徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ



4年前の“公団の失敗”

1999年5月12日、徳山ダムの道路付け替え工事が行われていた現場から約500bという至近距離の雑木林の中で、一組のクマタカが巣を作り、ヒナを育てていることを日本野鳥の会・岐阜県支部などが確認し、「徳山ダム建設中止を求める会」も23日にその状況を確認した。
現場は、重機が轟音を立てて、木々を倒し山を削り、土砂を満載したダンプカーが黒い排気ガスをまきながら走り回る谷間で、クマタカの巣は、土砂の捨て場からはわずか200―300bと、文字通り目と鼻の先の木の上にかけられていた。
その3年前の96年5月から水公団は、ダム建設地域一帯の約170平方kmの範囲でワシ・タカ類の調査を実施し、イヌワシが4つがい、クマタカは13つがい生息していることを確認していた。96年度、翌97年度はクマタカのヒナが観察され、繁殖していることが明らかになった。
しかし、工事が進み、激しさを加える98年度には、ついにクマタカの幼鳥は確認されなくなり、徳山で一つの種が絶えようとする危機的前兆ともいえる異変をみせたのである。
そして、99年5月、それまで把握できていなかった営巣地点が発見され、水公団は28日になってダムに関連する全ての工事の中止に踏み切った。そのとき言葉は美しかった――。「十分注意してきたが、一層慎重を期することにした」と発表し、専門家によるワシ・タカの調査が行われることになった。この公団の姿勢に一部で評価する意見さえあった。
調査は31日から開始された。だれもがある程度の期間をかけて実施されると思っていた。しかし、行われた調査はわずか5日間だけだった。常識では考えられない調査日数だった。
「工事現場周辺で新たな営巣は見つかっていない―」と発表。本体着工を急ぐ水公団は早くも6月9日から、生息調査対象地区を除いて、順次工事を再開し、それぞれの現場はいつものけたたましさが戻っていた。
そして間もなく、育雛中のクマタカの行動に変化が起こり、親どりがエサを運ばなくなり、子育てに失敗したことが確認された。


                     声 明

 6月17日、水資源開発公団は、徳山ダム建設予定地で営巣していたクマタカの”Fつがい”の繁殖失敗を発表した。その原因を、密猟によるもの、または一般人の観察が増えたことによる、と示唆しているのは、大いに疑問があり、自らの責任を回避するためと指弾せざるをえない。
 本質的な原因は、これまでの調査と保全策、さらに今回工事を中断して行った調査のあり方(監視態勢を含む)に問題があったからである。
 この春にも1つがいが繁殖に失敗している。その原因を究明しないままこの”Fつがい”の調査に当たったところに、大きな問題の一つがある。なお加えては、クマタカ保護に向けての調査のあり方について、専門家の指導を十分に受けて行わなかった点にもある。そうした今回の一連の調査への配慮のなさが、繁殖の失敗に結びついたのである。
 当然、一番大きな要因は、営巣木のすぐ下を土砂捨場にしていたことが、クマタカ親子にかなりのストレスをかけていたことにある。またダム関連工事によって、周辺の環境が著しく悪化していることを見逃してはならない。あの荒廃した環境では、育雛に大切な餌が十分に供給できるわけがない。「高利用域」の餌の状況の把握なしに、イヌワシ、クマタカの保全策は立てられない。
 本年度、せっかく、2つがいのクマタカが営巣していながら、2つがいとも繁殖に失敗したのは、公団の調査にあたって「イヌワシ、クマタカの次世代を保全しよう」という根本的な認識や姿勢が、欠如していたからに他ならない。
 クマタカの繁殖成功率は、急激に落ちているが、その中でも、8つがのすべてについて、繁殖成功が確認できなかったということは、この地域のクマタカが絶滅に瀕していると感ぜざるをえない。その原因を突き止め、絶滅をくい止めるためにも、直ちに一切の工事を中断し、数年をかけた十分な調査を行うよう、関係諸機関に強く求める。

