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検証論文 「岩屋ダムの施設実力調査結果の検討」                在間正史 弁護士


1.始めに

2.施設実力調査内容の検討

3.木曽川総合用水の取水システム

4.1987年度(昭和62年度)の実際

5.不利用水の削減によるダム貯水量の変化

6.まとめ

補.関係図表


岩屋ダムの施設実力調査結果の検討

在間 正史

1.始めに
 国土交通省は、最近の20年間(1979年〜1998年)の木曽川水系の河川流況をもとに、木曽川水系フルプラン施設実力調査(以下、施設実力調査)を行ったところ、その2番目(10年に1回)の渇水年である1987年度(昭和62年度)の木曽川の流況からは、岩屋ダムは開発水量の44%が供給実力であると説明している。
 愛知県、名古屋市および三重県の都市用水は、既存水源の木曽川総合用水とその水源である岩屋ダムに依存している水量が大きく、この岩屋ダムの供給実力が開発水量の44%であるという施設実力調査の数値を元に、徳山ダムと長良川河口堰を「安定供給水源として確保」するとしている。もし、木曽川総合用水・岩屋ダムが各県市の必要水量を供給できることになれば、「安定供給水源の確保」の必要性がなくなり、徳山ダムや長良川河口堰の建設と事業の根拠も失われる。
 この度、国土交通省の施設実力調査資料を入手した。そのうち、「岩屋ダム−開発水量−(S62年度)」を検討したので報告する。

2.施設実力調査内容の検討
 1) 施設実力調査の内容
 施設実力調査によれば、最近20年間で2番目(10年に1回)の渇水年である1987年度(昭和62年度)の木曽川の流況からは、開発水量では岩屋ダムの貯水量がゼロになり、開発水量の44%が岩屋ダムの貯水量がゼロにならない供給実力であり、開発可能量とされている。
 施設実力調査資料によれば、1987年度の岩屋ダムの貯水量および基準点である成戸地点(左岸の馬飼地点の対岸であり、馬飼地点と同じ距離地点であって、両地点は木曽川大堰の両岸である)と今渡地点のダム運用前河川流量(既得用水取水後)は図1の通りである。
 2) 貯水量の変化の分析
イ) 9月15日〜24日(10日間)で、貯水量が53,401千m3から30,462千m3と22,934千m3に減少している(日平均減少量は2,293.4千m3となる)。
 その原因は、第1に、馬飼地点のダム運用前河川流量が河川自流取水制限流量の基準流量50m3/s近くになり、馬飼頭首工によって開発された木曽川総合用水の河川自流取水量が少なくダム補給必要水量が多いこと、第2に、今渡および馬飼地点の自流取水後河川流量が、貯留制限流量の基準流量(今渡100m3/s、馬飼50m3/s)以下のため、ダム貯留ができないことである。その結果、降水量が少なくなる冬季の前に貯水量が増えず、2分の1程度に減少した。
ロ) 12月〜2月は渇水となっている。ダム補給必要水のため、貯水量が、12月6日の33,426千m3から減少し(補給必要水量は15m3/sで1日当たり減少量は1,300千m3)、特に12月15日の19,056千m3から大きく減少している(補給必要水量は25m3/sで1日当たり減少量は2,160千m3)。12月15日以後、ダム補給必要水量は3月11日まで、86日間のうち10日間程度を除いて、20〜33m3/s(開発水量全量)となっている。
 その原因は、第1に、この期間の馬飼地点のダム運用前河川流量が70m3/sを切って基準流量50m3/sを少し上回ることが多く(50m3/sを下回ることもある)、木曽川総合用水の取水は、自流取水量が少なく岩屋ダム補給水によらなければならず、岩屋ダムからの補給水量が多いためである。また、第2に、今渡地点の河川流量が基準流量(貯留制限流量)の100m3/sを切って、馬飼地点流量とそう変わらないため、ダム貯留ができないことも原因である。

