徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


徳山ダム裁判 住民訴訟訴状

当事者の表示
請求の趣旨
請求の原因
第一、当事者
第二、徳山ダムの開発水、特に工業用水は需要が無い
第三、徳山ダムの建設費負担額
第四、需要の見込まれない工業用水の開発計画、負担、負担の転嫁はしてはならない
第五、徳山ダムの工業用水負担の支出は違法である
第六、結論



              訴   状



 平成一一年三月一日

原告ら代理人弁護士  在  間  正  史
    同      笹  田  参  三
    同      山  田  秀  樹
    同      籠  橋  隆  明
    同      竹  内  裕  詞

 岐阜地方裁判所 御中

               公金支出差止等請求事件

 訴訟物の価額 金九五万円(算定不能による見なし額)
 貼用印紙額  金八、二〇〇円

  当 事 者 の 表 示
 原  告    別紙原告等目録記載の通り(上田武夫外四二名)
 原告ら代理人 別紙原告等目録記載の通り(在間正史外四名)

 岐阜市藪田南二丁目一番一号 〒五〇〇ー八五七〇
  被  告   岐阜県県知事 梶  原   拓
 岐阜市藪田南二丁目一番一号 〒五〇〇ー八五七〇
  被  告   岐阜県出納長 藤  田  幸  也
 岐阜市藪田南二丁目一番一号 岐阜県庁知事室内 〒五〇〇ー八五七〇
  被  告          梶  原   拓


第一 当事者

 原告らは、請求の趣旨と同一内容の地方自治法第二四二条第一項に基づく住民監査請求を岐阜県監査委員になし、平成一一年二月九日に、その監査結果の通知を受けた(甲一の一、二)。同監査結果は原告らの住民監査請求を認めないものであり、原告らは不服がある。
二、被告ら
 被告岐阜県知事は請求の趣旨記載の支出命令を、被告岐阜県出納長は請求の趣旨記載の支出の権限を有している。また、被告梶原拓(以下、梶原という)は、平成元年二月以降、岐阜県知事の職にある。

