徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ



  
徳山ダム裁判行政訴訟 要旨

   第1章 はじめに
   
第2章 本件事業認定処分の違法性(土地収用法20条)
   
第3章 新規利水(都市用水確保)の必要性はない
   
第4章 被告の主張する新規利水開発以外の目的の検討
   
第5章 結論


第1章 はじめに

徳山ダムの概要

《徳山ダム建設予定地の位置》
徳山ダムは、揖斐川の河口から約90km上流である揖斐川本流を建設予定地としている。当該地は、岐阜県揖斐郡藤橋村内であり、ダム本体は旧徳山村が藤橋村に廃置分合される前の旧徳山村と旧藤橋村の村境附近に建設され、貯水池は旧徳山村あたり、集落は全集落といってよいほど殆どが水没する。
徳山ダム集水域を含めて旧徳山村は豊かな自然環境が残されている我が国でも希少な地域であり、絶滅が危惧されているイヌワシ、クマタカの生息が確認されている。

《計画の概要》
徳山ダムは以下の通りで、事業費は1985(昭和60)年度単価で約2540億円とされている。
 ダム本体計画
  型 式 中央遮水壁型ロックフィルダム
  堤 高 161.0m
  堤頂長 415.0m
  堤体積 約1390万m3
 貯水池計画
  集水面積 約254.5km2
  湛水面積 約13.0km2
  総貯水容量 約660,000,000m3(日本最大規模)
  有効貯水容量 約351,400,000m3
  洪水時満水位 標高401.0m
  常時満水位 標高400.0m
  洪水期制限水位 標高393.0m
  最低水位 367.5m

《事業目的用途別の利用水量、費用負担》

目的とする用途 開発水量(t/秒) 費用負担割合(%) 金額(億円)
新規利水 12.0 36.80 934
水道用水 7.5 22.50 571
愛知県 4.0 10.80 274
岐阜県 1.5 4.10 104
名古屋市 2.0 7.60 193
工業用水 4.5 14.30 363
岐阜県 3.5 11.00 282
名古屋市 1.0 3.20 81
治水(洪水調節等) - 44.40 1128
発電 - 18.80 478

第2章 本件事業認定処分の違法性(土地収用法20条)

《収用法20条1号該当性》
収用法20条1号は収用事業の適格性を定める。
本件事業は、水公団が収用法3条34号の2(水公団が設置する水資源開発施設であるダム)、35号(前各号の一に掲げるものに関する事業に欠くことができない通路等)に該当する事業として申請し、本件事業は収用法20条1号に該当するものとして認定された。
本件事業が収用法3条34号の2に該当するのは、あくまで徳山ダムは水公団が起業者として公団法により建設する水資源開発施設であるからである。水公団は水資源開発基本計画に基づいて水資源開発施設を建設することを業務とする特殊法人である(公団法18条1項1号)。水資源開発施設は、洪水防御、流水の正常な機能の維持と増進の治水関係用途を目的に含むことができるが(公団法55条2号、20条4項、特定施設)、水資源開発施設にこのような治水関係用途を目的を併せ有することができるだけある。
国土交通省は新規利水開発用途、治水用途、どの目的でも単独でダムを建設できる。したがって、国土交通省が、他の用途の目的と併せて、新規利水目的も設置目的の一つとする多目的ダム(特定多目的ダム法2条1項)を建設する場合、他の目的は新規利水を前提としない。水公団が水資源開発特定施設を建設するのは、国土交通省が新規利水目的も設置目的の一つとする多目的ダムを建設するのとは異なるのである。

