徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


日本弁護士連合会への要請書


日本弁護士連合会 会長  梶谷 剛 様
同公害対策・環境保全委員会 委員長  村田 正人 様

2004年11月10日

水源開発問題全国連絡会 共同代表 嶋津暉之・遠藤保男

要 請 書

〜徳山ダム事業実施計画変更における明らかな河川法僭脱につき、
日本弁護士会連合会としてのご意見を示して下さい〜

 日頃の貴会の活動に心から敬意を表します。
 特に、04年1月16日付けで出された「肱川流域委員会の委員の追加と十分な審議を求める意見書」に、私たちを大いに励まされました。
 この意見書にあるように、1997年の河川法では、住民意思を河川管理計画の策定手続に出来るかぎり反映させようとする規定(=第16条の2)を新設したはずでした。しかし、河川管理者は、その改正趣旨を踏みにじるような河川整備計画策定を各地で行って来た挙げ句、ついには河川法第16条の2を僭脱するに至ったのです。
 徳山ダム事業費増額にかかる事業実施計画変更のような形で、形ばかりの河川法第16条の2の手続きさえ踏まずに河川整備計画が事実上が変更されてしまうことを見過ごせば、行政による法の無視・僭脱を限りなく許していくことに繋がりかねません。
 法の支配を重んじる貴会として、是非、徳山ダム事業費増額にかかる事業実施計画変更(04年7月15日国土交通大臣認可)につき、調査の上、ご意見を示されるようお願い申し上げます。

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 1995年5月、全国に広がる反対の声を押し切って、建設省は長良川河口堰運用開始を強行しました。しかし同時に反対運動の力に押され、「河川法改正」という「証文」も出さざるを得なかったのです。河川官僚は(その官僚的思考の範囲内で)路線転換−河川行政の転換を行いました。

 03年度予算で、水資源開発公団(04.10.1水資源機構となる)は徳山ダム事業実施計画で定められた事業費2540億円の97%を使い切り、04年度概算要求では、その額をはみ出した要求をせざるを得なくなっていました。概算要求の直前、8月8日になって、水公団は「1010億円増額」を発表しました。関係県市(利水者及び治水関係県)と電源開発(中部電力)は「寝耳に水」と驚愕して見せ、反発しました。10月9日の「中部地整事業評価監視委員会」でも各委員が「2001年の再評価時には、事業費については何も聞いていなかった」と怒りました。

 事業実施計画変更(利水者の費用負担同意を要する)には、2000年で目標年次が過ぎている木曽川水系水資源開発基本計画(木曽川フルプラン)の全部変更をネグレクトすることは出来ません。12月の予算編成前に事業実施計画変更をすることは到底無理になった11月30日、中部地整は突如「事業評価監視委員会」を開き、「計画全体の見直しと切り離しての960億円増額」の了承を委員からとりつけました。(ここで「中部地整資料3治水計画の考え方」が出され、利水容量の大幅削減と治水容量の大幅増加を示した。)
 しかし、これではさすがに財務省は「法的根拠を欠く」としてはねつけ、2540億円の事業費枠一杯の93億円のみの予算としましたが、同時に「法的な問題をクリアすれば追加予算を認める」旨の約束をしました。

 04年3月30日に、フルプラン需給想定調査の各県回答が出揃い、利水容量の大幅削減が決定的となりました。(まだ各県の需要予測は過大であり、さらに「施設実力調査」という一種の虚構を使うことで、どうにか新規利水6.6m3/S(当初計画15m3/S)を無理矢理作りだした)。それでも「徳山ダムの規模を変えない」という辻褄合わせのために、中部地整は「本川上流2ダム(だけ)で大きな洪水調節をする」という新洪水調節計画なるものを持ち出してきました。

「徳山ダムと横山ダムをダム群として運用することにより、さらに大きな効果を発揮する」「徳山ダムの洪水調節容量を123,000千m3に、横山ダムの洪水調節容量を29,600千m3に増量するとともに両ダムの洪水調節方式を変更することにより、工事実施基本計画が目標としている上流ダム群による洪水調節量(2,400m3/s)を確保することを可能とし、基準地点万石の流量を計画高水量(3,900m3/s)以下にすることを可能とする。なお洪水調節機能が大幅に向上するため、基準地点万石上流の現在未整備のダムが不要となる。」

