徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ



第1.岐阜県の大垣地域の徳山ダム工業用水の需給予測

1.過去の実績と被告の予測の乖離

2.小規模零細事業所について

3.分類された各産業分野の実績

4.予測式自体の問題

5.大垣地区工業用水道事業の実施

1.過去の実績と被告の予測の乖離
 1)原告らは甲13の1により大垣工業地区の工水の使用水量、補給水量の実績を明らかにした。これは工業統計表などに基づくものであるが、この資料は水需要などの予測に携わる者であれば誰でも検討しなければならない資料である。岐阜県では、前年度の岐阜県内の工業統計資料を、毎月発行される「統苑」に、特集号で掲載している。経済産業省工業統計表が発表される前に岐阜県内のデータを検討することができる。甲13の1によれば、大垣工業地区全体においては、使用水量・補給水量ともに、1960年代から1970年代に増加傾向があるものの、1973年をピークに減少し、1981年に大幅に減少し、その後は横ばいとなり、さらに1990年代以降の減少という傾向が読み取れる。甲13の1の−●−の使用水量の変化及び−■−の補給水量の変化を見れば1981年以降の減少、横ばい傾向は明白である。我が国は1973年に第1次石油危機が発生し、その後高度経済成長は終焉した。90年代に入ってバブル経済の崩壊を経験し、高度経済成長時代の右肩上がりの成長を示す産業構造、経済構造とは質的に異なる時代に入ったのである。こうした産業構造、経済構造の変化を反映し、工業用水需要も上記の通り減少あるいは横ばい、特に、1991年以降の大きな減少傾向になっているのである。大垣地区の補給水量は、1990年の434千m3/日から、1995年には371千m3/日・85%、2000年には332千m3/日・76%に大きく減少している。こうした過去の実績からすれば、工業用水道の需要が工業出荷額の増加に合わせて将来伸びていくとする岐阜県による予測は誤りであると言わざる得ない。
 2)この点について証人山崎は甲13の1が示され、減少あるいは横ばいとなっている工業用水需要(使用量、補給量)実績の傾向について、「統計資料からそういうことをすればそうなると思います。」と証言してグラフ化された実績の傾向を認める。
ところで、この実績値の傾向は「岐阜県水資源長期需給計画」の策定時や「費用負担の同意」時には認識できた。岐阜県水資源長期需給計画の計画基準年は1990年であり、計画策定時は1994年3月である。また、「費用負担の同意」は1997年1月である。岐阜県では毎年度補給水量を統計整理しており、「統苑」において前年度の結果を発表している。従って、計画基準年から5年経過後の1995年、あるいは1996年の需要水量の大きな減少動向を認識することができ、需要予測と実績とが乖離している現状を認識していたはずである。そうでなければ、職務怠慢であり、認識は可能であった。遅くとも1998年1月の「費用負担の同意」(乙44、45)の時点では減少傾向の認識をしていたはずであり、認識していて当然である。
この減少傾向の認識について、証人山崎は判断材料となるデータの存在につては認め、やろうと思えばできるともいう(山崎p11)。しかし、そうしたデータを毎年統計処理していけば実績の動向が分かるのではないかという質問に対し、「私はやっておりません」という証言に終始している。1998年1月の「費用負担の同意」は岐阜県が徳山ダム開発に対して巨額の費用を負担することになる同意であるから、その時点において、岐阜県工業用水の実績値がどのように推移してきたか、岐阜県長期水需給予測のようになるのか検討しているのが当然である。「やっておりません」とする証人山崎の証言は信用に値しない。仮に岐阜県が実施していないとすればそれは重大な任務懈怠であると言うべきである。