《収用法20条3号該当性》
1.3号要件の意義
3号は「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」を事業認定の要件とする。
2.本件事業の3号該当性は新規利の必要性を前提とする
徳山ダムは公団法18条1項1号イに基づき水公団により建設される。ダム建設の根拠となる法律は公団法のほか、河川法、特定多目的ダム法があるが、徳山ダムは公団法に基づき水公団により建設される水資源開発施設である。そのため、徳山ダム事業は収用法20条1号、同法3条34号の2に形式的に該当することから本件土地を収用法に基づく収用の対象として手続きを進めている。第2で述べた通りである。
水公団は水資源開発基本計画に基づいて、水資源開発施設の建設・管理などの水資源の開発又は利用の事業を実施する特殊法人である(水公団法1条、18条1項)。新規利水開発の目的が欠如したダムの建設は、水公団にとっては目的外行為であって、水公団はできない。
また、水公団が水資源の開発又は利用の事業のため建設する水公団法18条1項1号の掲げる水資源開発施設は、この目的に併せて、洪水防御、流水の正常な機能の維持と増進の治水用途を設置目的に含めることができる(水公団法55条2号)。水公団が建設できるのは、水資源の開発・利用、つまり新規利水開発を目的とするダムなどの水資源開発施設であり、治水用途は新規利水開発という本来の目的に付加された付随的なものである。
したがって、新規利水開発の目的が欠如した水公団による水資源開発施設としてのダムの建設は、水資源の開発という当該ダムの本来の設置目的がないということであり、水公団はそのようなダムの建設はできない。水公団の事業として建設するダムについて、当該ダムの建設の理由となっている新規利水開発の必要性が根拠づけられないならば、当該ダム事業はその必要性が認められないのである。その必要性が認められない事業は、収用法20条3号の事業認定要件を欠くものである。
したがって、水公団が建設する徳山ダムについても、その建設理由となっている新規利水開発の必要性が根拠づけられないならば、本件事業は、事業の必要性がなく、収用法20条3号の事業認定要件を欠くのである。
この点、被告は新規利水目的も含めて「複数の目的の一つが合理性を欠いたとしても、他の残りの目的に合理性があり、これらを総合的勘案すること」により、本件事業の合理性を失わないことがあるのだと主張している。しかし、新規利水の必要性があるからこそ水公団は本件事業の実施が許され、さらには土地収用が認められるのである。新規利水の必要が無ければ促進法、公団法に基づく水資源開発施設であるダム建設はできないのであり、逆に新規利水目的が存在すれば、他の目的が無くとも実施できるという意味で、他の三つの目的と質的に異なる。新規利水目的は、それが無ければ徳山ダムは事業実施の法的根拠を失う点で重要かつ基礎的な目的であり、他の目的から導き出される利益で補うことができるような性格のものではない。

第3章 新規利水(都市用水確保)の必要性はない

《木曽川水系水資源開発基本計画(フルプラン)》
徳山ダムはフルプランによって根拠づけらているが、その新フルプランの予測(1985年予測出発年)は、策定時点の1993年で、すでに過去のものとなっている実績とさえ乖離しているように、全く合理性がない。そして、徳山ダムは、このような誤った新フルプランの枠内にさえ位置づけられていない。徳山ダムの必要性がないことは一層明らかである。
さらに、木曽川水系における水余りの実態や開発水量の相互調整が行われてきた現実とそれが容易である状況にあり、これらは事業認定処分に際して、本来当然考慮すべき事項である。

《水道用水》
1.水公団予測(乙115本件事業認定申請根拠資料p49以下)
被告や水公団が「実績ベース」と呼ぶ乙115p49以下の水需要予測は、水道用水については平成30年度の日最大給水量を予測したものであり、以下の式に要約される。
   給水人口×1人1日平均給水量/負荷率=日最大給水量
   負荷率=平均給水量/最大給水量
この式は、@給水人口、A1人1日平均給水量(原単位)、B負荷率、以上を要素(関数における変数)としており、それぞれについて平成30年度における数値の予測を行わなければならない。乙115p49以下は、それぞれの要素について次のように将来予測をしている。
@「給水人口」は、過去10年間の増加割合が今後も継続するものとして推定。
A「1人1日平均給水量」は、東海地方における生活用水1人1日平均有効水量から1人1日有効水量の年当たり増加量を4.9Lとし、有効率(有効水量/平均給水量)を0.9として、これを有効率で除した1人1日平均給水量(原単位)は年当たり5.4L増加するとする。
B「負荷率」は計画上の余裕を考慮して70%とする。

2.水公団予測と実績の乖離
1) 給水人口
国立社会保障・人口問題研究所による将来人口の推計と違った過大な予測である。
2)  1人1日平均給水量(原単位)
水公団予測は名古屋市、尾張地域、大垣地域の実績と乖離している過大な予測である。
3) 負荷率
実績値は75〜80%で、各自治体予測も同様で、これを無視した過大な値である。