 ところが「みなし河川整備計画」の現行工事実施基本計画には「既設横山ダムのほか徳山ダム等の上流ダム群により、2400m3/secを調節して河道への配分流量を3900m3/secとする」とあります。「等・群」とある通り、未整備のダム(根尾川上流・黒津ダム。高水計画を論じた1968年工事実施計画参考資料には「黒津ダム2690万m3」と明示されている。根尾川流域は基準地点流域面積の33%を占める)を前提にしているのです。それを変更することはまさしく「治水計画の変更」に他なりません。
 その治水計画変更を「事業再評価制度(事業者が自分で評価する)」と「フルプラン変更」でやってしまう、というのが今回の徳山ダム・新洪水調節計画なるものなのです。
 これでも、「経過措置としての『みなし河川基本方針・河川整備計画(工事実施基本計画)』の範囲内」(佐藤謙一郎議員質問主意書への答弁書)なら、どんな治水計画変更でも河川法16条の2などすり抜けられます。
 これまで河川法16条の河川整備基本方針が定められたところはことごとく従来の基本高水流量を踏襲しています。その上で、洪水調節の方法を揖斐川−徳山ダムのように大きく変えても「みなし河川整備計画の範囲内」「工事実施基本計画の変更を必要とするようなものではない」というなら、河川整備計画を新たに策定する必要などどこにもありません。

 93年の木曽川水系フルプラン全部変更と連動した長良川河口堰建設。そして大きな反対の声を押し切っての河口堰運用開始強行。その「引き替え証文」としての97年河川法改正から8年を経た今、河川局は、また木曽川水系フルプラン全部変更と連動して、今度は「引き替え証文」を破り捨てて徳山ダム建設を河川法を僭脱して違法に強行し、河川法改正趣旨の一切を葬り去ろうとしています。
 この暴挙に対して、貴会としての毅然としたご意見を示して下さい。
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資料1〜3を添付します。

資料1
徳山ダム事業実施計画変更に至る事実経過
資料のHPアドレス
04.7.15閣議決定の新徳山ダム事業実施計画の徳山ダム建設事業に関する事業実施計画変更の概要
資料2
前提として:河川法及び附則
従来の木曽川水系揖斐川の治水計画−工事実施基本計画
「新洪水調節計画」という治水計画変更
質問主意書と答弁書
資料3
木曽川フルプラン部会への「徳山ダムをやめさせる会」意見書の一部


<資料1>

徳山ダム事業実施計画変更に至る事実経過

<introducion>
 従来の徳山ダム事業実施計画上の事業費は2540億円(1985年度単価)だが、03年度当初予算で97%を使い切り、04年度予算では2540億円枠を越えることは確実となった。
 03年2月「徳山ダム建設中止を求める会」は名古屋市での運動展開を追求する方針で、長良川河口堰住民訴訟のグループなどに働きかけ「7/12 シンポジウム『「徳山ダムは名古屋の問題』」を準備していた。そして事業費増額問題について話し合いを持つよう中部地整に強く要求しているさなかの6月7日、中日新聞1面トップに「徳山ダム さらに1000億円超」の記事が載った。

<2003年>
・7/4 フルプラン木曽川部会第1回開かれる
・7/18 独立法人水資源機構法施行令(いわゆる「撤退新ルール」)閣議決定
・8/7 国交省水資源部、木曽川フルプランエリア各県に需給想定調査依頼を発出
・8/8 水公団、「1010億円増額」発表。関係県市が「反発」する
・8/27 水公団、「来年度予算要求180億円(2540億円枠を突破)」発表。
・9/11 「徳山ダムをやめさせる会」結成
・10/9  中部地整事業評価監視委員会第2回(徳山ダム事業費増額問題を取り上げる)
    「やめさせる会」、「徳山ダム工事は凍結すべしという結論を]との「意見書」を提出。
・11/30  事業評価監視委は、「計画全体の見直しと切り離して」960億円増額を了承。
     ここに「中部地整資料3 治水計画の考え方」が出される
・12/20 04年度予算財務省原案:従来事業費枠いっぱいの93億円のみ。
・12/26 徳山ダム裁判一審(岐阜地裁)不当判決 
 岐阜地裁判決付言「当裁判所は、公団の本件水需要予測について建設大臣が平成10年12月にこれを是認した判断が、当時においては建設大臣の裁量の範囲を逸脱するものではないと判断するにすぎないものであり、現時点においてはウォータープラン21の水需要予測の方がより合理的であると推認される。したがって、独立行政法人水資源機構としては、早急に水需要予測を見直し、最終的な費用負担者である国民、県民の立場に立って、水余りや費用負担拡大等の問題点の解決に真摯に対処することが望まれる」

