徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


《「どうする?徳山ダム」マニフェスト選挙総括集会》報告

2003年11月25日(火)午後6時―8時30分、名古屋市教育館講堂(名古屋市中区錦)参加者65名

主催:「徳山ダムをやめさせる会」 / 進行役:渡辺泰事務局長(徳山ダムをやめさせる会)


□ マニフェスト選挙の総括 (伊藤達也金城学院大学教授)

「徳山ダム計画をめぐる公開質問状とその回答の報告」 (記者会見資料要約)

(1)徳山ダム問題を衆議院議員候補者に質問した理由
今回、私たちが衆議院議員選挙立候補予定者に(岐阜1〜3区、愛知1〜10区)に「徳山ダム事業の中止・継続」に関する公開質問状を提出したのは、徳山ダム事業の抱える問題性を、各政党、ならびにここの候補者がどのように考えているかを具体的に知り、実際の投票行動の参考にしたいと考えたからです。
 理由は簡単です。徳山ダム事業は現実に一定の進捗を見ながらも、問題はますます拡大、悪化し、その解決を見通すことができなくなっています。その最大の理由の一つとして、立法府である国会、その中での国会議員の徳山ダム問題に対する意思が不鮮明で、本来の機能を果たしていないことがあげられます。
今回の選挙は別名「マニフェスト選挙」と呼ばれました。この言葉通りならば、今回の選挙はこれまでの聞こえのよい、しかしながら、決して、当選後の政治家の活動を制約することのない「選挙公約」に代わり、国民に対して数値目標などを伴った明確でかつ厳格な「マニフェスト」を提示し、当選後はそのマニフェストを実現するための活動を約束した上で、国民の選択を仰ぐという、大変国民に分かりやすい選挙スタイルとなったはずです。
 私たち徳山ダムをやめさせる会は、この「マニフェスト」という言葉の内容、実質性を確かめるために各政党が徳山ダムや長良川河口堰、さらにはわが国の水資源開発・管理政策や公共事業に対してそのようなマニフェストを掲げて今回の選挙に臨んでいるのかについて、各党のホームページなどで確認作業を行いました。その結果、民主党が徳山ダムという名を具体的に挙げて一定の方針を述べているものの、他の政党のマニフェストには全く触れられていないことを確認しました。
 徳山ダム事業は総事業費が3550億円の事業です。しかも、つい最近、手続き違反の1010億円追加事業費問題が発生しました。最も新しくて大きな問題のはずです。徳山ダム事業は東海地方という一地方の問題にとどまるものでは決してなく、かつ、その中で問われている問題の論点を見れば、わが国水資源開発・管理政策を左右し、公共事業の動向を左右する、国政レベルの重要課題です。しかし、今回、各党が掲げられたマニフェストは、残念ながら、これまでの選挙公約とどこがどう違うのか、よく分からないというのが実感でした。
 ただ、その評価は別にしても、民主党は徳山ダム問題をマニフェストに入れて今回の選挙を戦おうという構えを示しました。また、徳山ダムの名を出してはいないにしても、各党ともこの巨大プロジェクトについて、当然一定の対応策を考えていたはずで、それは当地方から選出される国会議員において最も深く認識されていなければならないと考えます。
 加えて、マニフェストは本来、各政党が単一目標を掲げるものでなければならないと考えますが、これまでの経験からして、また、今回、選挙戦の争点となる種々の問題においても、政党の掲げる政策と個別候補者の掲げる政策が異なっていたり、ねじれているケースが少ないことも事実です。従って、今回、私たちは徳山ダム問題に焦点を絞り、かつ、直接、徳山ダムの恩恵(ここでは利水面に絞りました)を受ける地域で選挙を戦った候補者に対して、「徳山ダム事業費1010億円増額問題をどう思うか」、さらに「その解決法」、「徳山ダム建設事業そのものへの考え」を聞き、最後に「徳山ダム建設事業をどうするか=有権者への公約」を述べてもらい、それを広く有権者の方に知っていただき、是非、自らの投票行動の参考にしていただこうと考えました。

(2)各候補者の回答の動向

a.政党別回答数 27人(42人中)から回答(1人は「回答しない」と回答)

自民党 回答者ほとんどなし(1/11) 保守新党 3人のうち1人が回答
民主党 大体の候補者が回答(10/13) 社民党 1人が回答(候補者1人)
共産党 全員が回答(13/13) 無所属 1人が回答(候補者1人)

b.自民党
 マニフェストでは、公共事業に関わって触れている部分が少なくない、という特徴がありました。個別事業については全く触れられておらず、基本的に徳山ダム事業を含め、既存のダム・河口堰事業、公共事業一般において、推進の立場と考えてよいのでしょうか。ただ、自民党のマニフェストにおいて、公共事業については、「公共事業コストを・・・見直しを徹底し、ムダを省き効率化する」とあり、国・地方の公約責務の削減については「・・・危機的状況を脱するため、歳出構造改革、地方改革を進めて公的部門をリストラ、・・・公的債務の削減を目指す」とあります。この点からすれば、少なくとも「徳山ダム事業費1010億円増額問題をどう思うか」に対しては、明らかに問題があるとの回答を頂いてもよかったのではないでしょうか。例えば、その上で「増加金額の圧縮を図る」等の回答の仕方が自然であったように思われます。また、歳出構造改革の中で、徳山ダム問題の重要性からして、もっとオープンな場でその意思を表明していただきたいと考えています。