3.木曽川総合用水の取水システム
1) 岩屋ダムは、利水容量に比べて、開発水量が非常に大きい。特に馬飼頭首工(木曽川大堰)によって開発された木曽川総合用水の開発水量が大きいのが特徴である。木曽川総合用水は、ダム補給水に大きく依存する水源としては無理があり、自流取水を前提としなければ成り立たない水源である。
 計画の経過をみると、木曽川総合用水は、既得慣行農業用水の合口取水による取水の安定目的から出発し、馬飼頭首工での合口取水により河川自流取水をしていた既得慣行農業水利権54.12m3/sを25.64m3/sに縮小整理し、これによって余剰となり生じた水資源を新規都市用水の水源とした(『木曽川用水史』p340〜346、445)。木曽川総合用水は、木曽川の豊富な自流を利用する水源なのであって、ダム補給水は補助的なものである。
 また、馬飼頭首工の建設による木曽川総合用水事業に伴い、馬飼地点の基準流量(河川自流取水制限流量とダム貯留制限流量)50m3/sが設けられたが、馬飼地点より下流は水利使用がなくなったため、これは専ら河川維持流量となった。
 木曽川総合用水の開発水量が冬季でも30m3/s程度と大きく、他方、馬飼地点の河川自流取水制限流量が50m3/sと大きいので、河川流量が50m3/s近くに減少すると、取水のためにダム補給水を放流しなければならず、岩屋ダムは急激に貯水量が減少する(ちなみに、最大開発水量では、満水でも16日間で利水容量はゼロになる)。
2) しかし、馬飼地点の河川自流取水制限流量が50m3/sと大きいので、これを削減緩和すると、木曽川総合用水の河川自流取水量が大きく増える。これにより、ダム補給水必要水量が減少あるいは無くなり、岩屋ダムの貯水量が低下しなくなる。
 1986年度(昭和61年度)は、1986年9月3日から1987年1月19日に渇水による取水制限が行われた。同時に、渇水対策として、11月20日から、馬飼地点の基準流量が50m3/sから40m3/sに緩和され、また今渡地点の基準流量(貯留制限流量)が停止された。木曽川総合用水の都市用水は10m3/sの自流取水が可能となった。10m3/sは約86万m3/日であり、名古屋市の日平均給水量に相当する水量である。渇水対策として、基準流量の切り下げや停止によって新規都市用水の自流取水とダム貯留を可能にした意味は大きい。基準流量は絶対の数値ではないのである。
 そもそも、今渡地点の基準流量100m3/sは流水正常機能維持流量として、主として下流の既得水利権水量の確保を目的とするものである。しかし、濃尾用水と木曽川総合用水による農業用水の合口により、愛知県と三重県内の既得慣行農業水利権は合計で38.522m3/sが縮小された。その後、上記のように馬飼地点に基準流量50m3/sが設定されたが、かっては取水されて河口に流れていかなかった上記縮小流量が、馬飼地点の基準流量の中に入っていることになる。
 また、非灌漑期は今渡地点からの下流は農業利用がないのに、今渡地点では100m3/sと大きい基準流量(ダム貯留制限流量)となっている。馬飼地点の基準流量と馬飼地点までの既得水利権および木曽川総合用水の取水必要量の合計程度の水量を流せば、今渡地点の流水正常機能維持流量としては十分である。しがって、今渡地点のダム貯留制限流量を、馬飼地点基準流量と馬飼地点までの取水必要量の合計程度とすると、ダム貯留が可能となる。その結果、ダム貯水量の減少はなくなるか、押さえられる。

4.1987年度(昭和62年度)の実際
 施設実力調査では、岩屋ダムの貯水量は1987年度ではゼロになる計算であるが、実際は、岩屋ダム貯水量はゼロにならず(岩屋ダム貯水量変化図)、取水制限も、2月2日に自主節水5%、2月26日〜3月17日の21日間の5%節水であった。
 実際は、取水制限も無いに等しい状態であり、水利権者が必要量を取水していても、ダム貯水量はゼロにならなかったのである。
 その原因は、最大44.761m3/sうち都市用水38.764m3/sの開発水(そのうち、木曽川総合用水は最大36.733m3/sで、うち都市用水は36.228m3/s)は、需要がないためその多くが利用されていないので、実際の取水量が少ないためである。開発水のうち、水利権の許可(特許)を得ていなかったり、水利権を有していても、三重県の工業用水のように使用していないものもあるので、実際に必要な取水量は開発水量よりも少ない。少なくとも、以下の不利用や不使用が明らかである。
 第1に、木曽川総合用水の工業用水のうち、愛知県の2.52m3/s、岐阜県の3.13m3/sは水利権がなく、三重県の水利権7.00m3/sのうち、2.00m3/sは使用されていない。また、岐阜県木曽川右岸地区の工業用水1.02m3/sも水利権がない。合計で8.67m3/sが不利用および不使用である。その原因は言うまでもなく、需要がないため工業用水道の事業化ができないからである。
 第2に、木曽川総合用水の最大の水利権者は名古屋市水道であるが(1987年度は最大10.883m3/s、現在は11.94m3/s)、その取水量は、1987年度では、水利権量のうち、冬季は、2.6〜2.1m3/s、月別取水量に対して約30%しか取水していない(表1)。名古屋市水道は自流水利権7.56m3/sを基本にして、その不足量を木曽川総合用水から取水しているのである。そうすると、名古屋市水道の使用量(取水必要量)は開発水量での月別取水量から5.5m3/s程度少ないのである。
 以上のような実際の使用量が開発水量に比べて少ない実態のため、1987年度は、取水制限が無かったに等しいのに、岩屋ダムの貯水量がゼロにならなかったのである。