第二 徳山ダムの開発水、特に工業用水は需要が無い

一、木曽川水系水資源開発基本計画と徳山ダム
 徳山ダム(以下、徳山ダム)は、木曽川水系水資源開発基本計画(以下、フルプラン)の一つの水資源開発施設であり、水資源開発公団(以下、公団)が建設する。計画では、新規利水として一五・〇m3/秒・最大を取水し、そのうち、岐阜県分は工業用水として三・五m3/秒、水道用水として一・五m3/秒、愛知県分は水道用水として四・〇m3/秒、名古屋市分は水道用水として五・〇m3/秒、工業用水として一・〇m3/秒であった。この新規利水一五・〇m3/秒は、一九七年一二月、名古屋市の水道用水のうち三・〇m3/秒が返上されて、一二・〇/秒となった。(甲二の二)
 徳山ダムを含むフルプランは、一九七三年(昭和四八年)に、目標年次を一九八五年にして全部変更・第二次として閣議決定された(旧フルプラン)。その後新しいフルプランが決められず、目標年次の七年後の一九九三年に、新フルプランが目標年次を二〇〇〇年にして改定(全部変更・第三次)されて閣議決定された。その際、徳山ダムはこの目標年次以降のものとされた。
 徳山ダムは、旧フルプランに基づき一九七六年四月、建設大臣から水公団に建設事業についての事業実施方針の指示があり、同年九月、水公団は事業実施計画についての建設大臣の認可を得た。
二、新フルプラン改定時において、水需要の見込みが無かった
1、改定が七年も遅れた旧フルプラン
 木曽川水系等の水資源開発促進法(以下促進法)の指定水系における水源開発は、水資源開発基本計画に基づいて行われる。
 ところが、木曽川水系では、前記一のように旧フルプランの目標年次の一九八五年が過ぎても、改定が行なわれず、約七年間もフルプランなしで水源開発を行なう異常な状態が続いた。
 改定がこれだけ遅れたのは、水需要について、旧フルプランの計画と実績とが大きく乖離したからである。旧フルプランでは、一九八五年には都市用水(工業用水+水道用水)の木曽川水系からの依存量(最大取水必要量=需要量)が一三二m3/秒になる予測で、そのうち一一〇・四m3/秒を供給する計画であったが(図1現行フルプランS60計画値)、同年の水需要実績は三七m3/秒であった(図1S60現実値)。
 都市用水は、一九七〇年頃の高度経済成長終焉後は、横這いか、わずかな増加傾向しか示さなくなっている。そのわずかな増加の要因は、主に水道用水であり、工業用水は横這いである。この都市用水の動向は変わるものではない。
 このように旧フルプランの水需要予測は実績とかけ離れているにもかかわらず、旧フルプランに基づく岩屋ダム・木曽川総合用水、三重用水、阿木川ダム、長良川河口堰、味噌川ダム、徳山ダム(合計供給量・最大八六・七m3/秒)の建設事業が進められていった。岩屋ダム・木曽川総合用水は一九八二年に完成したが、残りの水源開発事業は工事中または調査中のまま、旧フルプランは期限切れとなった。
 旧フルプランの水源施設では、完成済みの岩屋ダムによる開発水量の大半が、旧フルプラン期限切れの一九八五年以来、現在も残っている(図2、甲四嶋津)。それゆえ、実績に基づいて水需要予測を修正すれば、進行中の旧フルプランの水源開発事業のほとんどが不要なものになってしまう。旧フルプランの改定が七年も遅れたのはこのためである。
2、既開発水の利用実態
 旧フルプランの水源施設のうち、岩屋ダム・木曽川総合用水(都市用水・最大三九・九五m3/秒)は一九八二年度に完成して用水供給を行なっており、また、阿木川ダム(最大四m3/秒)が一九九〇年度に完成した。旧フルプラン期限切れ時から改定時までのこれらの使用実態は次の通りであった。
 岩屋ダムによって供給される工業用水二〇・四三m3/秒は、愛知県(六・三m3/秒)では、名古屋臨海工業用水道第一期(配水能力二〇万m3/日)と尾張工業用水道第一期(同二九万m3/日)の水源とされ、また、三重県(九m3/秒、移譲前のもの)では、北伊勢工業用水第四期(同七二万m3/日うち、前期、後期各三六万m3/日)の水源となっている。岐阜県(五・一三m3/秒)では、それを水源とする工業用水道事業が行なわれていない。(甲五富樫4)
 これらの工業用水道のうち、名古屋臨海第一期と北伊勢第四期の後期は、配水施設が造られていなかったりして、工業用水道として供用されていない。岐阜県は右記のように工業用水道事業自体を行っていない。また、他の供用されている工業用水道もその利用率は五〇%程度であった。この利用率五〇%程度は岩屋ダム以外の水源施設による愛知用水第四期、北伊勢第一〜三期も同様である(甲五富樫4、5)。