2.小規模零細事業所について
 1)原告らが第18準備書面p14でも指摘したように、本来小規模零細事業所は工業用水道の対象外である。岐阜県の予測の場合、工業用水の統計は従業員30人以上事業所しかないため(岐阜県工業統計調査)、それに30人以上と1人以上の出荷額の比を乗じて、1人以上の事業所という小規模零細事業所まで需要水量に計算している(乙19p5注3)。この点、岐阜県の予測は、本来使用対象外で集計対象外の事業所まで工業用水需用者として集計するという過大な予測をしているといえる。
 2)工業用水道の場合、いわゆる責任水量制が取られており、一定量以上の工業用水の買い取りが義務づけられている。そのため小規模事業者が工業用水を利用すれば、必要以上に水を購入することになる。また、工業用水道では、量水器設置負担金、経営負担金、工事負担金が科せられており、小規模事業者にとっては工業用水道を利用することは大きな負担になる。そのため、小規模事業所の場合、工業用水道を使用することはなく、水道や地下水を使用する。
例えば岐阜県可茂工業用水道事業の場合、責任水量制(少なくとも1時間当たり4m3、一日24時間均等に受水するものとして扱う)のもと、45 円/m3 の料金がかかり、契約水量を超えて使用された場合は、超えた水量に対して超過料金90円/m3が適用され、料金は2倍にはねあがる。このほか、受水施設・量水器設置負担金、経営負担金、工事負担金が科せられており、小規模事業者にとって工業用水道は多くの負担を抱え込むことになる(岐阜県可茂工業用水道事業のウェブサイト参照 http://www.pref.gifu.jp/s11136/kousui/ryoukin.html)。このような負担があるため、工業用水道は小規模事業者には利用されていない。
 3)契約水量制度については水資源開発など利水政策に携わる者であれば常識的なことがらになるわけであるが、証人山崎はこの契約水量のことも知らないという。証人山崎のポジションであった基盤整備部水資源課長は「水資源の需要予測」を行うという(山崎p36)。水の料金体系が水の需要と深く結びついていることは言うまでもないことであるが、水資源の需要予測を行う当該課長が工業用水道の料金体系を知らないまま水需給計画を立て進めるというのはあり得ないことである。また、小規模事業者が将来工業用水を使用するのかという点について、どこかでそいういう聞いたという話以上の根拠は示していない。
ところで、甲15陳述書p6では「水道用水の需要見通し」とあり、水道用水の用途に「一部の製造業において水道用水が工業用水として使用される」とあり、p8には大垣地域の水道用水について、「イ 一日最大給水量の算出」にあたって水道用水の用途別水量として「工業用水量」をあげている。この点については証人山崎は零細企業などが上水を利用しているという認識があると証言している。
このように陳述書自体からも岐阜県長期水需要予測の矛盾は明らかである。岐阜県長期水需給予測は、小規模事業者が上水道を利用していることを知りつつ、一方で工業用水道の利用対象者として小規模事業者をカウントして需要を「水増し」してきたのである。

