徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ




15監第192号

住民監査請求意見陳述書

2003年11月5日

名古屋市監査委員 殿

請求人ら代表  竹  内   裕  詞
  同          在  間   正  史

1.徳山ダムの費用負担
 徳山ダムは、木曽川水系水資源開発基本計画(以下、「フルプラン」という)に基づいて独立行政法人水資源機構(2003年10月1日に水資源開発公団が改組された。以下「機構」という)が建設する水資源開発施設である。完成予定は2007年とされている。
 徳山ダム建設事業の事業実施計画によれば、総貯水容量6億6000万m3、有効貯水容量3億5140万m3で、うち、新規利水容量は、非洪水期1億6600万m3、洪水期1億2900万m3で、これにより、最大12m3/秒の新規の水道用水および工業用水(都市用水)の取水を可能とする補給、つまり新規水資源開発を目的としている。この最大12m3/秒のうち、名古屋市の水道用水は最大2m3/秒、工業用水は最大1m3/秒である。 徳山ダムは新規利水のほかに、洪水調節、流水の正常な機能維持、および発電を目的とし、新規利水目的の費用負担割合は、1000分の368とされている。
 事業費は、1998年(平成10年)1月に変更された事業実施計画でも、昭和60年度単価で2540億円とされていた。しかし、機構は、本年8月8日に、事業費を2540億円から3550億円に1010億円、約4割増額変更すると発表した。
 現行事業実施計画の費用負担割合によれば、現行の2540億円および増額発表の3550億円についての新規利水の供給地域毎の費用負担の割合、額は次表の通りとなる。

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2.事業費増額と利水者の費用負担の同意
 水資源開発施設を利用して流水を水道若しくは工業用水道の用に供する者は、当該水資源施設の建設及び管理に要する費用を負担しなければならない(水資源機構法25条1項)。この流水を水道や工業用水道の用に供する者とは、流水を用いて水道や工業用水道の事業を行う者であり、名古屋市においてこれらの事業を行っているのは水道事業者及び工業用水道事業者である名古屋市上下水道局である。
 機構が水資源開発施設建設事業の事業費を正式に増額するためには、水資源開発施設建設事業の事業実施計画を変更して国土交通大臣の認可を受けなければならないが(水資源機構法13条1項)、あらじかめ、水資源開発施設を利用して流水を水道や工業用水道の用に供する者から上記水資源機構法25条1項の規定による費用負担について同意を得なければならない(水資源機構法13条3項)。この費用負担の同意をすることによって、水資源開発施設を利用して流水を水道や工業用水道の用に供している者は、機構に対して当該水資源開発施設の建設費等の水資源機構法25条1項の規定による費用負担の義務を負うことになる。したがって、水資源開発施設を利用して流水を水道や工業用水道の用に供する者のする費用負担の同意は地方自治法242条の債務、少なくとも義務の負担行為である財務会計行為に当たる。
 上記のように機構により、徳山ダム建設事業費が3550億円に1010億円・約40%増額することが明らかにされた以上、機構によって徳山ダム建設事業の事業実施計画が事業費について増額変更されるので、近く機構から、利水者である名古屋市(正確には、徳山ダムを利用して流水を水道や工業用水道の用に供する上水道事業者及び工業用水道事業者である名古屋市上下水道局)は、あらかじめ、その費用負担の同意を求められる。事業費は水資源機構法13条1項、同法施行令2条のよって事業実施計画に記載しなければならない事項であり、また、事業実施計画の変更に伴う費用負担の同意は、水資源機構法13条3項に基づいて必ずしなければならないものである。したがって、名古屋市水道事業管理者兼名古屋市工業用水道事業管理者である名古屋市上下水道局長、場合によっては市長において、事業実施計画の事業費の増額変更に伴う費用負担同意についての行為(同意又は不同意)がなされることは確実である。

