徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


徳山ダム事業認定取消 及び 収用裁決取消請求事件 争点(簡略版)

徳山ダム訴訟原告弁護団長 在間正史弁護士

序.どういう裁判か

 徳山ダム建設事業(本件事業)地内の土地を強制収用するためなされた土地収用法(収用法)16条の国土交通大臣による事業認定の取消請求(事業認定取消)と岐阜県収用委員会の共有地の収用裁決の取消請求(収用裁決取消請求)の訴訟。理由は、事業認定取消は収用法20条の事業認定要件が欠如していて違法であること。収用裁決取消は収用裁決が前提とする事業認定に違法であること。以上により、両事件は併合されている。

第1.争点1・法律論(収用法20条3号該当性の判断の仕方)

1.収用法20条1号の収用適格事業該当性(争いのない前提事実)
 本件事業は、水公団が収用法3条34号の2(水公団が設置する水資源開発施設であるダム)に該当する事業として事業認定された。

2.収用法20条3号要件(事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与する)該当性
論点

 徳山ダムは、新規利水のほか、洪水調節、流水の正常な機能の維持(揖斐川の不特定補給、木曽川水系の渇水対策)、発電が建設目的にされている。
 本件事業の収用法20条3号該当性は新規利水の必要性のあることが前提か。
原告
 徳山ダムは、水公団が新規利水のために水資源開発基本計画に基づいて建設する水資源開発施設である。したがって、新規利水の必要性がないならば、事業は必要性が認められず、収用法20条3号要件を欠く。
被告
 複数の目的の一つが合理性を欠いたとしても、新規利水の残りの目的に合理性があり、これらを総合的勘案することにより、事業の合理性は失われないことがある。

第2.争点2・新規利水の必要性があるか

1.木曽川水系水資源開発基本計画(フルプラン)
原告
 現行フルプラン(2000年目標)の供給は徳山ダムを除いて需要を上回っている。徳山ダムの必要性がないことは明らかである。
被告
 フルプランは事業認定の判断とは関係がない。

2.水道用水
被告・水公団(水公団予測)

 1人1日平均給水量は、平成7年度から平成30年度にかけて年当たり5.4L増加して、377Lが501Lに(名古屋市、尾張地域)、388Lが512L(大垣地域)に増加する。その結果、水道用水需要量(日最大給水量)は、平成7年度から平成30年度の間に、名古屋市で118万m3/日が184万m3/日に、尾張地域で65万m3/日が105万m3/日に、大垣地域で15万m3/日が32万m3/日になる。この増加に対応するため徳山ダム開発水が必要である。
原告
 1人1日平均給水量については、水洗便所、家庭風呂などの増加要因に限界があり、現状程度が限界で、400L以上になることはない。年当たり5.4Lも増加し続けることはあり得ない。
 水道用水需要量(日最大給水量)が現在供給能力の名古屋市160.7万m3/日、尾張地域86.1万m3/日、大垣地域21.5万m3/日を超える予測は困難である。

3.工業用水
被告・水公団(水公団予測)

 工業用水需要量(淡水補給水量)は、平成7年度から平成30年度にかけて、大垣地域では37.1万m3/日が64万m3/日に、名古屋市では7.6万m3/日が16万m3/日に、約2倍になる。このため、徳山ダム開発水が必要である。
原告
 工業用水需要量(淡水補給水量)は、1970年以降これまで、工業出荷額の増加があっても、一貫して減少または横ばい傾向が続いており、今後増加することはあり得ない。
 水需給が重要であり、求めたいのは、淡水補給水量である。工場は、補給できる水の範囲内で生産を行っている。淡水使用水量原単位は淡水補給水量から導き出される結果にすぎない。水公団予測のやり方は、これまで、たえず誤った需要予測を繰り返してきた。

4.地方財政の破綻
原告
 徳山ダム開発水に需要がないため、利水者である岐阜県、愛知県、名古屋市の水道事業や工業用水道事業(地方公営企業)は破綻を生じ、結局、県や市の一般会計に補填が求められ、税金が注入される。
被告
 利水者の費用負担と財政問題は、国土交通大臣の事業認定判断と関係がない。

第3.争点3・新規利水以外の目的

1.流水の正常な機能の維持(渇水対策)
被告・水公団
 木曽川水系のダム依存水利権では、近年、「渇水(取水制限)」が頻発している。徳山ダムの渇水対策容量から、木曽川水系の異常渇水時に緊急水を補給する。
原告
 木曽川水系のダム開発水は大幅に余剰で水余り状態である。
 木曽川においては、ダム依存水利権の「渇水」は大量の余剰の既得農業水利権流量や河川維持流量の確保のための基準流量によって生じており、これらとの調整によって、ダム依存水利権の「渇水」は対策可能である。
 揖斐川から木曽川への取水・導水施設はなく、その建設計画もないので、徳山ダムの渇水対策用水は渇水対策の意味がない。

2.洪水調節
1) 基本高水のピーク流量と流量配分
被告
 基本高水のピーク流量を基準地点・万石地点で6,300m3/秒をとした。
原告
 基本高水のピーク流量としては、5,300m3/秒(大きめにみても5,800m3/秒)が相当であり、6,300m3/秒は過大である。5,300〜5,800m3/秒であれば、ダムによる流量削減に依存する必要性は乏しくなる。
 徳山ダムは、万石地点より上流の揖斐川全集水域に降った雨水の20%しか貯めることができないので、徳山ダムの洪水調節による洪水防御効果は限られている。防御対象である1959年9月型洪水や1960年8月型洪水では、河道流量は計画高水流量3,900m3/秒を超える。
2) 河道対策、河道の流過能力
被告
 揖斐川の現況河道の流過能力は低く、水位低下のためには徳山ダムが必要である。
原告
 揖斐川の場合、現況河道は計画河道に比べて、流れにくく、河床が高く、河積が小さい。計画河道に改修されると、粗度(流れにくさ)が改善され、水深が増大し、河積が増大する。それぞれが原因となって、計画高水位以下で流過させうる流量は増大する。
 35K〜37Kの区間は、計画河積自体が他の区間に比べて小さい。このような部分的な水位の上昇に対しては、原因に応じて、部分的に河積を増加させることができる。
 また、計画堤防高を変えずに、余裕高を河川管理施設構造令での揖斐川の基本高水のピーク流量6,300m3/秒に対応する基準の1.5mにすれば、計画高水位が上昇するので計画高水位以下の流過能力は増大する。
3) 発電
原告
 現在の電力需給事情からみて、揚水発電は中部電力はもちろん他の電力会社も中止しており、徳山ダムの発電目的は必要性が全くない。
4) 環境
原告
 徳山ダムの建設は、自然環境、特に、徳山村の生態系の頂点に立っているイヌワシ、クマタカの猛禽類の生存に非常な打撃を与える。日本自然保護協会が水公団の資料等を検討して、幾度かそのことを指摘し、警告している。徳山ダム建設による自然環境への打撃を回避するには、ダムの建設による自然改変を中止する以外にない。

2003年12月6日編集


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