3.各地域についての水公団予測と実績との乖離
名古屋市における水公団予測と実績との乖離
名古屋市について、乙115の水公団予測で示された平成30年度の予測値の1人1日平均給水量は501L(■)であり、日最大給水量は184万m3(黒色棒グラフ)である。これは平成7年度の1人1日平均給水量377L(□)が年当たり5.4Lで、毎年増加し続けた結果である。
1人1日平均給水量の実績は、平成4年頃の410L程度が最大で、以後は390L程度で横ばい傾向が続いており、今後もこの傾向が続くと考えるのが合理的であり、年当たり5.4Lも増加し続けることは到底考えられない。実績の推移からの連続性からは、日最大給水量が供給能力160.7万m3/日を超えるような予測は困難である。
尾張地域における水公団予測と実績との乖離
尾張地域について、乙115の水公団予測で示された平成30年度の予測値の1人1日平均給水量は501L(■)がであり、日最大給水量は105万m3(黒色棒グラフ)である。これは平成7年度の1人1日平均給水量377L(□)が年当たり5.4Lで、毎年増加し続けた結果である。
1人1日平均給水量の実績は370L程度で横ばい傾向が続いており、これが今後も続くと考えるのが合理的であり、年あたり5.4Lも増加し続けることは到底考えられない。実績の推移からの連続性からは、日最大給水量が供給能力86.1万m3/日を超えるような予測は困難である。
大垣地域における水公団予測の実績との乖離
大垣地域について、乙115の水公団予測で示された平成30年度の予測値の1人1日平均給水量は512L(■)であり、日最大給水量は32万m3(黒色棒グラフ)である。これが平成7年度の1人1日平均給水量388Lが年当たり5.4Lで、毎年増加し続けた結果である。
1人1日平均給水量の実績は390L程度以下で横ばいが続いており、これが今後も続く、多くとも400L程度以下で横ばい傾向が続くと考えるのが合理的であり、年あたり5.4Lも増加し続けることは到底考えられない。実績の推移からの連続性からは、日最大給水量が供給可能量21.5万m3/日を超えるような予測は困難である。
○ どの地域でも、乙115の水公団予測は実績から大きく乖離している。

《工業用水》
1.乙115の水公団予測は、工業用水需要量(淡水補給水量)が、徳山ダムの工業用水の供給地域とされている大垣地域では平成7年度の37.1万m3/日が平成30年度には64万m3/日に、名古屋市では平成7年度の7.6万m3/日が平成30年度には16万m3/日に、2倍近くになる予測である。しかし、工業用水需要量(淡水補給水量)は減少または横ばい傾向が続いており、そのようなことはあり得ず、徳山ダムの工業用水は将来においても需要がないことは、本件事業認定処分時はもちろん現時点でも明らかである。
 水公団および被告の予測は以下を前提としている。
   @ 淡水使用水量原単位は将来にわたって変化しない。
   A 回収率は将来にわたって変化しない。
   B 工業出荷額は今後も継続して伸びていく。
大垣地域、名古屋市地域の実績や実態は、特に@淡水使用水量原単位、A回収率については、これらの前提とは異なっている。これらの前提は根拠がない。
2.そもそも将来の水需給を考える上で重要なのは、どれほど新規に工業用水の補給が必要かである。したがって、原単位として注目すべきは補給水に関する補給水量原単位であり、また、これに影響を与える回収率の向上や使用水量の節減を考慮することである。
本件事業認定における工業用水需要予測のやり方の根拠として、乙115は、『建設省河川砂防技術基準(案)同解説』の[3.5 工業用水の需要予測]を引用して、「工業用水の需要予測にあっては、計画目標年次における製造業出荷額、工業用水原単位をもとに必要水量を算定する。」としている。しかし、同解説では、「工業用水は使用目的によって、良質の淡水を必要とせず、他の代替手段(回収率の向上、下水処理水の再利用、海水の利用)が可能であるので、総需要量の予測はこれらの水量を考慮して検討することが必要であり、原単位としては淡水補給量としての原単位を使用する。」となっている。工業出荷額に工業用水量原単位を乗じて補給水量を求めるならば、原単位として用いるべきは補給水量原単位であり、また、補給水量を減少させる回収率の向上等の節減要素を考慮することとしているのである。
水公団や被告は工業用水の需要予測について、「使用量原単位を独自の説明要因として誤って位置づけ、さらに需要が増加するような予測を導くために、原単位の低下傾向の弱まりや横ばいを恣意的に想定した」(甲19富樫幸一意見書)。このやり方は、これまで、「たえず誤った需要予測を繰り返してきた。」(甲19)のである。
実際の工業用水需要は淡水補給水量である。淡水使用水量原単位は淡水補給水量から導き出される結果にすぎないのである。「要するに、淡水使用量の原単位とは予測のための説明変数ではなく、(工業)出荷額の変動とあまり変化のない淡水補給量の推移から生じる見掛け上の結果に過ぎないのである。」(甲19)。
被告は乙115で資料として示されている淡水補給水量(工業用水需要量)が横ばい、減少している実態を直視し、将来の工業用水需要量を判断すべきであったのである。