3.名古屋市の水需給実態
 上記のように、名古屋市は徳山ダム開発水のうち、水道用水として最大2m3/秒、工業用水として最大1m3/秒を利用することとされている。
 しかし、水道用水も工業用水も、名古屋市では、需要実績は現時点での確保水量はもちろん施設供給能力を大きく下回っている。このことは事実証明の資料2p1・2、資料3p5〜16で明らかにされているが、以下に要約して述べる。詳しくは、これらの資料を見られたい。
1) 水道用水
 日平均給水量は、1975年度(昭和50年度)が974,850m3、1998年度(平成10年度)が877,118m3で、期末の1998年度は期首の1975年度に比べて減少している。そして、この24年間の給水量の動きは、増減の変化、特に1992年度(平成4年度)の増加ピークはあるが、1975年度の給水量を上回ることはなかった。そして、1992年度の後は、減少から横ばい傾向にある。
 日最大給水量は施設計画の基礎になる給水量である。日最大給水量は、1975年度(昭和50年度)が1,235,140m3、1998年度(平成10年度)が1,167,930m3で、この24年度間の最大給水量の動きは、1975年度の給水量が最大で、これを上回る年度はなく、その他の傾向についても、平均給水量と同じである。
 以上のように、給水量を変化させる個別の要素の検討の前に、最終的な数値である日給水量についての1975年度以降の推移をみると、平均給水量も最大給水量も、減少または横ばいである。
 将来予測において計算の基礎になるのは1人1日給水量、それも1人1日平均給水量である。1人1日平均給水量は、1975年度(昭和50年度)が456L、1998年度(平成10年度)が389Lで、期首の1975年度に比べて、期末の1998年度は85%に減少している。そして、この24年間の動きは、1975年度から年々減少し、1987年度から増加するが、1992年度をピークにしてその後減少し、1995年度以降は横ばいである。この間、全体としては減少傾向で、1975年度の1人1日平均給水量を上回ることはなかった。
 1人1日家庭用給水量は、1975年度(昭和50年度)の269Lが1986年度(昭和61年度)の270Lに漸減から横ばいに推移し、その後増加して、1992年度(平成4年度)の304Lをピークにして、1993年度(平成5年度)以降は300L程度で、漸減から横ばいに推移している。
 結局、1人1日家庭用給水量は、1986年度までの270Lが、いわゆるバブル経済期を経て増加して、1992年度の304Lをピークにして頭打ちになり、1993年度以降は300L程度で横ばいである。
 家庭での水使用量で多いのは、水洗便所、風呂、洗濯である。したがって、家庭用給水量の増加要因は、便所の水洗化や家庭風呂の普及である。また、風呂のように世帯単位で最低必要な量がある。したがって、核家族化や単身者世帯の増加によって、世帯が細分化すれば(世帯当たり人数の減少となって現れる)、1人当たり家庭用給水量は増加する。
 便所の水洗化、家庭風呂・浴室の普及が100%になり、世帯の細分化が限界になれば、家庭用給水量は基本となる増加要因が無くなり、その増加は頭打ちになる。名古屋市は、1992年度には、下水道普及率も家庭風呂普及率も90%を超え、世帯の細分化も進んでいる。そして、バブル経済の好況感もあり、名古屋市は、1人1日家庭用給水量を増加させる要因が進行し、1992年度には、限界近くに達したものとみられれる。
 1人1日有収水量(資料2p1、4 ━ 印)と1人1日一般家庭用給水量(●印)との差の部分が、1人1日業務用給水量である。業務用給水量は都市活動用水の給水量で、家庭用給水量の上乗せ分であり、これが年々増加しておれば将来の給水量は増加する可能性があるので、検討の必要がある。この差の部分の推移をみると、1975年度(昭和50年度)の75Lが1986年度(昭和61年度)の56Lに減少し、その後増加して1990年度(平成2年度)の63Lに増加して、その後また減少に転じ、1996年度(平成8年度)に53Lになって、その後54Lで横ばいに推移している。