3.分類された各産業分野の実績
 1)岐阜県の長期水需給予測の手法は6類型に産業を分けて補給量を予測する。その中でも、1990年実績、2010年予測とも生活関連型が全体の約7割を占め、しかもその在来型だけで全体の約6割を占める(乙19p5)。生活関連型の産業のうち補給水量の最も多い業種は繊維工業であるが、それだけで使用水量の62.9%、補給水量で61.2%を占める。そのため繊維産業の動向は水需要全体の動向に大きな影響を与えることになる(甲16B表)。この点に関する主張は既にしたので結論のみ述べれば使用水量、補給水量の実績は、1975年をピークに、以降はハッキリとした減少傾向が見られ、特に1992年以降は減少が顕著である。補給水量についてみれば基準年である1990年では155,496m3/日であったものが、1995年では102,626m3/日・66%に、2000年では64,337m3/日と実に50%以下に割り込んでいる(甲13の3、甲14)。
 2)このように繊維産業は、生活関連型のみならず水需要全体のなかで占める割合の大きさ、また水需要の劇的な減少という点から工業用水需要予測において重要な意味合いを持つことは明らかである。しかるに、証人山崎は「個々のことはやっていませんので、わかりませんけども」、「たまたま繊維はそうかもわかりません」と証言し繊維産業の動向に全く無関心である。これは単に証人山崎の個人的な問題ではなく工業用水需要予測に際しての岐阜県の姿勢であると言って良い。
 3)岐阜県長期水需給予測は産業を6類型に分類し、それぞれ類型別の水需要の動向を予測した。そこで用いられた予測式では、各類型を構成する個々の産業の変化を全く考慮していないのであるから、基準年から将来の時点まで類型を構成する個々の産業の水需要の割合が変化しないことが前提となっていることになる。すなわち、生活関連在来型を構成するのは繊維産業や食料品製造業などであるが、それぞれの生活関連在来型を構成する産業の水需要が基準年と同じ割合で変化していくということが、予測式の前提なのである。
証人山崎は各類型のくくりの中で全体として増えていくという予測をしたのだという(山崎p18)。この証言自体は意味が必ずしも明確ではないが、おそらく、ある類型において、そのなかの一つの産業が衰退して補給水量が減っても、別の産業が伸びるので補給水量は全体として伸びていくというような意味であろう。しかし、一つの類型内の産業相互に補給水量の動向を補い合う関係、例えば繊維産業が衰退した場合に食料品製造業が伸びていくといった関係を予測しなければならない。そういった予測式を立ててその関係を予測していない限り、同じ類型を構成する個々の産業の水需要の動向は基準年から変わらない前提なのである。
したがって、全体の60%を占める生活関連在来型においては、さらのその60%を占める繊維産業の動向が重要となる。繊維産業の実績が、予測傾向と乖離しておれば、当該予測は誤っていることが判るのである。 4)また、被告代理人に誘導されて、証人山崎は産業構造が変化するだろうということを含めて先端型というものを分類したと証言する(山崎p45、p54)。しかし、ここでも意味が不明である。
本件では岐阜県では6類型に産業を分けて予測したわけであるが、基準年1990年も目標年2010年の予測でも、生活関連在来型が全体水量の60%を占める結果であった。そして、生活関連在来型では繊維産業が水量の60%と重要な役割を占めているため、繊維産業の動向がこの類型、さらに全体の水需要の動向に大きな影響を及ぼすことは明白である。
証人山崎のこの誘導された証言は、先端型の水需要が増えて、生活関連在来型の水需要が減少しても補ってくれるという意味にもとれない訳でもないが、それは岐阜県長期水需給予測の内容に反している。
繊維産業の変化は明白であるし、この産業構造の変化を織り込んで予測するのであれば、生活関連在来型の水需要は減少傾向にならなければならず、岐阜県が予想するような将来需要が伸びていくという結果にはならない。そして、生活関連在来型の水需要が全産業の水需要に占める60%という大きな割合を考慮すれば、大垣地区全体の水需要も減少し、岐阜県が予測したような増加にはならない。
 5)生活関連型産業の水需要の実績は横ばい、減少であった。原告ら第18準備書面でも指摘したように、こうした過去の実績の傾向は、生活関連型ばかりではない。基礎資材型、加工組立型についても過去の実績値は横ばい傾向にあり岐阜県の予測と異なる。
岐阜県がこのような横ばい、減少の実績を無視してきたことは、証人山崎が個々の産業がどのようになっているか無関心であると証言したところからも明らかである。

4.予測式自体の問題
 1)岐阜県長期水需給予測は、使用水原単位について、生活関連先端型についてはベキ曲線を、他の5業種については逆ロジステック曲線を採用している。逆ロジスティック曲線は飽和値に収斂していくものであるが、原告らは飽和値の設定に根拠がないと主張していた。そこで、飽和値の設定の根拠について証人山崎に尋ねたところ、同人は「最低値の10%減」と答えた(山崎p27)。ところが、甲12p17の図9は富樫によって整理された基礎資材在来型に関する表であるが、それによると使用水量原単位の実績値中には収斂値より低い値が存在し、証人山崎の証言内容と矛盾する。岐阜県は原単位の収斂地も恣意的に設定し自己の都合良い結論を導き出そうとしたのである。
 2)甲12p17図10は実質工業出荷額と使用水量原単位の関係を示したグラフであるが、「1980年代の実質工業出荷額の成長に対して、使用水量原単位は右下がりの減少傾向を示していた。1990年代に入ると出荷額の増加と減少の振動に対して原単位の動きは少し複雑な動きを示している。一見して原単位の低下傾向が小さくなるかのようでもあるが、実質工業出荷額が減少した1991年から94年の期間はさほど低下せず、あるいは94年のようにむしろ上昇し、再び実質工業出荷額が上昇する94年から97年の期間は再び減少傾向が生じている」(甲12p9からp10)。工業出荷額(億円/ 年当たり)は、1980年から経年的に低下し、1990年までの最低値は1990年の56m3/日であった。その後は経年的に一定の動きをせず、再び上昇したり、低下したりして、複雑な動きをしている。なお、この間の最低値は1998年の48m3/日であり、1990年の86%になっている。証人山崎のいう実績の90%値という飽和値をすでに下回っている。
このように原単位の動きは単純ではなく、一定の値に収斂するとか、あるいは上昇していくとするような動きを示すものではない。それは、使用水原単位が、単位当たりの生産のため必要な使用水量として基礎的にあるのではなく、使用水量と工業出荷額から計算によって求められた計算結果の数値だからである。使用水量と工業出荷額によって決まる数値なのである。そして、富樫も指摘するように、実際の使用水量は淡水補給水量と工業出荷額から決まるので、使用水量の原単位というのは淡水補給量の推移から計算された結果に過ぎないものである。使用水量原単位の推移から水需要を予測できるというものではないのである(甲12p9)。
過去の実績を整理すれば使用水量原単位は変動するものである。また、その変動も必ずしも法則性のあるものではない。それにもかかわらず、岐阜県は使用水量原単位を一定の値に収斂するものとしたり、あるいは増加するものとして恣意的に値を設定し、過大な水需要予測をしていったのである。