<2004年>
・1/7 徳山ダム裁判控訴
・2/16 愛知県、利水量大幅削減発表。長良川河口堰工業用水5.46m3/Sを水道水に転用すると発表
・2/26 「牧田川圏域(相川・大谷川・泥川)河川整備計画(案)」. 3月に国交大臣認可
・3/9 岐阜県 利水量大幅削減発表
・3/25 名古屋市利水量大幅削減発表 
・3/30  木曽川フルプランエリア各県が、国交省水資源部に需給想定調査を回答
・4/13 フルプラン木曽川部会第2回 新フルプラン原案が示される(各県回答通り)
・4/29  中部地整事業評価監視委員会、「新洪水調節計画」承認
・5/12 フルプラン木曽川部会第3回「やめさせる会」、「木曽川部会への意見書」提出
・5/31  水資源開発分科会、木曽川フルプラン原案を了承。
     中部電力が杉原ダム中止を発表。電源開発が増額(+12億円)了承 。
・6/15  木曽川フルプラン閣議決定。
・7/8 岐阜県議会、徳山ダム債務負担行為592億円に同意。
    岐阜県、愛知県、名古屋市、水機構に費用負担同意を通知。
    水機構、国交省に事業実施計画変更認可を申請。
☆7/15  徳山ダム事業実施計画変更認可

資料へのリンク
1.
徳山ダムをやめさせる会 「中部地整事業評価監視委員会への意見書」
2.
国土審議会水資源開発分科会木曽川部会第2回資料
3.
中部地整事業評価監視委委員会(04.4.29)への中部地整資料
4.
徳山ダムをやめさせる会 「木曽川部会への意見書」
5.
04.7.15認可:徳山ダム事業実施計画(概要:本文)

04.7.15閣議決定の新徳山ダム事業実施計画

ダム容量配分(千m3)

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費用配分(単位=億円)

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目的別負担割合

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負担割合1.治水

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負担割合2.利水

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<資料2>
前提として:河川法及び附則(みなし河川整備基本方針・みなし河川整備計画)

☆河川法(1997年6月大改正)
(河川整備計画)
第十六条の二  河川管理者は、河川整備基本方針に沿つて計画的に河川の整備を実施すべき区間について、当該河川の整備に関する計画(以下「河川整備計画」という。)を定めておかなければならない。
2  河川整備計画は、河川整備基本方針に即し、かつ、公害防止計画が定められている地域に存する河川にあつては当該公害防止計画との調整を図つて、政令で定めるところにより、当該河川の総合的な管理が確保できるように定められなければならない。この場合において、河川管理者は、降雨量、地形、地質その他の事情によりしばしば洪水による災害が発生している区域につき、災害の発生を防止し、又は災害を軽減するために必要な措置を講ずるように特に配慮しなければならない。
3  河川管理者は、河川整備計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、河川に関し学識経験を有する者の意見を聴かなければならない。
4  河川管理者は、前項に規定する場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
5  河川管理者は、河川整備計画を定めようとするときは、あらかじめ、政令で定めるところにより、関係都道府県知事又は関係市町村長の意見を聴かなければならない。

☆河川法附則(1997年6月4日法律第69号)抄
(河川整備基本方針及び河川整備計画に関する経過措置)
第二条  
2  この法律の施行の日以後新法第十六条の二第一項の規定に基づき当該河川の区間について河川整備計画が定められるまでの間においては、この法律の施行の際現に旧法第十六条第一項の規定に基づき当該河川について定められている工事実施基本計画の一部を、政令で定めるところにより、新法第十六条の二第一項の規定に基づき当該河川の区間について定められた河川整備計画とみなす。

従来の木曽川水系揖斐川の治水計画−工事実施基本計画

☆木曽川水系工事実施基本計画 昭和44年3月:高水計画改定
p4「基本高水量のピーク流量は基準地点万石地点おいて6300m3/secとし、このうち横山ダム等により、2400m3/secを調節して河道への配分を3900m3/sec とする」
<上記の参考資料=工事実施基本計画参考資料(1968.9)>
p2「昭和40年9月15日の秋雨前線豪雨による出水は、横山ダムで調節しなかった場合の万石における推定流量は4913m3/Sと、基本高水(4800m3/S)を上廻る記録的なものとなった。また、最近大規模な出水が相次いだ結果、従来の基本高水流量の超過率は1/25と低くなり、木曽川、長良川とくらべて揖斐川の危険性が大きくなった・・・・基準点万石の基本高水流量を6300m3/Sと定め、このうち2400m3/Sを上流未定ダム群により調節し、万石地点の計画高水流量を3900m3/Sと改訂した。」このときに基本高水は31%増大した。
p57「計画降雨量として流域平均年最大2日連続雨量の超過確率1/100の値395mmを対象とする」
p63「表17 揖斐川各ダムの計画高水流量と洪水調節方式」
『徳山/横山(既設)/黒津/一之瀬』の4ダム名及び洪水調節計画容量として『徳山ダム8640万m3、横山ダム1900万m3、黒津ダム2690万m3、一之瀬ダム480万m3』となる旨が明記されている。
 ところが、03年9月に情報公開請求手続きにより入手した工実参考資料の同ページは、「黒津」「一之瀬」という固有名詞が黒塗りになっている。

