徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ



富樫幸一(岐阜大学・地域科学部)2003/10/22

徳山ダム事業に関する岐阜県の利水計画についての質問と要望

+22日の交渉内容の要約


 徳山ダムの建設事業費について本年(2003年),これまでの2,540億円の計画に加えて1,010億円事業費の増額案が示された.木曽川水系の水資源開発基本計画全体でも岩屋ダム=木曽川総合用水,長良川河口堰などで完全に水余りの実態にあるにも関わらず,さらなる徳山ダムの建設はまったく不要であり,岐阜県の利水計画を中止することを求めてきた(富樫,2002).
 長良川河口堰本体工事着工当時(1980年代末)も,岐阜県の水資源課からは当時の担当者からヒアリングを行って県としての方針などの説明を受けたが,その後の1993年のフルプランの全部変更,岐阜県の総合計画の改定,さらには都市用水需要の減少など大きく状況が変わってきている.徳山ダムの建設中止を求める会と県との前回(2003年8月28日)にも参加して事情を伺ったが,再度,利水計画を中心とした事情説明と資料提供をお願いし,意見交換を行いたい.

■徳山ダム中止を求める会からの申入書(10月22日)を最初に説明し,要望を行いました.
■この項目にそって,交渉の中での回答と追求した論点を要約しました.
【県の担当者からの説明:A】
【富樫・近藤などの反論:R】

1.岐阜県の水資源計画と総合計画について
(1)岐阜県としての水需要予測の経緯
 五次総(1994)までは総合計画の中に水資源開発の需要予測と施設計画が入っており,同時に水資源長期需給計画が作成されていたが,「県政の指針」(1999)には需要予測がない.その後も検討はされたと伺っているが,今回のフルプラン全部変更に伴う国土交通省からの需要想定調査の依頼までのこの間に検討された経緯を明らかにされたい.

【A】五次総までは人口などのフレームを定めていたが,「県政の指針」からめざすべきビジョン示す方式に変わったことから,水需給計画などの詳細は記述していない.
【R】1998年当時も県の担当者の話しでは新しい需要予測を作成中ということだったはずである.
【A】県庁内でオーソライズするところまでは行かなかった.フルプラン改定を控えて,これまで引っ張られてきた側面もある.

(2)総合計画のフレームと水需要予測
 前回の交渉で,五次総による水道用水の需要予測関係の資料が示されたが,県政の指針では人口予測が下方修正されており,当然過去のベースのままでは予測の資料になりえない.また,県政の指針も目標時期を控えて新たなものが策定中と思われるが,現時点での検討状況についてご説明願いたい.

【A】21世紀ビジョンは総合政策担当の方で検討中である.
【R】人口については「県政の指針」でも下方修正したのであり,その前の計画の五次総による水道の需要予測は過去のものである.

2.岐阜県の水資源開発の実態
(1)木曽川水系の中での岐阜県の都市用水開発
 牧尾ダム,岩屋ダム=木曽川総合用水事業,阿木川ダム,味噌川ダムとこれまでの岐阜県の開発水量のあった事業のうち,未利用の部分が大量に存在している.この点について,現状での問題と今後の考え方を明らかにされたい.

【A】木曽川総合用水に関しては,水道用水は1.77m3/sに対して利用分は1.15m3/s,工業用水は4.33m3/sに対して0.18m3/s.中濃地域では渇水時に節水も行っている.地域木曽川右岸工業用水道については,工業団地の造成と企業誘致を見込んでいる.農業用水は6.13m3/sに対して5.48m3/sだったが,渇水時の対策として各務原地区への給水事業を工事しており,水利権を申請している.(補足:S,牧尾ダム(1.3m3/s)はともかく,阿木川ダム(0.8m3/sに対して0.404m3/s),味噌川ダム(0.3m3/sと0.2m3/s)の未利用分までは説明を聞かなかった.
【R】可茂工業用水道でも利用率は非常に低いし,現在のような経済情勢では新たな企業誘致は非常に難しくなっている.

(2)西濃(大垣)地域の水道用水供給事業,工業用水道事業のフィージビリティ
 高度成長期末期の第2次総合開発計画(1972年)では,西濃第二上水道用水供給事業と同工業用水道(徳山ダム)の計画が掲げられていたが,都市用水としての必要性の消滅から総合計画の上でも掲げられなくなって現在に至っている.具体的な事業計画が存在するのか,関連した事業調査として新たなものがあるのかを説明されたい.具体的な用水事業について,経済産業省,厚生労働省と協議しているのか.
 また,名古屋通産局調査(岐阜地区,1989)や,岐阜県の岐阜・大垣地域の工場に対するアンケート調査結果の他にも,最近の需要予測調査や事業化調査は存在するのか.

【A】工業用水については行っていない.水道用水では平成10(1998)年に水需要調査をしている.この平成15(2003)年8月にも96市町村に対して将来予測のアンケートを行ったが,回答は整理中である.市町村の計画を見ても,新フルプランの需要想定調査で求められている2015年まで人口等を予測した計画はそろっていないようである.
【A】徳山ダムの岐阜県の利水について,県営事業で行うか,広域的な一部事務組合で行うかは未定である.