 岩屋ダムによる都市用水開発水量(最大・三九・五六m3/秒、三四二万m3/日)のうち、一九八五年の実績は、最大取水量で約一二六万m3/日=一四・五八m3/秒、平均取水量で約一一〇万m3/日であった。最大取水量で約二一六万m3/日=二五m3/秒、平均取水量で約二〇〇万m3/日、即ち、開発水量の約六三%が余っていたのである(甲四嶋津、図2)。
 木曽川流域でみると、用水供給能力(日平均)は、一九九一年で七六〇万m3/日、施設が完成した阿木川ダム、施設の着工がされた味噌川ダムを含めると八一八万m3/日である。これに対し、水利用実績は、一九九一年で六一七万m3/日である。用水供給施設能力の余剰は、岩屋ダムだけで一四三万m3/日・約一九%、阿木川ダム、味噌川ダムも含めると二〇一万m3/日・約二五%になっている。(図2)。
3、実績と乖離した新フルプラン
 右記2の事実のもとに、一九九三年三月にようやく旧フルプランの改定が行なわれた。進行中の水源開発事業のうち、徳山ダムは、完成時期をフルプランの目標年次の二年先の二〇〇二年に延ばして計画の対象外にされた。また、長良川河口堰の工業用水(新規補給水)について、愛知県は〇・八m3/秒、三重県は〇・三m3/秒の需要を見込もうして、水源開発事業の根拠が失われない形に水需要予測が下方修正された。愛知県は、二〇一〇年での工業用水需要を〇・二m3/秒にさらに下方修正している。
 しかし、これは実績を無視している。旧フルプランと比べれば、下方修正であるとはいえ、新フルプランの水需要予測は依然として実績との乖離が大きく、過大である。
 図2は水需要(日平均水量)の実績とフルプランの予測を比較したものである。フルプランによる一九八五〜二〇〇〇年の一五年間の都市用水増加量の予測は、約三三〇万m3/日である(八九七万ー五六九万)。一方、一九八五〜一九九二年の実績を二〇〇〇年まで直線的に延長すると、一九九八年〜二〇〇〇年の一五年間の増加量は一〇五万m3/日であるから(六七四万ー五六五万)、新フルプランの予測はこれに対して約三倍の過大予測になっている。
 木曽川水系における一九九二年の保有水源は三重用水と阿木川ダムの完成で約八〇〇万m3/日である(図2)。実績からの直線的な延長で得られる二〇〇〇年の水需要は六七四万m3/日であるから、二〇〇〇年において、保有水源に約一二〇万m3/日の余剰があることになる。一九八五〜一九九二年は、都市用水が例年なく増加したバブル経済期を含む期間であるが、この期間の実績を直線的に延長しても、二〇〇〇年において、一九九二年の保有水源のままで水需給の余裕は十分にある。徳山ダムや長良川河口堰を始めとする新たな水源施設は無用の施設である。
4、フルプランの工業用水の需要予測が水実績と乖離する理由
イ、実績との比較
 新フルプランによれば、二〇〇〇年には木曽川水系の工業用水の新規補給水量(日平均)が一九八五年の実績(三一七万m3/日)の約一・六倍である四九一万m3/日まで増加することになっている(図2)。この一五年間の増加見込み量は一七〇万m3/日である。
 これに対し、一九九二年の実績は三二五万m3/日・平均で、一九八五年(実績三一七万m3/日)から七年間の増加量は八万m3である。これを直線的に延長して、一九八五年から二〇〇〇年までの一五年間の増加量を求めると、一七万m3/日にしかならず、一九八五年からの増加率は一・〇五倍にとどまる。このようにバブル経済期を含む期間でも、実際の増加量はきわめて小さく、横這いに近い状況にある。
 今後はバブル経済の再来はないから、殆ど横這いが続くと考えてよい。したがって、二〇〇〇年は勿論、二〇一〇年も、また、二〇二〇年も工業用水量は、一九九二年実績三二五万m3/日程度の横這いと考えるのが精確な予測である。新フルプランの工業用水需要予測は実績と全くかけ離れている。
ロ、増加しない工業用水量
 フルプランの予測は、将来の工業出荷額と補給水原単位(単位出荷額あたりの工業用水補給水量)をそれぞれ推計し、両者を乗じて、将来の工業用水量(補給水量)を求める手法がとられている。
 しかし、この手法で将来の工業用水量を予測することができない。高度経済成長終焉後の工業出荷額の増加は、用水非消費型産業の生産の増加と、用水多消費型産業における付加価値の高い用水非消費型製品への移行によっており、工業出荷額が増加しても、工業用水量は増えない状況になっている。要するに、工業出荷額が増えても、それは水をあまり使わない部門での増加であり、工業出荷額は工業用水量の増加要因にはならなくなっているのである。
 このことは、工業出荷額の増加にほぼ反比例して補給水原単位が減少してきている事実で説明することができる。工業統計表から木曽川水系の工業出荷額と補給水原単位(工業出荷額当たりの工業用水補給水量)を求めると、表1に示すとおり、一九八五〜一九八五年の七年間に工業出荷額は一・三六倍になっているが、一方、補給水原単位は〇・七六倍に減少している。一・三六の逆数は〇・七四であるから、工業出荷額の増加は補給水原単位の減少によってほぼ相殺され、一九九二年の工業用水量は一九八五年と同じような値にとどまっている。このように工業出荷額が増加しても、補給水原単位はほぼ反比例的に減少していくので、工業出荷額が増えても工業用水量はほぼ横這いに近い状態にとどまる。