《まとめ》
1.上記のように、徳山ダムで開発される水道用水も工業用水も、将来においても需要がないこと、および乙115の水公団予測が過大で誤っていることは、本件事業認定処分時はもちろん現時点でも明らであることが明白となった。徳山ダムの新規利水開発の必要性は、全く根拠がないことが明らかとなった。本件事業はその必要性がないことが明らかになったのである。
2.新規利水開発の必要性がないことで、徳山ダムなどの水資源開発施設の建設を中止、それも早期に中止することは、地方財政を過酷な不良債務や破綻から救うために必要である。今すぐにしなければならない。
岐阜県、愛知県、名古屋市においては、建設中の建設費や費用負担金の支払は、水道事業や工業用水道事業の地方公営企業として特別会計を設けて、経営収入による独立採算で支弁しなければならない(地方財政法6条)。したがって、水道用水や工業用水に需要がないと、経営収入である給水料金が得られないので、建設費償還金や費用負担金の支払ができない。
徳山ダムのように、開発水に需要が全くないものは、岐阜県、愛知県、名古屋市においては、地方公営企業としての水道事業や工業用水道事業の破綻を引き起こす。結局、県や市の一般会計がその補填をさせられてしまう。使用されるあてのない水のために税金が注入されるだけである。岩屋ダムの岐阜県、愛知県および三重県の工業用水や長良川河口堰の愛知県、三重県の工業用水および名古屋市の水道用水について、現在、使用されるあてのない水のために税金が注入されている。
徳山ダムの建設を、建設早期の現段階で中止することは、岐阜県、愛知県、名古屋市を、これ以上の無駄かつ過酷な費用負担から解放し、不良債務と不良資産による財政破綻から救うために必要なことである。

第4章 被告の主張する新規利水開発以外の目的の検討

1.被告は、徳山ダムの目的として、流水の正常な機能の維持と揖斐川の洪水調節、それに発電をあげ、また、環境対策の実施を述べ、これらを本件事業が収用法20条3号要件(事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの)に該当する理由にしている。上記のように新規利水開発目的の欠如だけで、すでに本件事業認定処分は収用法20条3号の事業認定要件を欠いており、このようなことは検討する必要はないが、被告が主張しているので、付加的に検討した。

2.流水の正常な機能の維持の目的の一つは渇水対策で、木曽川水系における異常渇水時に緊急水を補給するとされている。しかし木曽川水系においては、「渇水」はダム依存水利権についてのもので、それは、気象を前提としつつも、基準流量の設定という人為的な要因によって発生している。また、木曽川水系のダム開発水は大幅に余剰で水余り状態である。そして、基準流量は豊富な余剰のある既得農業水利権流量や河川維持流量の確保のために設定されているので、これらとの調整によって、ダム依存水利権の「渇水」や実際の水使用への影響は回避可能である。
徳山ダムの渇水対策の水を木曽川水系で利用するためには、揖斐川から取水して、長良川を越えて木曽川まで導水しなければならない。徳山ダムだけでは利用できないのである。そして、揖斐川から木曽川への取水・導水施設はなく、その建設計画もない。このような徳山ダムの渇水対策用水は渇水対策の意味がなく、また、費用対効果も均衡を失している。
また、流水の正常な機能の維持の目的のもう一つは、揖斐川の確保流量のための不特定補給である。揖斐川では、既得水利権(農業用水)の利用や農業被害には問題は生じていなし、また、河川維持流量として問題になることも生じていない。確保流量を確保することによって得られる効果に比べて費やされる費用(貯水容量から、洪水調節とほぼ同じ費用負担割合である)があまりにも高く費用対効果の均衡がとれていない。