 1986年度からのバブル経済期には、都市活動が活発になり、都市活動用水の業務用の使用量が増加し、1人1日水量では70L程度に増加したが、経済のバブル崩壊後は業務用使用量は大幅に減少し、1996年度からは、1人1日水量では53L程度に減少している。名古屋市では、1人1日業務用給水量は、バブル経済期において達した63L程度が限界であり、それ以上は増えないのである。
 以上のように、これまでの実績を踏まえれば、1人1日の家庭用給水量も業務用給水量も今後は増加せず横ばい傾向であると予測される。今後、人口減少化傾向によって給水人口の減少が予想されるので、1人1日給水量に給水人口を乗じた日給水量は、増加は見込まれず、横ばいまたは減少が予測される。
 徳山ダムは木曽川水系フルプランに基づく水資源開発施設であるが、フルプランに関して行政評価した総務省『水資源に関する行政評価・監視結果に基づく勧告』平成13年7月(資料4)5頁でも、「(基本計画に記載される水の用途別の需要見通しは)、的確な需要見通しであることが求められるが、上記@bのとおり需要見通しと需要実績がかい離している状況からみて、実績を踏まえた的確な見通しをすることが重要である。」と指摘している。
 名古屋市水道の供給体制は以下の通りである。名古屋市水道は、自流7.56m3/秒、岩屋ダム11.94m3/秒、味噌川ダム0.5m3/秒の合計20.00m3/秒の水利権水量を有している。これによって供給可能な施設能力は、名古屋市が計画で用いている施設能力/取水量0.93を用いれば、160.7万m3/日であり、資料2p2の太黒色実線である。しかし、名古屋市水道の給水施設能力は142.3万m3/日であり、18.4万m3/日が利用されておらず余剰となっている。そのうえ、そのほかに、名古屋市水道は長良川河口堰で2.00m3/秒の開発水を有しているが、取水施設、導水施設もなく、水利権許可も得ていない。
 1998年度(平成10年度)までの給水量の実績の推移から、今後、日最大給水量が供給能力160.7万m3/日を超えるような連続性傾向を予想することは困難である。実績の推移からの連続性からは、実績の最大値である1975年度の1,235,140m3/日を超えるかどうかであろう。したがって、すでに開発された長良川河口堰の2m3/秒はもちろん、徳山ダムの2m3/秒は全く使用される見込みがない。
2) 工業用水
 名古屋市工業用水道は、北、西、中村、熱田区の全部、および、中、瑞穂、南、中川区の各一部を供給区域としており、名古屋地域の工業用水の供給を、愛知用水と分け合っている。名古屋市工業用水道の供給能力は14.0万m3/日である。資料2p15で明らかなように、1995年度(平成7年度)や1998年度(10年度)までの日補給水量(◇印)や日配水量(□印)の実績の推移から、これに連続して、供給能力14.0万m3/日を超えるような連続性傾向を予想することは困難である。実績の推移からの連続性からは、供給能力14.0万m3/日を超えるようにはならないと予測される。
 なお、徳山ダムの名古屋市の工業用水は、既存の水源(庄内川、下水処理水)の代替とも説明されている。この関係で重要なのは給水料金である。もし、徳山ダムの開発水を名古屋市工業用水道が使用しようとすると、支払わなければならないダムおよび取水・導水施設の建設費と管理費に基づいて、給水料金は、現行料金(基本料金・責任使用水量m3当たり25.5円)から大幅な値上げをしなければならない。しかし、このような大幅な料金値上げは既存の需用者企業に受け入れられない。また料金値上げをすれば、工業用水道から給水を受けなければならない企業では節水が一層進むことは間違いないし、また、新規に大口の給水契約をする企業もない。その結果、徳山ダムと取水・導水施設を建設して、既存水源の代替として徳山ダム開発水を利用しても、建設投資を回収する料金収入が得られないことになる。