c.民主党
 政党別マニフェストの中で、唯一「徳山ダムをはじめ他の個別事業にちても精査し、凍結、中止、見直し等に分類して、できるものから直ちに着手します」と、徳山ダムを挙げて述べています。この点では大変評価できるものですが、川辺川ダムや吉野川可動堰計画が即時中止であることからすれば、徳山ダム事業においては、まだ事業を進めるか、中止するかの最終判断はついていないということでしょう。
民主党の場合、回答のあった10名のうち、8名は「徳山ダム事業費1010億円増額問題をどう思うか」という質問に対して「問題がある」と答え、問題の内容については「費用が増加した理由が分かりにくい」を中心に、「費用対効果が大きく変わる」、「関係県市の負担が増える」という回答が多く見られました。その上で1010億円増額問題については「いったん工事を凍結して、徳山ダム事業計画を見直し」、徳山ダム建設事業そのものについても「工事を凍結して再検討する」という回答が約半数を占め、多数派となっています。これらの回答が民主党のマニフェストとなるのならば、民主党の徳山ダム事業への対応は、党のマニフェストが言う「精査」してから、凍結、中止、見直しされるのではなく、「問題があるから、まず工事を凍結し、再検討を行う」とならなければならないはずです。

d.共産党
 共産党の場合、マニフェストの中では「環境破壊を引き起こすような公共事業などの大規模開発をやめさせるとともに、・・・事業評価を実施させます」とあり、個別事業では「諫早干拓などを直ちに中止し」というように、諫早干拓事業だけが触れられています。
 ただ、今回の質問状に対しては全員の候補者が、徳山ダム事業費1010億円増額問題は「問題がある」と答え、問題の内容については「徳山ダムは必要性も採算性もない」、「関係県市の負担が増える」と回答されています。その上で1010億円増額問題については「直ちに中止」とし、徳山ダム事業そのものについても「直ちに中止する」という回答になりました。政党として全候補者が多少の書き方は異なるものの、基本的には全く同じ見解を披瀝されており、政党のマニフェストとしてこれほど分かりやすいものはありません。

e.保守新党・社民党・無所属
 保守新党、社民党、無所属の候補者はそれぞれ3名、1名、1名と少なく、今回の質問状への回答は各1名でした。保守新党の候補は回答を寄せた人の中で唯一「徳山ダム事業費1010億円増額問題をどう思うか」という質問に対して「やむを得ない」と回答されました。また、徳山ダム事業費そのものに対しても「工事を継続しながら再検討する」とただ一人回答されています。これは与党の一員として当然あり得る回答だと思います。私たちはこの回答に同意しませんが、回答しない候補者よりずっとましです。候補者として自らの見解を述べる態度が、次の議論を唯一可能にするのではないでしょうか。
 社民党の場合、愛知7区の大島候補が回答してくれました。徳山ダム事業費1010億円増額は問題であり、徳山ダム建設事業の工事を直ちに凍結して「中止へ向けたロードマップ策定作業に取り掛かる」という回答でした。
 最後に無所属では愛知9区の井桁候補が、徳山ダム事業費1010億円増額は問題であり、徳山ダムの工事を凍結し、再検討する。事業計画の見直しを図ると回答してくれました。

(3)マニフェストのよりいっそうの明確化と説明責任、行動責任を求めます
 マニフェストは語るだけでは何の意味もありません。当選したからには、いかにしてそれを実現するかを必死になって考え、行動していただくことが必要です。少なくとも、質問に対して回答をいただけた候補者においては、ほぼ全員が、徳山ダム事業費1010億円増額は問題であり、最終的に事業を中止するという選択も含めて、徳山ダム工事を凍結して事業計画を再検討すべきだと回答しています。私たち徳山ダムをやめさせる会としましては、当選された新議員の方々には、この公約(=マニフェスト)を実行していただけるよう、あらゆる努力を傾ける所存です。
 マニフェストは候補者が有権者に語る一方的な宣言では決してない、と考えています。マニフェストの内容を理解し、投票することによって、同時に有権者側にもマニフェストの実現に向けて努力する義務が発生するのではないでしょうか。そのためにも、4年に1回しかない選挙時だけ、政策を語り合うのではなく、次の選挙に至るまで、継続的に問題について語り合い、実現に向けての努力をしつづけることが大切だと考えます。
 徳山ダム問題は行政の手の中にあって迷走を続けています。国会議員には是非議論の中で、より深く問題についての理解を深めていただきたいですし、私たちも何ができるかについて、もっと深く考えていきたいと思っています。

「選挙結果と徳山ダムに関わるマニフェスト」
 今回の選挙結果から、徳山ダムの利水に関係した選挙区から立候補され当選された議員からいただいた回答によれば、小選挙区の13のうち5人の方々は、「1010億円の増額は問題であり、徳山ダム事業自体、いったん工事を凍結し、再検討すべき」という立場を明らかにされています。また、比例区に移動され当選された2人もほぼ同様の回答を寄せられています。他の当選者は質問状に回答をしていないことから、私たちのできる「マニフェスト選挙の総括」は、「徳山ダム問題についてあらためて国会で真摯な態度で議論を行い、結論が出るまで工事をいったん凍結する」ことになります。このマニフェストの実現に向けて、国会議員になった方々の真摯な対応を強く望むとともに、私たちも協力していく必要があると考えます。

2003年12月編集


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