5.大垣地区工業用水道事業の実施
 1)原告らは岐阜県が予測した工業用水需要は架空なものであることを明らかにした。実際、岩屋ダム開発水量についてはほとんどが利用されていない。岩屋ダム開発水については、工業用水道事業が存在せず、当然、工業用水道事業に必要な施設も建設されていない。過大な需要予測に基づいて建設される徳山ダムにおいても同じ運命をたどるであろう。
岐阜県の水需要予測によれば大垣地区の工業用水需要は増加していき、増加部分の需要は全量徳山ダムに依存するという。徳山ダムは平成19年供用開始が予定されているが、「全量徳山ダムに依存する」というのであれば、@供用開始とともに1990実績を上回る地下水揚水の禁止などの地下水揚水の強制的規制が進められなければならないし、A徳山ダム開発に対応する工業用水道事業が始まらなければならない。しかし、大垣地区の工業用水道事業は計画すら存在しないし、条例や要綱による新規地下水揚水の禁止などの地下水揚水規制も実施される気配すら存在しない。これらは岐阜県自身も徳山ダム開発水に需要がないことを十分了解している証左である。
 2)甲11には工業用水道事業計画が示されているが、それを見れば工業用水道事業を実施するに当たっていかなる行動が必要であるかわかる。甲11の目次部分には工業用水道事業実施に必要なプロセスが示されている。工業用水道事業を実施するには工業用水需要を推計し、工業用水道施設計画を立てなければならない。施設計画では取水地点を選定し、浄水場、配水場など規模、位置が決められ、さらに配水管計画が策定されて配水管網も決められていく。施設全体の構造が決められてさらに事業の経済性が検討される。このように詳細な計画が立てられてようやく予算がつき、建設が始められていく。
証人山崎によれば大垣地区の工業用水道事業については水価が決められないという。それは取水場も決められおらず、そもそも水道事業の計画そのものが存在しないという意味に他ならない。需要がはっきりしていれば工業用水道施設計画もできあがるのであるが、現時点では需要がはっきりしていないため工業用水道事業の計画も存在していない。岐阜県は水需要予測が現実と異なることを理解し、工業用水道事業を立てられないでいるのである。
 3)ところで、ダムの開発費は工業用水道事業会計からその料金収入によって支払わなければならない。証人山崎もこのことを理解している(山崎p37)。岩屋ダム開発水については、工業用水道事業がほとんど実施されていないため、ダム開発費用の全てが一般会計から支払われる結果となった。徳山ダムが完成しても。それによる工業用水道事業が存在しなければ、それだけでダム開発費用は一般会計から支払われることになる。
この点に関する証人山崎の認識は「水が売れるようになればそこで償還していく」、需要が発生するまでは払わなくても良いというものである(山崎p37)。そこには建設費用が一般会計から支払われていくことについての何の問題意識もない。



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