4.取水・導水施設の計画もない
 名古屋市水道や工業用水道が徳山ダム開発水を利用するには、揖斐川で取水して名古屋市まで導水する 施設が必要になる。名古屋市水道と工業用水道にとって、徳山ダムに加えて取水・導水施設が建設されて初めて徳山ダム開発水が利用できるようになるのであり、徳山ダムだけでは何の意味もない。水資源開発への投資の可能性や許容性は水源施設だけでなく取水・導水施設も含めて検討しなければならない。
 取水・導水施設の建設・管理は、利水者の責任においてなされるべきものである。国も同様の見解である。したがって、名古屋市の水道事業や工業用水道事業が徳山ダム開発水を利用するには、まず、名古屋市の水道事業者や工業用水道事業者である上下水道局が取水・導水施設を自ら建設しなければならない。そのほかに、機構が共同施設として取水・導水施設を建設し、名古屋市水道事業や工業用水道事業がその費用負担をする方法もある。しかし、これは木曽川水系フルプランの内容となっておらず、そのためにはその変更が必要であるが、その動きもない。名古屋市水道事業や工業用水道事業に徳山ダム開発水を利用する意思があるならば、名古屋市の水道事業者や工業用水道事業者である上下水道局が取水・導水施設を自ら建設しなければならないのである。
 徳山ダム開発水の取水・導水施設の建設事業は、名古屋市においても、機構等においてもその計画もない。名古屋市には、取水・導水施設を自ら建設する意思が全く見られない。したがって、名古屋市にとって、徳山ダム開発水は全く利用できないものなのである。
 上記のように、徳山ダム開発水を揖斐川から取水して導水する施設の建設計画がなく、それが真剣に考えられている様子が全く見られない。それは、徳山ダム開発水を、取水・導水して名古屋市が利用できるようにしても需要がなく、建設の意味がないからである。
 また、「近年少雨傾向にあり、現在、木曽川水系のダム依存水利権の利水安全度は低下しており、渇水対策の必要性があり、徳山ダム開発水はそのために必要である」と国土交通省等によって喧伝されている。それが本当なら、それは将来のことではなく、今、現在のことであるから、今すぐに対処しなければならないことである。名古屋市等が徳山ダム開発水を直ちに利用できるように、揖斐川からの取水・導水施設を今すぐ建設しなければならないはずであるが、その事業着手はもちろん計画もない。言うところの、利水安全度の向上や渇水対策のために徳山ダム開発水を名古屋市等が利用できるようにする意味がないからである。
 特に、名古屋市水道の水源は、水利権水量20.00m3/秒のうち、河川自流がある限り取水できる取水制限を受けない自流水利権が7.56m3/秒あり、これは施設能力142万m3/日のため必要な17.72m3/秒(利用量率を0.93で計算した。以下同じ)の約42%、過去最高の日最大給水量124万m3/日のため必要な15.43m3/秒の約49%を占めている。名古屋市水道は現状において、渇水によってダム依存水利権12.44m3/秒の取水制限があっても、給水に影響を受けない渇水に強い水源を有しているのである。利水安全度の向上や渇水対策のために、これ以上、水源を確保する必要がない、むしろ水源投資として余分な過剰投資であるのですべきでないのである。長良川河口堰の開発水でも利用する意味がないので取水・導水施設の建設をしていないのである。そのうえ、徳山ダム開発水を利用する意味がないのである。
 結局、徳山ダム開発水の取水・導水施設の建設計画が全くないのは、徳山ダム開発水に需要がなく、また、その利用の意味がないこと何よりの証拠である。
 取水・導水施設がなければ徳山ダム開発水を得ても利用できないので、その費用負担は投資として意味がない。他方、このうえ取水・導水施設を建設しても、水需要がないのでそれは回収できない余分な負担をさらに生んで、事業経営は一層破綻に追い込まれる。長良川河口堰での三重県企業庁がその典型例である。この取水・導水施設がないことによる問題を解決するため名古屋市に残された道は、徳山ダム建設事業から事業の撤退をすることである。
 なお、平成14年度の名古屋市上下水道局の行政評価・事務事業評価で、水道事業も工業用水道事業も徳山ダム建設事業への参加が評価対象となっているが、その外部評価委員の評価は、名古屋市水道の水源の特質や水量、需給実態、取水・導水施設の不存在、また、地方公営企業としての投資許容性(料金による回収可能性など)に関する検討をしておらず、外部評価として落第である。外部評価としてしなければならないのはこれらについて検討して評価することである。また、工業用水道事業について、建設中の負担金の支払のために、公害対策である地盤沈下対策の名目で一般会計から工業用水道事業会計に出資による繰入が行われているが、地盤沈下の原因は企業の地下水過剰汲み上げであるので、地下水代替のための工業用水道事業の費用は原因者である企業が全額を負担して行わなければならない。出資は繰入金は返済を要しないものであって、上記出資は原因者負担という公害対策原則(これは例外を許さない根本原則である)に違反してる。外部評価はこのことについても何も検討して評価していない。