 工業出荷額が増えても工業用水量はほぼ横這いに近い状態にとどまることは、甲五富樫Aでも示されている。また、甲五Aでは、工業出荷額が増大しても、工業用水使用量は減少していることが示されている(これは、工業出荷額が増大すると、工業用水使用量が増大するというこれまでの説明を否定する重要な事実である)。
 このよう工業出荷額が増えても工業用水量はほぼ横這いに近い状態にとどまっているのは、前述のように、工業出荷額の増加が水をあまり使わない業種、水をあまり使わない製品の生産増によっているからである。
5、以上のように、フルプラン改定時において、徳山ダムの開発水、特に工業用水は目標年次の二〇〇〇年は勿論のこと、二〇一〇年、二〇二〇年にも需要が無く、徳山ダムは無用の施設であることは明らかであった。
 したがって、旧フルプラン期限切れの一九八五年以後すみやかに、特に新フルプラン改定時に、徳山ダムはフルプラン改定を行って、中止されるべきであった。
三、岐阜県における工業用水の需要がない実態
1、岐阜県の工業用水は、旧フルプランで岩屋ダム五・一三m3/秒、徳山ダム三・五〇m3/秒の計画がなされたが、工業用水需要、特に木曽川水系河川水に依存する工業用水需要がなかった。岐阜県では、一九八二年に岩屋ダムが完成したものの、それが水源となる工業用水五・一三m3/秒について、工業用水道の建設が行われてこなかった。
 したがって、岐阜県では、工業用水道の料金収入が岩屋ダムの建設負担の財源となることはあり得ない。
2、岐阜県では、工業用水道がなかった。その結果、地方公営企業である工業用水道事業がなかった。
 ダムの利水負担は、地方財政制度上、一般会計ではなく、独立採算制の地方公営企業である工業用水道事業、水道用水事業のものである。したがって、遅くとも、徳山ダムや岩屋ダムの建設負担の支払が開始された時から、岐阜県では、地方公営企業である工業用水道事業が設置され、地方財政制度として、工業用水道事業特別会計が設けられなければならない。愛知県でも、三重県でも、工業用水道事業は企業庁が事業を実施し、独立採算制の工業用水道事業特別会計によって財政処理されている。
 しかし、岐阜県では、岩屋ダムの建設負担の支払が始まった一九七八年においても地方公営企業である工業用水道事業が設置されなかった。そして、現在までも、工業用水道事業特別会計を設けて、工業用水道に関する利水負担、浄水施設等の建設、給水、施設の維持管理など、工業用水に関することを全て扱う地方公営企業である工業用水道事業がない。これは、異常な状態である。その理由は、工業用水の需要がないので、地方公営企業として工業用水道事業を設置しても、工業用水道施設の建設をしないし、同施設の建設をしても工業用水が売れないからとみて間違いない。
 そのため、岐阜県では、徳山ダムはもちろん、岩屋ダムの建設費負担について、独立採算制の工業用水道事業特別会計が設けられて支払がなされるのではなく、一般会計から直接に支払がなされている。これは、地方財政制度上、地方財政法(以下地財法)六条に違反する違法な事態である。
3、岐阜県では、岩屋ダムの工業用水五・一三m3/秒のうち、暫定として、〇・一七三m3/秒を水源とする可茂工業用水道一・三五万m3/日について、一九九五〜一九九七年度にかけて導水管、既存企業四事業所への配水管の建設がなされ、一九九八年度から既存企業への原水による供給(計画給水量〇・六九二m3/日)が開始された。しかし、浄水施設の建設や残りの計画給水量〇・六五八万m3/日については具体的見通しがない。
4、結局、岐阜県の工業用水は需要がないので、岩屋ダムの供給水量五・一三m3/秒のうち、工業用水道の建設と給水は、暫定の可茂工業用水道についての〇・〇八九m3/秒(計画給水量による按分量)、岩屋ダム供給水量の一・七%が行れているだけである。それ以上に、岩屋ダムや徳山ダムを水源として、工業用水道を建設する具体的見通しはない。したがって、岐阜県では、岩屋ダムはもちろん、徳山ダムについても、建設負担金の原資となる工業用水道料金収入が皆無に等しく、また将来的にも見込まれない。岐阜県では、岩屋ダムも徳山ダムも、その工業用水建設負担金の支払ができない。
 右記のことは、一九九〇年フルプラン期限切れ時も、一九九三年新フルプラン改定時でも明らかなことであり、原告らを始めとする住民・識者が常に指摘していたことであり、予測されたことである。

