を判断される際、中部地方整備局提出する資料にのみ頼ることなく、「利水者の意向」に合理的根拠があるのか否かをも、十分に検討・監視して頂きたく存じます。

*5-1.「徳山ダム建設中止を求める会」(代表:上田武夫、事務局長:近藤ゆり子)と岐阜県とのやりとり及び新聞記事
*5-2.岐阜県の予測(2001年の「意向」根拠)と大垣地域の実績・計画との乖離
*5-3.03年「徳山ダム建設中止を求める会」申し入れ行動と新聞記事


4.徳山ダムによる洪水対策の問題性
1)現行の揖斐川治水計画である木曽川水系工事実施計画は、1968年に策定されたものです。この計画は、徳山ダムを中心とするもので、河道分担率が約62%と低いく、ダムに頼っています。そして、徳山ダムの他に、具体的計画の存在しない複数の「上流未定ダム群」を完成させなければ工事実施計画は完了しません。100年かかっても完成しない非現実的な計画です。現行の揖斐川治水計画には、さまざまな問題点があるのです(*3)。
 2)昨年の2002年7月生じた、揖斐川の大きな支流のうち最下流で合流する牧田川のその支流の杭瀬川のそのまた支流の大谷川の右岸にある洗堰からの越流被害−荒崎地区の洪水被害は、「徳山ダムがあれば防げた」わけでもなく、「徳山ダムが完成しなければ対策が講じられない」ものでもありません。現在、行われている杭瀬川・牧田川の河川改修は大切なことです。行政側の一部に「徳山ダムさえ出来れば解決する」「徳山ダムが出来る前には何の対策もとれない」かのような説明をする者がいることが、結果的に揖斐川流域住民の安全性を損なっています。(大谷川右岸の洗堰−荒崎地区につき*3)。
 3)中日新聞(2003年9月1日付)は、"高橋裕・東大名誉教授(河川工学)は「徳山ダムで下流の雨はコントロールできない。ダムを造れば下流が助かるというイメージがあるが、木曽川三川全体で総合的な対策を考えるのが大事」と指摘している"と報じています。
 4)2003年1月17日、淀川水系流域委員会はその提言の中で、「治水計画は・・・『超過洪水・自然環境を考慮した治水』『地域特性に応じた治水安全度の確保』を目的とするように転換するべきであるとし、「ダムは・・・原則として建設しないもの」とする述べています。これは、淀川水系流域委員会のみの考え方ではなく、1977年の総合治水に始まり2000年の流域対応での治水に到達した一連の河川審議会答申及び1997年の河川法改正の流れ、さらに現在の国交省の治水についての方針に沿ったものと言えます。
 現行の揖斐川治水計画は、1968年に策定されたものです。以来35年経ち、今では、河川の施設対応から流域対応というように治水の考え方は変化してきています。「河川の最上流部のダムによる洪水調節」という考え方は、今となっては改めなくてはなりません。
 5)国交省は、1/100規模の洪水の際、徳山ダムによって基準点・万石において1.4mの水位低減が得られるとしています。そして同じ効果を得る他の方策の方が費用が高い、と退けています(「人の暮らしをささえる徳山ダム」H12年版p13参照)。そもそも、この「比較」は流域対応の治水の考え方を全く取り入れていないもので、今では、無意味なものです。
 それをおいても、この費用計算には大きな問題があります。この「比較」において徳山ダムの費用は2540億円の約24%の600億円とされています。つまり、新規利水や渇水対策、発電などがフルに役立つことが前提となっています。
 しかし、これまで述べてきたように、新規利水及び渇水対策に「役立つ」可能性は極めて低い、ほとんどゼロです。(発電については後述)
 そうだとすれば、この「比較」においては、徳山ダム事業費は増額されたダム建設費全体の3550億円ということになり、他と比較しても極めて費用の高いものになってしまいます。
 6)さらに環境コストというものを考慮するなら、徳山ダムに頼る治水の費用対効果は相当に悪いものだと考えざるを得ません。
 少なくとも、「はじめに徳山ダムありき」ではなく、代替案を含めて、費用対効果を十分に再検討するべきときです。

*3:「第4章 被告の主張する新規利水開発以外の目的の検討/第2 洪水調節/3 徳山ダムの洪水調節効果は限られている/2)ヘ)及び「第5 まとめ」


5.発電経済性は極めて悪い
 1)徳山ダムによる発電事業は、たとえ2007年にダムが完成したとしても、2014年までは行われません。需要が見込めないからです。徳山ダム発電所及び下池となる杉原ダムの建設工事は全く行われていません。
 そして全国各地で揚水発電計画は次々と中止に追い込まれています。
 2)徳山ダムと杉原ダムでの発電は、電源開発コストが高く、ダム建設費が3550億円となると、1kW当たり41万円となります。例えば、自然環境に良いと言われる自家消費用風力の25万円、売電用風力の22万円、天然ガスコジェネレーションの30万円などと比較しますと、著しく高くなります。
 3)水公団による徳山ダム事業費増額発表を受けて、発電事業者である電源開発(株)は「増額は受け容れがたい」と言っています(9月8日・広報)