5.不利用水の削減によるダム貯水量の変化
1) 上記の不利用および不使用水のうち、岐阜県木曽川右岸地区の工業用水1.0m3/sと木曽川総合用水の愛知県の2.52m3/s、岐阜県の3.13m3/s、三重県の2.00m3/s、名古屋市水道の5.00m3/s、合計13.65m3/sは明らかに需要が見込まれないので、岩屋ダム運用において、開発水量から削減することができる。その結果、利用水量は最大で31.111m3/s、冬季は20〜22m3/s程度になる。
 岩屋ダムにつき、施設実力調査資料の開発水量から上記の削減をした水量によって1987年度(昭和62年度)における貯水量の変化を計算した結果が図2の一点鎖線である。
 岩屋ダムの貯水量がゼロになるのは、2月12日から3月11日の29日間だけとなり、開発水量での12月27日から3月11日までの78日間と比べて、大幅に減少する。
2) 渇水時には、河川法53条および53条の2などによって渇水調整が行われる。
 馬飼地点の基準流量(河川自流取水制限流量とダム貯留制限流量)が50m3/sから緩和されると、切り下げられた流量分の自流取水が可能となる。この渇水調整は、馬飼地点から下流には水利権がないので、調整対象となる水利使用者がいない河川管理者の権限のみで行える最も容易な調整である。過去にも1986年度に50m3/sが10m3/s切り下げられて40m3/sに緩和された実例がある。これにより木曽川総合用水の取水必要量に近い自流取水量が生まれるので、ダム補給水の必要が大幅になくなり、それだけで岩屋ダムの貯水量の減少が少なくなるか、緩和する水量によっては無くなる。
 また、今渡地点の流水正常機能維持流量としては、非灌漑期の冬季は、馬飼地点の基準流量と馬飼地点までの既得水利権および木曽川総合用水の取水必要量の合計程度を流せば十分なので、渇水調整によって、今渡地点の基準流量(ダム貯留制限流量)を、緩和された馬飼地点基準流量に今渡地点から馬飼地点までの既得水利権取水のための必要量(水利権水量では約12m3/s。施設実力調査資料では、ダム運用前河川流量の今渡地点から馬飼地点への減少量が既得水利権の取水によるものであるが、今渡地点流量が100m3/s程度以下のときは、この減少量は5、6m3/s程度である)と木曽川総合用水取水量の合計程度を加えた水量とすると、ダム貯留が可能となる。1986年度は今渡地点の基準流量が停止された。その結果、ダム貯水量の減少はなくなるか、押さえられる。
 そこで、上記の不利用水等を開発水量から削減した場合において、渇水時の対応として、岩屋ダム貯水量が利水容量の2分の1(30万9500m3)を切った時点から渇水調整として基準流量の緩和を行い、馬飼地点の河川自流取水制限流量を40m3/sに、貯留制限流量を馬飼地点は40m3/s、今渡地点は馬飼地点の基準流量40m3/sと馬飼地点までの取水必要量30m3/sの合計70m3/sに緩和する措置を行ったときの岩屋ダムの貯水量を検討した。その結果は、図2の太実線の通りであり、岩屋ダムの貯水量はゼロにならない。
 この方法は、貯水量が利水容量の2分の1になった比較的早期に、馬飼地点の河川自流取水制限流量の緩和を40m3/sと少なくして同時に貯留制限流量も緩和する方法である。これに対して、比較的遅くに、貯水量が大きく減少したときに、基準流量の緩和を大きくする方法もある。
 貯水量が利水容量の4分の1になったとき、馬飼地点の自流取水制限流量を30m3/sとより大きく緩和した場合も検討した。図2の細実線がその結果であり、岩屋ダムの貯水量はゼロにならない。
 以上のいずれの方法がよいかは、その時の流況等に基づいて判断すべきである。
3) 以上の通り、開発水量ではなく、需要がないため不利用や不使用のものを除いた実際に近い水利権水量に基づいて、1987年度の岩屋ダムの貯水量を検討すると、貯水量がゼロになるのは29日間だけである(実際の取水量はさらに少ないので、実績のように貯水量はゼロにならない)。そして、岩屋ダムの貯水量が大きく低下したときに基準流量を緩和すれば、供給のため必要な水量は取水できるのである。

6.まとめ
 施設実力調査において岩屋ダムの貯水量が計算上ゼロになる1987年度の実際は、水利権者が必要量を取水していてもダム貯水量はゼロにならなかった。また、需要がないため不利用や不使用のものを除いた実際に近い水利権水量によっても、1987年度において岩屋ダムの貯水量をゼロにしないことができ、愛知県、名古屋市および三重県への木曽川総合用水・岩屋ダムによる供給は可能である。これら県市において「安定供給水源の確保」の必要性がなく、そのための徳山ダムや長良川河口堰の建設と事業の根拠も失われることが明らかになった。

2004.11. 7

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