☆ 1級河川工事実施基本計画  平成6年6月現在=現行工事実施基本計画
p81「既設横山ダムのほか徳山ダム等の上流ダム群により、2400m3/secを調節して河道への配分を3900m3/sec とする」

☆ 1996年6月の市民団体の会合での上総周平・当時中部地建河川査官の発言
(河川審答申及び河川法改正の趣旨の説明において)「これからは環境重視・住民参加で河川管理を行います。」「今後治水計画を変更するときは、流域住民の皆様に情報を公開し(バックデータも含めて)、十分な議論を尽くします。

☆ 徳山ダム審資料等
1995年〜97年の徳山ダム審議会及び96年10月と97年2月の当会主催の「建設省との対話」において、中部地建河川部が説明した「揖斐川の治水計画」は、1997年8月発行のパンフ「人の暮らしをささえる 徳山ダム」(建設省中部地建/水公団中部支社)と異ならない。そのパンフのp9に、「徳山ダムと徳山ダムによる洪水調節効果 約1900m3/s」となっている。

「新洪水調節計画」という治水計画変更
(別紙カラー刷り:04.4.29中部地整資料)

質問主意書と答弁書
☆ 平成十六年八月五日提出質問第五〇号
徳山ダムおよび木曽川水系水資源開発基本計画に関する質問主意書 提出者:佐藤謙一郎
四 河川法からの逸脱行為及び揖斐川の治水計画について
 1 河川法によると、河川整備基本方針及び河川整備計画によって、治水面におけるダムの必要性と規模を定めることと定められている。木曽川水系においては、これらはまだ策定されていない。ところが、新しい木曽川水系フルプラン策定に合わせて、揖斐川の治水計画を実質上策定し、治水面での徳山ダムの必要性と規模を定めてしまった。これは、国土交通省による河川法の定める手続きを逸脱する行為であると思われるが、政府のご認識を伺いたい。

☆ 衆議院議員佐藤謙一郎君提出徳山ダムおよび木曽川水系水資源開発基本計画に関する質問に対する答弁書(04.9.14受領)
四の1について
 河川法の一部を改正する法律(平成九年法律第六十九号。以下「平成九年改正法」という。)附則第二条の規定により、平成九年改正法の施行の際現に平成九年改正法による改正前の河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第十六条第一項の規定に基づいて定められている木曽川水系工事実施基本計画は、平成九年改正法による改正後の河川法第十六条第一項の規定に基づき木曽川水系について定められた河川整備基本方針及び平成九年改正法による改正後の河川法第十六条の二第一項の規定に基づき木曽川水系に係る河川の区間について定められた河川整備計画とみなすこととされている。
 なお、本年七月に、独立行政法人水資源機構が行った独立行政法人水資源機構法(平成十四年法律第百八十二号)第十三条の規定に基づく徳山ダム建設事業に関する事業実施計画の変更は、木曽川水系工事実施基本計画の変更を必要とするようなものではない。

<資料3>

<04.5.12第2回木曽川フルプラン部会への「徳山ダムをやめさせる会」意見書の一部>
全文は徳山ダム建設中止を求める会・事務局HPに掲載

4.揖斐川の水害対策の下での徳山・横山ダムの新洪水調節計画案の問題点

在間正史(弁護士)