5.使う見込のない水資源の開発のために費用支弁することは許されない
 水道事業と工業用水道事業は、地方公営企業として、特別会計を設けて経営収入(料金収入)によって費用支弁をする独立採算が地方財政法6条によって義務づけられている。ダム開発水を使用するために必要なダム建設費と取水・導水施設の建設費は水道事業や工業用水道事業を行う上下水道局が負担し、その支払いは料金によってすべきものである。
 徳山ダム開発水を得ると、その建設費と維持管理費の支払を徳山ダム開発水を利用していなくてもしなければならない。また、徳山ダム開発水を利用するには取水・導水施設が必要であり、この建設費と維持管理費の支払いも必要である。地方公営企業の経営収入(料金収入)による独立採算義務(地方財政法6条)からは、費用の支払ができるように料金を設定しなければならない。特に、水需要が横ばい、減少している以上、料金を著しく増額にしなければ、これらの建設費・維持管理費や費用負担金の支弁ができない。大幅な料金値上げが必要であり、必ずしなければならない。この度の徳山ダム事業費の約40%の増額によって、さらに料金値上げが必要になった。
 しかし、大幅な料金値上げは需用者に受け入れらない。特に、使われない水のために料金を値上げすることは需用者に受け入れられない。そのうえ取水・導水施設もない未利用水のための料金値上げは一層受け入れられない。もし、料金を値上げすれば、名古屋市の水道や工業用水道では節水が一層進むことは間違いない。その結果、名古屋市が徳山ダム開発水を得ても一層需要がなくなり、料金収入が入らないことになる。
 料金値上げができなかったり、また、需要がないために料金収入がなければ、徳山ダムの費用負担金等の支払財源が無くなる。これは水道事業や工業用水道事業の地方公営企業としての経営を圧迫し、事業は破綻に追い込まれる。結局、最後は、取水・導水施設がない長良川河口堰の費用負担金と全く同様に、一般会計から繰り入れて支払う以外に方法がない。取水・導水施設がなく利用されない徳山ダムの費用負担金の支払いのためだけに一般会計からの繰入、つまり税金注入が行われるのである。このような建設改良としての意味がないことに対する一般会計からの繰入補填は、地方公営企業の経営収入による独立採算制という地方財政法6条に違反する違法な措置である。また、一般会計から、本来それが目的とする住民一般の福祉に用いられるべき資金を、使うあてがない地方公営企業の投資のために奪うものであって、違法である。
 そのため、旧自治省(現総務省)は、地方財政に関する通達で、地方公営企業に関して、「水道事業及び工業用水道事業については、その建設投資計画の策定に当たって経営環境の変化を踏まえ、従来にも増して的確な需要予測を行い、投資規模の適正化に配慮する……。なお、既に建設に着手している事業についても、水需要の動向に配慮しつつ、必要に応じ建設投資の進度調整を行うこと。特に工業用水道事業について、……専用施設計画が熟していない段階での新規水資源開発については慎重を期されたいこと」1988年5月30日事務次官通達とか、「水道事業及び工業用水道事業における新規の水資源開発については、……多額の事業費を要することによる資本費負担の増大が事業経営の悪化を招来することにかんがみ、従来にも増して的確な需要予測を行い、当該水資源開発の必要性、投資規模等について慎重に検討のうえ対処すること」1989年1月30日財政局財政課長内かんのように、10年以上前から、的確な水需要予測を行って、過剰な水資源投資を抑制することを通達している(資料6)。
 この問題については、在間正史『水資源政策の失敗−長良川河口堰−』113頁以下(資料5)において詳しく論じているのでこれを参照されたい。
 違法な一般会計から水道事業及び工業用水道事業会計への繰入をしなくてもよいようにするためには、名古屋市は、まもなく機構から求められる事業費を増額する事業実施計画の変更についての費用負担に同意せず、同時に、徳山ダムを利用して流水を水道および工業用水道の用に供する新規利水から撤退することである。これが名古屋市にとって最適の選択である。
 本年7月に、水資源機構法13条3項および5項、同法施行令30条〜32条によって、事業からの撤退や事業の廃止のルールが規定された。機構による水資源開発施設建設事業から利水者が撤退することは、法令上可能な当然のこととして認知された。

6.事業費増額に対する費用負担の同意は強制されない
 水資源開発施設を利用して流水を水道や工業用水道の用に供する利水者が水資源機構法25条1項の規定による費用負担について水資源機構法13条3項の同意をするか否かは、当該利水者の自由であって、同意は強制されない。これは、事業実施計画の変更の場合も同じである。むしろ、上記のように、利水者は地方自治法や地方財政法等に違反しないように適正な判断をして同意するか否かしなければならないのである。

7.結論
 よって、名古屋市水道事業管理者兼名古屋市工業用水道事業管理者たる名古屋市上下水道局長及び市長に対して、次の通りの勧告を求める。
 機構に対し、事業に要する費用の概算額の変更など徳山ダム建設事業に関する事業実施計画の変更に際して、流水を水道または工業用水道の用に供する者としての水資源機構法13条3項に規定する同法25条1項の規定による費用負担について、その同意をしないこと。



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