3.洪水調節については、揖斐川の洪水防御計画として、徳山ダムによる洪水調節が最適な洪水防御計画であることは明らかでない。
河川が全体として防御対象とする基本高水のピーク流量からみると、揖斐川の基本高水のピーク流量6,300m3/秒は、その年超過確率が防御対象の計画規模である年超過確率1/100を大きく上回っており、過大な流量である。基本高水のピーク流量が年超過確率1/100程度の5,300m3/秒(大きめにみても5,800m3/秒)であれば、ダムによる流量削減に安易に依存する可能性は乏しくなる。
徳山ダムは、万石地点より上流の揖斐川全集水域に降った雨水の20%しか貯めることができないので、徳山ダムの洪水調節による揖斐川の洪水防御効果は限られている。例えば、工事実施計画に記載されている揖斐川の計画高水流量配分図の流量配分のパターン(徳山ダム1,720m3/秒、横山ダム1,080m3/秒の流量カット)になる洪水型はなく、防御対象である1959年9月型洪水や1960年8月型洪水では、河道流量は計画高水流量3,900m3/秒を超えるのである。
洪水防御効果の範囲を広げることができるのは、広い流域面積をカバーする対策である。洪水が流れる河道での対策は、洪水は河道に流入するので、洪水の防御範囲からは100%であり、河道でどの程度の防御が可能か十分に検討する必要がある。そのうえで、河道の洪水防御の負荷を低減するため、流域での河道への流入低減や河道からの流出を検討すべきである。
計画河道にすると、洪水、例えば6,300m3/秒が流れたとき、水位はどのようになるのかを明らかにすることが、まず必要である。そのうえで、部分的に水位が高くなる区間では、何が原因で水位が高くなるかを検討し、河道での解決方法を検討することが必要である。
揖斐川の場合、現況河道から計画河道に改修されると、粗度が改善され、水深が増大し、河積が増大する。それぞれが原因となって、計画高水位以下で流過させうる流量は増大する。
部分的な水位の上昇に対しては、原因に応じて、河道内での部分的河積の増加が可能である。そして、部分的に計画河積自体が小さいときは、その部分の計画河積を増加することによって上下流と同じ程度まで河積拡大させることを考えるべきである。
また、計画堤防高を変えずに余裕高を河川管理施設構造令での揖斐川の基本高水のピーク流量にあった基準にすれば、計画高水位が上昇するので計画高水位以下の流過能力は増大する。
以上のように、計画河道や河道の状態を変化させた精確な流過能力検討すること、それに基づいて各種の河道改修を検討することが必要である。
以上のことが全くなされておらず、徳山ダムによる洪水調節が最適な計画案であることは明らかでない。

4.現在の電力需給事情からみて、揚水発電は中部電力はもちろん他の電力会社の中止しており、徳山ダムの発電目的は必要性が全くない。

5.徳山ダムの建設は、自然環境、特に、徳山村の生態系の頂点に立っているイヌワシ、クマタカの猛禽類の生存に非常な打撃を与える。日本自然保護協会が水公団の資料等を検討して、幾度かそのことを指摘し、警告している。
徳山ダム建設による自然環境への打撃を回避するには、ダムの建設による自然改変を中止する以外にない。

6.以上の通り、被告が主張する流水の正常な機能の維持、揖斐川の洪水調節、発電、また、環境対策の実施は、いずれも必要性や根拠がなく、土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものとはいえない。したがって、これらは、本件事業が収用法20条3号の事業認定要件に該当する理由とはならないものである。

第5章 結論

1.以上の通り、本件事業認定処分は、収用法20条2号および3、4号、特に3号の事業認定要件を欠いていることが明らかとなった。
よって、本件事業認定処分は違法であって、本件事業認定処分は取り消されるべきである。また、本件収用裁決は、その前提となっている本件事業認定処分が違法であるので、その違法性を承継して違法であって、取り消されるべきである。
2.本件事業認定処分や本件収用裁決を取り消して徳山ダムの建設を中止する必要性を述べて、最後の結論とする。
徳山ダムの建設を中止、それも早期に中止することは、徳山ダム集水域の自然環境の保全のため必要なことはもちろんであるが、その前に、岐阜県、愛知県、名古屋市の財政を過酷な不良債務や破綻から救うために必要である。これは今すぐにしなければならない。本件で、原告らが徳山ダムによる新規利水開発の必要性に審理を集中して早期の審理・判決を求めているのはそのためである。
徳山ダムのように、開発水に需要が全くないものは、岐阜県、愛知県、名古屋市においては、地方公営企業としての水道事業や工業用水道事業の破綻を引き起こす。結局、一般会計から使用されるあてのない水のために税金が注入されるだけである。
徳山ダムの建設を、建設早期の現段階で中止することは、岐阜県、愛知県、名古屋市を、これ以上の無駄かつ過酷な費用負担から解放し、不良債務と不良資産による財政破綻から救うために必要なことである。

凡例    
平成11年(行ウ)第6号事件被告建設大臣(処分当時)……被告
参加人水資源開発公団……水公団
平成11年(行ウ)第6号事件被告および参加人水資源開発公団……被告等
水資源開発公団が事業認定申請した請求の趣旨記載の徳山ダム等建設事業……本件事業
建設大臣がなした請求の趣旨記載の事業認定処分……本件事業認定処分
木曽川水系水資源開発基本計画……フルプラン
水資源開発促進法……促進法
水資源開発公団法……公団法
土地収用法……収用法


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