要約
 徳山ダムと横山ダムの洪水調節容量を増量したうえ、両ダムの洪水調節方式を変更する新洪水調節計画案が発表され、1959年9月型洪水で万石地点における河道流量を計画高水流量3,900m3/sにできること、上流ダム計画を中止することが発表された。しかし、根尾川型洪水の場合は、河道流量を3,900m3/sにすることはできないと予想される。上流ダム計画の中止によって、工事実施基本計画は破綻した
 揖斐川の現況河道は、計画河道に比べて、流れにくく、また、河積も小さく、流過能力は小さい。しかし、計画河道に改修されると、流過能力は増大する。また、2mの堤防余裕高があり、実際の河道流過能力は大きい。揖斐川はかなり安全な河道である。
 洪水が堤防を越えるのを完全になくすことはできない。揖斐川の水害防止において必要なのは、洪水が溢れても決壊しない堤防や輪中堤によって水害を防止することである。そのためには、徳山ダムの洪水調節と流水正常機能維持の治水用途は中止して、その治水費用は、洪水が溢れても決壊しない堤防構築等に充てられるべきである。
 国土審議会水資源分科会は、木曽川水系水資源開発基本計画について答申を行う審議会である。したがって、徳山ダムの有効貯水容量を現行のままにして、新規利水容量を減量して、洪水調節と流水正常機能維持のための治水容量を増量する審議・答申することは権限がなく、できない。新たに、流域委員会等によって流域住民等が主体的にかかわって、木曽川水系河川整備計画が作成される。その後に初めて、国土審議会水資源分科会は、徳山ダムの有効貯水容量や新規利水容量の減量の審議・答申が可能となる。

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5.揖斐川流域住民として訴える−Due Processの保障を−

徳山ダム建設中止を求める会・事務局長 近藤ゆり子

 1995年、木曽川水系水資源開発基本計画に基づく水源開発施設・長良川河口堰はこの地域及び全国の反対運動を押し切る形で運用が開始されました(1993年のフルプラン全部変更の過ちについては「水資源政策の失敗−長良川河口堰−」参照)。しかし反対運動は、何も生み出さなかったわけではありませんでした。いわば長良川河口堰の運用開始強行の「引き替え」として、河川行政の方向転換を導き、「環境重視・住民参加」をキーワードとする河川法改正に結びつきました。(04年1月16日付け日本弁護士連合会「肱川流域委員会の委員の追加と十分な審議を求める意見書/第2 河川法改正の趣旨と改正法が予定する流域委員会のあり方」参照)
 1995年〜1997年にかけて行われた徳山ダム建設事業審議委員会と並行して、建設省中部地方建設局河川部は河川法の改正趣旨を積極的に説明して回りました。96年6月の名古屋市本山での市民団体の会合において、上総周平・中部地建河川調査官(当時)は「治水計画策定においては、環境を重視し、住民の方々の参加を得て行います」と熱心に話されました。私は「バックデータも住民に公開して(新たな治水計画を)策定するのですね」と問いました。「バックデータも全て公開します」とはっきりとお答えになりました。

 今、木曽川部会に出されようとしている徳山ダムの利水容量の治水容量への大幅振替案(=新洪水調節計画)は、単に個別の徳山ダムのみの問題ではありません。国交省自身が「この結果、洪水調節機能が大幅に向上するため、基準地点万石上流の現在未整備のダムが不要となる」とし、「全川におよぶ水位低下効果」を主張するものである以上、「みなし」河川整備基本方針・河川整備計画である現行工事実施基本計画の枠を超えるものであることは明らかです。
 全ての洪水を河道に押し込めることは不可能であり、大渇水時に使いたいだけ水を使うということも不可能です。どういう「被害」をどの程度受容するか−「治水」は、広範で真摯な議論を通じて流域住民が「選択」する以外にはありません。だからこそ改正河川法では住民参加が強調されたのです。

 「新洪水調節計画」は多大な費用をかけた危険な洪水対策(=愚策)だと私たちは考えます(「バックデータ」は公開されていません)。このような「治水計画の変更」が一切住民が参加することのないフルプラン変更手続きで、事実上決められてしまう(徳山ダムでこの「新洪水調節計画」に基づいた容量振替が決められてしまえば、木曽川水系の河川整備基本方針−社会資本整備審議会、河川整備計画−流域委員会で、そのことを覆すことは極めて困難になります。皆様が仮に木曽川水系に係る社会資本整備審議会小委員会や木曽川水系流域委員会の委員になられた場合をご想像下さい)ということは、明らかに改正河川法からの逸脱−違法行為です。

 国土審議会水資源分科会木曽川部会は、このような脱法行為に加担しないで下さい。改正河川法の趣旨に則った正規の手続きによって、木曽川水系の河川整備基本方針・河川整備計画が策定されるまで、国土交通省及び水資源機構が出す「徳山ダムの利水容量の治水容量への大幅振替案」をそのまま呑んだ結論を出すべきではありません。
揖斐川流域住民として、治水計画変更に係るDue Processの保障を切に願っています。

委員の皆様の賢明なご判断をお願いいたします。

2004.12.03編集

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