3.需要予測の手法と問題点
(1)水資源長期需給計画の予測の過大性
 前回フルプラン全部変更の際に岐阜県が用いた1983年の水資源長期需給計画はもとより,1994年水資源長期需要計画でも水道用水と工業用水の需要が伸びるという予測だったが,実態は工業用水は減少,水道用水は頭打ちという状況になっている.過去の需要予測の方法のどこに誤りがあったと考えているのか,工業用水の出荷額や原単位,回収率,水道用水の人口,給水率,原単位などを含めた検討結果を明らかにされたい.

【R】1993年全部変更に出ている岐阜県の予測は,県として国土庁に提出したものではない.木曽三川協議会(補:4県1市と中部地建を始めとする国の出先機関で構成)で検討した資料が用いられたのではないか.今回は三川協は開かれておらず,国土交通省から県に調査が依頼されている.
 予測・計画とその後の実績が違ったのは,そうであったというだけで誤っていたとは考えない.
【A】誤った予測手法を用いたことのために違ってしまっているのである.1994年の五次総の98年予測では基準年の1990年からそれほど大きな伸びではなかったので,水需要についても「右肩上がり」の予測をやめたのと理解したが,2010年までの予測では大幅に伸びることになってしまっているのは逆ロジスティック曲線とデータの期間に問題があったからである.
【R】逆ロジも一つの方法である.原単位がゼロまで下がることはない.
【A】当然だが,飽和値(補:横ばいとなる値)の設定は恣意的である.データの期間も1984?1990年と短く,20年以上の予測に使うのは問題がある.

(2)ウォータープラン21の全国計画と岐阜県計画との整合性
 なお,岐阜県やフルプランではこれまで過大な需要の伸びが予測されていたが,国のウォータープラン21の全国予測や東海地域の予測をみても,ほとんど横ばいの見通しへと大きく転換している.新たなフルプランはこの全国計画とも整合する必要があると考える.国土審議会水資源開発分科会木曽川部会で紹介された需要予測と実績の資料を見ても,1993年プラントの大きなギャップの存在が明らかである.この点についての岐阜県側の現状での見解を示されたい.

【A】国土庁がウォータープラン2000からウォータープラン21に変更し,その中に東海地域の予測もあるが,県としては実績から予測する.
【R】木曽川水系のフルプランは国土交通省が作成するし,ウォータープラン21の担当も同じ部局なので整合したものでなければいけないはずである.

(3)需要予測の作業と中間報告・議論の要求
 水資源長期需給計画(1993年)でも膨大な作業が行われたことが伺えるが,今回の増額に関わる突然のフルプラン変更にともなる国土交通省からの需要想定調査に対して,県としては調査費を計上しているのか.また作業は県庁内部だけで行っているのか,あるいは外部にも調査委託しているのか.
 予測に当たっては考え方や計算上での判断等が伴うが,計画の透明性,適切性,県民への説明責任を果たすためにも,国土交通省に回答する前に中間報告を行い,県民や議会を通じた議論をぜひ行われるよう要望する.われわれも途中のプロセスでの議論には応じる用意がある.

【A】水資源課としてはフルプランの目標年(2000年)を経過後も変更の可能性を考えて,内部で作業を行ってきている.今回特に外部に調査委託も予算計上も行う予定はない.
 今日の交渉も途中での議論の場として設けたものである.
【R】中間案を発表してパブリックコメントなどを求めるのが当たり前の時代になっているし,ぜひそうして欲しい.われわれも事後的に批判するだけになるのは本来,望むところではないし,議論には応じる用意がある.


4.岐阜県の計画と市町村の水道計画,工業用水道について
(1)需要想定調査と水道事業についての各市町村の立場の考慮
 フルプラン変更をめぐる需要想定調査で,岐阜県は市町村からの意見は特にきかずに件としての回答を考えていると前回の交渉で説明している.また,市町村計画は過大になる傾向があるので,件として予測したほうが適切であると県議会では答弁したと伝えられる.
 しかし第一に,これまでの岐阜県自体の需要予測が過大であったことは上記の点からも既に自明である.第二に,大垣市や周辺町村は水道事業の拡張を考えておらず,また徳山ダムからの利水を具体的に考えていないことは中止を求める会などの調査からも明らかである.
 長良川河口堰からの水道用水供給事業の拡張を計画した三重県は,市町村からの需要の低迷を背景とした中勢・北勢の事業の延期に苦慮し,さらに市町村が買水していない部分については県側が負担せざるを得ない非常に深刻な状況に陥っている.
 実際に利水先の市町村の意向を確認せずに,徳山ダムの事業に対して同意を与えてしまった場合には,まったく同様の事態にならざるをえない.大垣市や周辺町村の水道事業の現状について,県としては調査もしくは了解しているのか.
 岐阜県はこれまで2(1)で指摘したように,過剰な開発水量について県が財政負担をしてきてしまったが,深刻な財政状況のなかでそのようなことは県民の理解を得られなくなっていると考えるがどうか.