                             1999年6月17日

                           徳山ダム建設中止を求める会
                                  代表 上田武夫

クマタカ営巣失敗についての当時の声明


               要 望 書

                              1999年6月23日
環境庁長官 真鍋 賢二様
                           徳山ダム建設中止を求める会
                               代表  上田 武夫

 水資源開発公団は、徳山ダム建設工事において、クマタカ1つがいが営巣している近くに土砂捨て場を設置するという危険な対応をしていた。このことを日本野鳥の会から指摘されたのをうけて、工事の一時全面中断を行ったが、問題の経緯を明らかにすることもなく、反省もなく、わずかな期間の再確認調査を経ただけで、工事を順次再開している。これでは、徳山に棲息しているイヌワシ4つがい、クマタカ13つがい(うち、工事関連つがい数、イヌワシ1、クマタカ8)を保護し、生態系を保全することはできない。水資源開発公団という事業団が、大型猛禽類の調査を担当し、保護策を判断することの不適切さが明白になった。

 生態系保全について、国際的な責任をもつ日本政府の責任官庁としての環境庁の積極的・能動的関与を強く求めるとともに、以下のことを要望する。

(1)事業者からの要請などを待つことなく、環境庁として、事態を正確に把握し、これまでの調査内容及び環境庁としての評価と判断を、できるだけ早く公表すること。
 特に今回問題になった31カ所について、今回の再調査の方法、工事再開の判断根拠、継続調査地点の今後の調査の方法、保護対策の詳細 などを、公団から聴取し、情報を広く公開するとともに、必要な指導を行うこと。

(2)天然記念物イヌワシの行動圏が事業地域にかかわっていることが判明した。この保全策は、単に工事の時期や方法に配慮することでは済まされない。直ちに一切の工事を中止して本格的な調査を行うことを、環境庁とし強く指導すること。

(3)今回の工事中断のきっかけとなったFつがいを含めて、今年はこの地域のクマタカのすべてが繁殖できなかった。この地域のクマタカが絶滅に瀕しているというおそれを強く感じさせる。クマタカが繁殖できない原因の究明が急務である。付帯工事によって高利用域が荒廃し、餌不足が育雛失敗に結びついたと考えられる。「採餌環境の維持、創出」という観点を踏まえた大型猛禽類の保護策を早急に示すこと。

(4)徳山ダム建設事業は、大規模な自然改変を伴うにもかかわらず、環境影響評価が行われていない。6月12日に施行されたアセスメント新法に準じた環境影響評価を行うよう、環境庁として必要な措置を講じること。

 イヌワシ・クマタカなどの大型猛禽類に象徴される自然生態系の保全は、人間が生存していくための必須の条件であることは、多くの人々の認識するところとなりつつある。今こそ、環境庁は、徳山ダム建設を前提とすることなく、当該地域の環境保全に真の責任を果たして頂きたい。

                                         以上


私たちは、当時の関谷勝嗣建設大臣にも、要望書を提出し「工事を続けていくことは、大型猛禽類をはじめとする徳山地域の生態系にとって、非常に危険である。ダム建設が大型猛きん類の生息に影響を及ぼすことが明らかになった以上、ダム建設の可否をも含む事業見直しが必要だ」と環境保全に全力を尽くすよう訴えた。しかし、市民の声は届くことなく徳山ダムの工事は強行された。

やがてその影響は、今年6月26日朝になって現れる。土砂満載のトラックが走り回る徳山ダム工事現場の林道で、クマタカがうずくまっているところを発見されたのである。保護されたものの5日後の7月1日の午後、死んだ。衰弱死だった。表現を変えれば“餓死”だった――。

水公団はしばしば、「最大限、環境に配慮して事業を進めたい」という。未来に責任を負う国の政策のもとにある機構の言葉にしてはあまりに軽すぎる。

2003年9月


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