徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ



意見陳述 上田武夫代表 (徳山ダム建設中止を求める会)


 平成一一年(行ウ)第六号
                         原 告  近藤ゆり子 外五六名
                         被 告  建設大臣 関谷勝嗣
            

                意見陳述書

平成一一年五月一九日
                        原 告  上  田  武  夫
岐阜地方裁判所
    民事第二部 御中

一、徳山ダムの建設計画は、閣議決定から四半世紀、徳山村の廃村から十二年がたちました。しかし今では、着工を見合わせるべき時期にきています。二千五百四十億円もの莫大な事業費をあてての「水資源開発と治水」という目的は、もはや説得力を失っています。

二、新規利水の需要がないうえ、ダムによる揖斐川の洪水対策の効果はありません。さらに、絶滅危惧種のイヌワシ、クマタカが棲息する環境が破壊されようとしています。このため、公益性と合理性は失われてしまっています。

三、四年前に長良川の河口堰が完成したものの、水の売り先がなく、自治体は堰建設費の負担に悲鳴をあげています。その上、さらに徳山ダムを建設しても、水需要の見通しはたちません。

四、開発水量は、毎秒十二トン。名古屋市と同じ規模の都市が使う水の量にあたります。その名古屋市が水利権の半分を返上していますから、徳山ダムによる水需要は、とても見込めません。それどころか、水開発に伴う負担は、受益者である住民が背負わされることになります。

五、大垣市の水道は、豊富な地下水が水源ですから、安全で、おいしくて、安い。ところが、徳山ダムが完成すると、この地下水の水源を放棄して、まずくて、環境ホルモンによって汚染された危険な水を、高い料金を支払って飲まなくてはならなくなります。(県は「水源転換対策費」として七百五十万円を計上しています)

六、地下水は、大垣市民の生命を育み、暮らしを豊かに支えてきています。渇水に見舞われた平成六年、揖斐川は涸れましたが、地下水に異常はなくて、安定した市民生活を送ることができました。

七、ダムによる治水効果はありません。上流から流れ込む土砂によって埋まり、自然を破壊します。ダムが唯一、最良の洪水調節手段であるとするのは幻想に過ぎません。

八、戦後の揖斐川における主な洪水は六回。うち三回は、内水氾濫によるものです。破堤を見たのは昭和三四年八月と九月、昭和五一年九月。この三回とも、溢水によるものではありません。堤防の弱体化した部位が決壊したものです。その都度、決壊した部位を補強し整備することで、対処されてきています。

九、これらの様子から見て、揖斐川本流の水位低下を図ることで水害が防げるとは考えられません。対策としては、排水機を整備することであり、堤防の構造的欠陥をもつ部位を強化することであり、支派川の改修や浚渫、森林の保全などによって、総合的な治水対策を、水害が起こる前に施しておくことにあります。

十、ダム計画地点には、絶滅危惧種のイヌワシが四番い、クマタカが十四番い、棲息しています。これから先も、食物連鎖の頂点にたつイヌワシ、クマタカの繁殖を可能にさせるには、餌場の確保が不可欠の条件となります。

十一、イヌワシの営巣中心域は集水域ですが、餌場としている高利用域は湛水域に及んでいます。十四番いの半数の繁殖が確認されているクマタカは、営巣中心域、高利用域、ともにその範囲が湛水域にあたっています。

十二、公団は「環境保全策の基本方針」の中でダムの全流域(二五四平方キロメートル)に対する水没域(一三平方キロメートル)の面積割合は五%だから、水没しても動植物への影響は軽微だ、と説明していますが、これは計算上のこと、水没すれば、ここに棲息する動植物は百%死滅してしまいます。

十三、生態系の頂点に立っているイヌワシ、クマタカは「他の生き物によって生かされている」のですから、生態系の生産者である植物の多様性が生物の棲息と繁殖を促す鍵となります。営巣を保障し、豊富な餌を供給するには、それに見合うだけの広範囲の自然環境を必要とします。最近、低下しているイヌワシ、クマタカの繁殖成功率を高めるために、「森の力」の回復が必須の条件となります。

十四、徳山ダムの損得を計るには、失われる環境の評価こそ考慮しなければなりません。徳山ダム計画にも、時代の変化を見据えての見直しをすべきです。この六月から新しく施行される「環境影響評価」(アセスメント)を導入して、生物多様性の観点に基づいての環境保全対策を急いで立てることです。利水にしても、治水にしても、環境保全を柱とすることが今日の課題であります。

徳山ダム裁判・総合目次HOMEお知らせ