第三 徳山ダムの建設費負担額

 徳山ダムの建設費は二五四〇億円(一九八五年度単価)とされ、この建設費負担は、新規利水用途の事業費用割振り割合(三六八/一〇〇〇)と水量に応じて、各利水毎に分けられる。岐阜県の工業用水の建設費負担は二八一・九四億円となる。工業用水建設費負担分は国庫補助(補助率三〇%)があり、これを差し引いた残額は前記建設費に対しては一九七・三八億円である。同残額については、公団が財政投融資から借り入れ、徳山ダム完成後に利水側へ転嫁する。しかし、同残額の三〇%について、後記表「徳山ダム建設費、岩屋ダム建設費支払い額」記載のように、徳山ダム完成前に、一七七八年度から、岐阜県によって支払がなされている。(甲二の一、二)。
 原告らは、一九九八年五月下旬に、岐阜県開発企業局水資源課職員から同表記載の支出の事実を聞き、このことを始めた知った(甲二の一)。

第四 需要の見込まれない工業用水の開発計画、負担、負担の転嫁はしてはならない

一、工業用水道事業の独立採算制
 工業用水道事業は地方公営企業であって、独立採算制であり、その経理は特別会計を設けて行なければならない(地財法六条、地方公営企業法・以下地公企法一七条の二)。工業用水道事業の経費は、負担区分に基づき地方公共団体の一般会計等において負担するもの(工業用水道を公共の消防のための消火栓に要する経費その他工業用水道を公共の消防の用に供する経費・地公企法八条の五)を除き、その経営に伴う収入である給水料金をもって充てなければならない。短期的には収入には給水料金の外に企業債も含まれているが、企業債は給水料金で償還されるので、最終的な収入は給水料金である。特に、工業用水道事業は、事業による利益を受ける需要家が特定の工場、事業所に特定しており、不特定多数の一般市民ではないので、独立採算制の必要性は特に高い。
 したがって、工業用水道事業は、その水源開発を始めとする建設費は、給水収益をもって支払に充てなければならない。
二、需要の見込まれない工業用水の開発等はしてはならない
 工業用水道の独立採算制からすれば、需要のあること、つまり、給水収益のあることが事業実施の前提である。需要の見込まれない水源開発、供給設備建設、費用負担をすれば、給水収益がないので、これらの建設費等の負担は、その財源がないことは明らかである。
 したがって、独立採算制の工業用水については、需要の見込まれない水源開発、水源開発費用負担、供給設備建設は計画や実施をしてはならない。利水者の建設費負担を伴う前記第一のフルプラン、事業実施計画等の水源開発計画の決定等や、前記第二の利水者への負担の転嫁、は水需要の存在が前提である。

