徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ



第2.岩屋ダム開発水

1.岩屋ダム開発水の岐阜県工業用水道割当分の利用状況

2.「木曽川中流地区工業用水道事業」事業計画調査

3.岐阜県における工業用水道事業の独立採算義務についての無自覚

1.岩屋ダム開発水の岐阜県工業用水道割当分の利用状況
岩屋ダム開発水のうち、4.33m3/秒が岐阜県工業用水道事業に割り当てられている。この開発水は木曽川右岸地区工業用水道、木曽川中流地区工業用水道の水源とされている。割当水量は右岸地区1.2m3/秒、中流地区3.13m3/秒である。しかし、利用実態は、中流地区では工業用水道事業は全く実施されておらず、取水施設や給配水施設も建設されておらず、その目途すら立っていない状況であり、右岸地区=可茂工業用水道は1.2m3/秒のうち水利権許可量0.73m3/秒、日配水量13,500m3に過ぎない。さらに施設配水能力は9,760m3/日であり、契約水量は1,008m3/日しかない。そして1日平均配水量は460m3だけなのである。巨額の建設費を負担して岐阜県工業用水道事業が確保した岩屋ダムの開発水が、全く利用されず空しく木曽川を経て伊勢湾に注いでいるのである。
岩屋ダムの建設費負担金の償還期間はすでに終了している。工業用水道はほとんど全く事業化されないまま償還期間を経過してしまったため、事業収入から建設費を負担することができなかった。このような場合でも、ダム建設費は水源開発費として工業用水道事業の資本となるべきものであるから、地方公営企業法の独立採算の原則からすれば、工業用水道事業の企業会計から支払をしなければならず、地方公営企業債を起債するなどして償還資金を企業会計で調達して支払をすべきであるはずなのだが、岐阜県においては一般会計から直接建設費負担金の償還がなされ、完済されてしまっている。
他自治体においても起債をせずに、一般会計から工業用水道事業特別会計に法の予定しない繰入をして、工業用水道事業特別会計から支払をしている例はみられるが、工業用水道事業特別会計からではなく、一般会計から直接に建設費負担金を支払い、そのまま完済してしまった例は全国にも例がない。
岩屋ダムを水源とする工業用水道事業は、完成後20年以上が経過しても事業が実現しておらず、負担金を支払わないまま償還を完了してしまっているという異常な状態なのである。これだけの期間が経過しても事業が現実化する兆しもないということは、開発水の需要予測は全く的はずれであった証左である。開発水が利用されていないということは、供給余力を持っていることでは全くなく、見通しを誤った使われるあてのない設備投資をし、不良資産を抱えてしまったということである。民間企業であれば過剰設備投資による倒産である。岐阜県の県財政を健全化するためにも、岩屋ダム開発水の工業用水道事業割当分の有効利用を検討しなければならないのである。

2.「木曽川中流地区工業用水道事業」事業計画調査
平成元年に当時の名古屋通商産業局が行った木曽川中流地区工業用水道事業の事業計画調査によれば、木曽川右岸・犬山頭首口上流付近部で取水し、国道21号、22号、156号、東海道本線、名鉄名古屋本線、木曽川、長良川、境川、荒田川などを水管橋で渡って岐阜市を中心とする岐阜中地区に日量229,400m3/日の工業用水を配水することが計画されている。幹線1,000o管が揖斐川左岸の穂積町、巣南町まで延ばす計画である。
揖斐川を越えれば徳山ダム開発水の工業用水の供給予定地区である大垣地区の主要地域に、揖斐川左岸を南下すれば、大垣地区の墨俣町、安八町、輪之内町、平田町、海津町に給水できる。大垣地区の工業用水の水源のために開発水が必要だというのであれば、岐阜県工業用水道事業に割り当てられた岩屋ダム開発水を割り当てることに法律的に何の問題もない。その上、技術的にもほとんど問題がない。経済的にも巨額の徳山ダム建設費を投入するよりもよほど合理的である。しかし、現実には先に見たように大垣地区には水需要はなく、岩屋ダム開発水を大垣地区に導水する必要はないのである。

3.岐阜県における工業用水道事業の独立採算義務についての無自覚
岐阜県基盤整備部水資源課長であった証人山崎は、岐阜県の水資源開発課では岩屋ダムの建設費負担金が岐阜県の一般会計から直接支払われていることも知らず、岐阜県工業用水道の岩屋ダムの開発水割当分の利用状況もほとんど理解しておらず、可茂工業用水道で実施されている水価、責任水量も知らず、中流地区工業用水道事業計画調査の内容についても全く知らないと証言したが、あり得ないことである。
水資源課は、工業用水道事業が地方公営企業として、経済性を発揮して、独立採算により、利用者から徴収した料金によって水源開発費その他の経費を賄うように経営されることを前提に水資源の需要予測をしたり、補助ダムの開発などを担当する部署である。その課長である証人山崎が、工業用水道に割り当てられたダム開発水の利用状況や、利用計画調査を知らないはずがない。証人山崎は追及を恐れて知らないととぼけたのではないかと疑われる。もしそうだとすれば偽証にもあたりかねない大問題である。
しかし、もし本当に、証人山崎が岩屋ダム開発水の利用状況や岩屋ダムの建設費負担金が一般会計から支出されていることを知らず、岐阜地区工業用水道の事業計画調査を見たこともなく、存在すら知らなかったのであれば、徳山ダム開発水需要予測の精確性を揺るがす大問題である。すなわち徳山ダム供給地域とされている大垣地区の水需要予測の精確性判断においては、同じ岐阜県内の可茂地区、岐阜地区でなされた当初の水需要予測と実際の利用実績を比較検討したり、工業用水道事業計画の実現可能性を検討して当初予測の精確性を検証することが不可欠である。また、不合理な水資源開発計画や、それによる無駄な施設の設置の反省に立って水利用の合理化が求められており、総務省(旧総務庁)でも同旨の勧告がなされている。水需給のアンバランスがあれば余剰水を水が必要な地域に振り分け、あるいは水利権の委譲をすることなどが求められているのである。そのためには、利水者において水利用実態を調査検討することが不可欠であるが、証人山崎はそのような検討が岐阜県においてはなされていないと証言したのである。
証人山崎の証言には、「ダム開発水は今のところ必要ないのだから使わないのだ。使わないことの一体何が問題なのか」という感覚を感じざるを得ない。先に述べたように、使われない水源施設を抱えるということは、負債のみを負って使われない設備投資をすることで、不良資産を抱えることに他ならない。被告梶原の指揮監督の下にある岐阜県職員のこのような感覚に、根元的な原因があるというほかない。岩屋ダムの工業用水道用開発水について犯した過ちを糧に、精確な水需要予測をなして、徳山ダム事業において同じ過ちを犯さないようにすること、また、誤って使い道の見つからない岩屋ダムの工業用水開発水の使い道を考えることこそ、被告梶原を始めとする岐阜県職員に求められることである。



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