【R】前回の調査や県議会での答弁では,市町村に対して県は独自に調査は行わないと答えたのではなかったか.
【A】上水道の普及予測(給水率)については,市町村の問い合わせている.市町村の水道事業計画については,「岐阜県における水道事業の概要」に記載がある.各市町村によって年度や内容はバラつきがあるし.県内の全市町村についての資料を整理するのは難しい.
【R】そのとおりだが,かりに水道用水供給事業などを行うとするなら,市町村と協議して数値を合わせなければ事業を行うことはできないはずである.協議の場をもてばいいのではないか.
【R】徳山ダム関係については,大垣市の上水道事業第四次変更でも拡張を予定していなかった.1994年の需要予測の時点でも,調べれば分かったはずのことである.この予測では県は西濃地域における大幅な需要の増加の予測しておりギャップがあまりにも大きい.この点を明確に認識すべきである.
 1991年に事業監視委員会に対して,岐阜県は利水上の必要性を説明したというが,以上のような実態や具体的なデータに基づく検討をしていなかったのではないか.民間企業での経験を考えると,市場調査も行わないで事業を行うというのは理解しがたい.必要だとのは「口約束」に過ぎず,水量や価格を示さなければ契約にはならない.

(2)工業用水道事業の非現実性
 工業用水道の場合でも,繊維工場の縮小・撤退や,全般的な不況・リストラの中で水需要は減少傾向をたどってきた.当然,新規利水は不必要である.1998年の調査でも,環境対策等は別として新規の増加を求める企業はわずかに止まっている.さらにこの調査の欠陥を指摘すると,企業にとっては非常に重要な用水価格の項目がなかったことである.
 可茂工業用水道の現状を見ても,当初計画に対して工場側が非常に少ない利用しか行っておらず,また用水価格も高くなっている.こうした現実を認識したうえで,工業用水の需要予測を行っているのか.

【R】需要予測でも,IT産業の立地などを別途積み上げているわけではない.98年調査では4割の企業が環境面なども考えて必要と答えている.
【A】調査票の選択肢が不適切だったのではないか.新たに増分が必要とした企業はわずかしかなかった.
【R】可茂工業用水道は,基準の上限の45円に加えて,負担金として24円,合わせて69円/m3となっている.

5.徳山ダムに関わる岐阜県の財政負担
(1)現時点でのアロケーションと増額問題
 2540億円,もしくはそのまま3550億円に増額された場合の岐阜県のアロケーションに対する負担は,配分比率としては計算できる.問題はそれだけでなく,工業用水の建設期間中の負担(21%)とそれの対する一般会計からの支出,さらには県債の発行・償還(利息も含めて),そして仮に完成するとした場合の公団=水資源機構の資金調達と建設期間中利息,そして23年の償還による負担の全額である.今後の利率の変動は別としても,現在までの公団の決算から分かる利息分は推定可能である.事業費だけでなく,利子も含めた負担総額の推計を公表されたい.名古屋市は実際に水源負担を明らかにしている.

【R】県議会でも,利子分は不確定であり,数値が独り歩きしてはまずいので説明していない.議会の担当委員会も昨年までは水資源対策特別委員会だったが,今年から環境・防災委員会に変わっている.
【A】利子率を想定で示した計算は可能である.富樫も行っているし,名古屋市も明らかにしている.住宅ローンで返済総額を示さないことなどありえない.

(2)事業費増額に対する岐阜県から水資源機構への質問内容
 1010億円の事業費増額案に対して,岐阜県として独自に見直して170項目におよぶ質問を出されたと聞いている.その内容を公表されたい.岐阜県にとどまらず関係各県・市にとっても重要な問題であるし,県民・県内企業にとっても公開されるべきものである.

【R】項目の内容は議員などにも明らかにしているし,公開できる.

■この後,富樫が簡単に自治研ぎふの論文を紹介.論点は以上の質問と要望に整理してある.今後も交渉の機会を設けることを要望して終了.


資料:
富樫幸一(2002)「徳山ダムをめぐる岐阜県の利水計画の中止を」自治研ぎふ,第72号.
富樫幸一(2000)「木曽川水系フルプラン1993年の形成と問題点」岐阜大学地域科学部研究報告   第6号.
伊藤達也・在間正史・富樫幸一・宮野雄一(2003)水資源政策の失敗-長良川河口堰,成文堂.

岐阜県(1983)「岐阜県長期水需要計画」
岐阜県(1994)「水資源長期需給計画」
岐阜県(1998)「アンケート調査(岐阜と大垣地区で地下水を利用している企業に対して)」
岐阜県(1994)「岐阜県五次総合計画」
岐阜県(1999)「県政の指針」(平成11年?平成15(2003)年)
岐阜県(1980)「岐阜県水道整備基本構想」
名古屋通商産業局(1989)「岐阜県岐阜地区工業用水道事業計画調査報告書」
国土庁(1999)「新しい全国総合水資源計画(ウォータープラン21)」
国土庁(1993)「木曽川水系における水資源開発基本計画全部変更協議経緯」
「木曽川水系水資源開発基本計画全部変更基礎資料」
国土審議会水資源開発分科会木曽川部会(2003年7月4日)「参考資料」

《「質問と要望」》

2003年11月編集


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