第五 徳山ダムの工業用水負担の支出は違法である

 徳山ダムに係る岐阜県の工業用水は前記第一・二で述べたように、旧フルプラン期限切れ時、フルプラン改定時から需要が無いことは明らかであった。したがって、今後も工業用水道を建設して用水供給事業をすることは不可能である。また、独立採算制の工業用水道事業を設けて、その建設費負担は工業用水道事業特別会計で処理しなけれならないが、その建設費負担は給水料金では回収できないので、独立採算制の工業用水道事業では、徳山ダムの建設負担金は支払不能な債務となってしまう。
 よって、徳山ダム建設費の工業用水負担の岐阜県における支出は次の点で違法であり、許されないし、支出された時は、支出命令をした岐阜県知事の職にある者は、支出額について岐阜県に対し損害賠償責任がある。
@ 支払不能な債務となることが明らかな水源開発計画の決定等や、水源開発費の負担の転嫁は違法であり、許されない。徳山ダムに関する、フルプランの決定・改定、フルプランに基づく事業実施計画の作成・認可、建設費負担の工業用水道事業への転嫁は違法である。このように岐阜県工業用水道事業が違法に負担している徳山ダムの建設費負担について、岐阜県一般会計から支出することは違法である。
A ダムの利水負担は、地方財政制度上、独立採算制の地方公営企業である工業用水道事業、水道用水事業のものである。その経理は、一般会計ではなく、特別会計よって処理しなければならない(地財法六条)。しかし、岐阜県では、徳山ダムの建設負担について、独立採算制の工業用水道事業特別会計が設けられて、そこから支払れているのではなく、一般会計から直接支払われている。このような支出は違法である。
B 徳山ダムの工業用水についての一般会計からの支出は、支出金を工業用水道を建設し、具体的な用水供給をするためのものでなく、建設負担金の償還のためだけのものである。このような工業用水道の事業実施を伴わないで、負担金の返済にのみ使われるような使途への、一般会計からの支出は違法である。
C 独立採算制の工業用水道事業会計への一般会計からの繰入支出は、工業用水道事業の経営再建つまり倒産での例外的な措置である。その場合、経営再建状態=倒産状態に陥ったことの説明とそのことについての関係者等に対する法的責任の追及が、一般会計からの繰出支出の前提である。徳山ダムに係る工業用水投資が回収不能となり、岐阜県の工業用水道事業が経営再建状態=倒産状態に陥ったということについては、全く説明がなされていない。また、そのような状態に陥ったことについての岐阜県知事個人等の関係者の損害賠償責任を始めとする法的責任の追及もなされていない。これらのことがされずに行われる一般会計からの支出は違法である。

第六 結論

 よって、原告らは、地方自治法第二四二条の二第一項に基づき、
1、平成一〇年度以降の徳山ダムの工業用水負担金の支出について、被告岐阜県知事梶原拓は支出命令の、被告岐阜県出納長藤田幸也は支出の差し止め、
2、岐阜県に代位して、平成二年度以降の支出命令をした被告梶原拓に対して、損害賠償金として金三、四七三、四八七、〇〇〇円、およびこれに対する本訴状送達の翌日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求めて、本訴を提起する。

立証方法
 口頭弁論において提出する。
付属書類
二、訴訟委任状 四三通
徳山ダム建設費、岩屋ダム建設費の年度別支払い額

 年度   徳山ダム    岩屋ダム
一九七六 六一、六〇六 
  七七 八九、六七一 
  七八 二四五、五四三 五九、四二八
  七九 二九四、七六二 六〇、七一六
  八〇 三八五、五六六 六〇、七一六
  八一 三三九、四九〇 六〇、七一六
  八二 二六九、二〇二 六〇、七一六
  八三 二九四、六一八 六〇、七一六
  八四 二五〇、四七九 六〇、七一六
  八五 三五〇、七二〇 六〇、七一六
  八六 六六七、六六四 六〇、七一六
  八七 六三三、六八四 六〇、七一六
  八八 七一八、六三四 六〇、七一八
 年度   徳山ダム    岩屋ダム 
一九八九 三六七、六二四 六〇、七一六
  九〇 二四三、一五七 六〇、七一六
  九一 二四三、一五七 六〇、七一六
  九二 三二二、三九七 六〇、七一六
  九三 四三三、四一五 六〇、七一六
  九四 五二二、六九九 六〇、七一六
  九五 五六五、七九四 六〇、七一六
  九六 五七一、四三四 六〇、七一六
  九七 五七一、四三四 六〇、七一六

  合計 徳山ダム 八、四四二、七四五
     岩屋ダム 一、二一三、〇三二
  単位・千円

原 告 等 目 録 (世話人5人のみ掲載、世話人代表は三浦真智)
原 告 上   田   武   夫
原 告 近   藤   ゆ り 子
原 告 野   村   正   男
原 告 三   浦   真   智
原 告 村   瀬   惣   一

原告ら代理人 弁護士 在  間  正  史
同 弁護士 籠  橋  隆  明
同 弁護士 山  田  秀  樹
同 弁護士 笹  田  参  三
同 弁護士 竹  内  裕  詞


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