U.留意事項1も守られていない
1.ワシタカ類絶滅の危険は増大している
 1)水公団(水機構)は、自ら解析を委嘱した日本自然保護協会NACS−Jからの指摘・批判を無視して、大型猛禽類の保全策を講じないまま、また、保全策を講じるべき調査を行わないまま、工事を強行してきました。
 2)2003年7月、徳山ダム工事現場近くで衰弱して保護されたクマタカが死にました。ワシタカ類の新しいつがいが形成されず、その絶滅のおそれはますます高まっています。
2.水機構(水公団)の環境対策は行き詰まっている
 水公団は、8月の増額発表時に増額の理由に「環境対策」を挙げています。
 その目玉の一つとして宣伝している「ありのまま残そう大作戦」は、残存山林を公有化するというものですが、そのやり方において地権者の強い反発を招き、公有化は進んでいません。このままでは、たとえダム堤体を完成させても、湛水するめどは立ちません。


V.早期完成の必要はない−住民参加による再検討を
 1.これまで述べてきたように、新規利水・治水(洪水調節及び「渇水対策」など流水正常機能維持)・発電のどれをとっても2007年の完成を必要とするものではありません。
 費用対効果において、極めて重大な懸念が生じた今、徳山ダム事業を凍結し、いわば「振り出し」から再検討すべきときです。
 2.網中委員長もご指摘の通り、各地域で流域委員会ができています。1997年改正河川法の趣旨から言えば、木曽川水系においても、住民参加の流域委員会において、新たな揖斐川の河川整備計画の論議がなされるべきです。その際、モデルとして参考にされるべきは、めざましい活動をしている淀川水系流域委員会です。淀川水系でできていることが木曽川水系でできないはずはありません。むしろ、淀川水系にまさる河川史に残る流域委員会を構築することが木曽川水系でなされるべきことでしょう。流域対応を含めた多様な治水対策を総合して、河川環境を守りつつ、地域特性に応じた超過洪水に対するものも含めた治水安全性を確保する治水計画へと転換を図るべきです。徳山ダムの建設も、白紙に戻して検討されねばなりません。
 3.改めて言うまでもなく、徳山ダムは木曽川水系水資源開発計画(木曽川フルプラン)に位置づけられた水資源開発施設です。現行の木曽川フルプランは2000年を目標としており、2000年において需要は需要見込(供給計画)の「水道用水は6割、工業用水は4割」という惨状(計画と実績の乖離)であることは前述の通りです。
 現在、木曽川フルプラン全部変更の作業が行われています。岐阜県、愛知県は、国から2015年を目標として新たな需給調査をするよう求められています。
 徳山ダムからの新規利水を必要とする具体的な計画は、現在全く存在しません。
 将来、本当に徳山ダムの水を使うことはあり得るのか? 水需要の伸びのない現在、そして水利用においては水源施設の建設ではなく需要側対策(DSM)の手法が採られるべきであるという考え方が強まりつつある現在、徳山ダムからの新規利水の必要性には強い疑念が持たれます。
 フルプラン全部変更手続きにおける各担当者、関係行政機関、水資源開発分科会木曽川部会委員の方々の真摯な検討と議論がまたれます。そしてその検討と議論には、流域住民や在野の専門家の意見が十分に反映されることが必要です。
 4.繰り返しになりますが、徳山ダムには2007年に完成させなければならない必然性が全くありません。
 1010億円の事業費増額という一事をとっても、様々な方向から検討を重ね、幅広い人々の意見を聞くべきです。それには時間が必要です。そして、一旦失われた自然は容易には取り戻せません。


W.貴委員会として「工事凍結」の意見を
 縷々述べて来ましたが、この問題の多い徳山ダム事業は、とにかく工事を凍結して、改めて議論されるべきです。
 貴委員会として、「徳山ダム建設工事は凍結すべし」という結論を取りまとめられ、中部地方整備局長に対して意見を出されることを、切にお願いいたします。

                                                                          以上

   連絡先:事務局長 渡辺 泰  TEL:052-971-3105  FAX:052-971-3692
            〒460-8508 名古屋市中区三の丸三丁目1−1(名古屋水道労働組合気付)
       事務局次長 近藤ゆり子  TEL/FAX 0584-78-4119
            〒503-0875 大垣市田町一丁目20−1


2003.10 編集


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