徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ
徳山ダム裁判 控訴審第1回口頭弁論 (名古屋高等裁判所 合同庁舎2号法廷) 2004年7月13日
《意見陳述書》
事業認定取消及び収用裁決取消請求訴訟
平成16年(行コ)第4号 徳山ダム事業認定取消および収用裁決取消請求事件 控訴人 近藤ゆり子 外73名
2004年7月13日 名古屋高等裁判所 民事第4部 御中 控訴人 近藤ゆり子代理人
記
以上 |
徳山ダム建設中止を求める会代表:上田武夫
陳 述 書 2004年7月13日 上 田 武 夫 … … 健全な生態系の要は生物多様性を保全することにある … … 徳山は大型猛禽類(イヌワシ・クマタカ)の生息域が複雑に入り組んでいる状況にある。イヌワシ5番い、クマタカ17番い(工事関連区域内にイヌワシ2番い、クマタカ9番い)の行動圏が重なりあっている。 クマタカもさることながら、イヌワシでは繁殖成功率の低下が懸念されており、繁殖阻害要因の解明が重要なテーマとなっている。イヌワシ、クマタカの繁殖を阻害している最大要因は「棲息環境の質と量の低下」にある。 2003年6月26日、徳山ダムの工事現場脇の林道で衰弱したクマタカが保護されたが、飢餓によって衰弱死した。この衰弱死したクマタカは継続観察中の9番いのクマタカではなく、フローターとして記録には残すが追跡調査はしないという。しかし、これを「フローター」として片付けてしまわないで精度の高い調査をして保全策をたてる必要があったのにこれを放棄した。「大いに環境に配慮して」と宣伝をしているが、今、棲息しているペアの巣に対する対症療法をしているにすぎない。このまま工事を進めてゆけば、自然環境はますます悪化し、イヌワシ、クマタカが頼りにしている谷の地形や植生、餌動物などの繋がりあっている棲息・繁殖環境をダムの底に沈めてしまうことになる。 イヌワシ、クマタカなど大型猛禽類は、自然界の健全を示す指標である。今、その減少や絶滅危惧の度合いは、地球上のバランスを崩し、人間の生存を脅かす事態にまで至っている。環境保全に本当に寄与する科学的な検証にあたる『環境アセスメント』の実施を急ぐべきである。 野生の鳥やけものは、個体数が発達、個体や群れを生活単位として、地域の野生生物界を構成し、種の生活を維持し、生物界の進化史を作ってきた。 生物多様性とは個体、種、地域ごとの生物の多様さを表すものである。この生物多様性の保全の重要性は『生物多様性条約』と呼ばれる国際条約によって認識されて、日本も締約国であるから『新・生物多様性国家戦略』(02年6月に決定)を受けて具体的な政策を展開させなければならない。 揖斐川の源流徳山は、生物多様性(健全な生態系)保全のためには、他に類をみない重要なエリアである。北方系のイヌワシの南端にあたるここには南方系のクマタカが共存して棲息している。源流地域は環境が水準以上でないと生態系は維持できない。 保全目標種(イヌワシ・クマタカ)の棲息環境全体を保全することにより、そこに棲息する他の種の保全も同時に達成される、という意味で、大型猛禽類は『生態系の傘』(アンブレラ種)なのである。 |
徳山ダム建設中止を求める会事務局長:近藤ゆり子
陳 述 書 2004年7月13日 近藤ゆり子 第1審判決後、数ヶ月を経ずして、各利水者は需要予測の大幅下方修正を行い、徳山ダムからの新規利水を半減させた。徳山ダム事業実施計画の土台となっている木曽川フルプラン全部変更は、6月15日に閣議決定され(6月24日告示)、利水容量は事業認定処分時の55%(当初計画の44%)となった。被控訴人である国(事業認定処分者)が、第1審を通じて「妥当である」としていた水需要予測は、控訴人らの主張通り、架空・過大であることが白日の下に明らかになったのである。そして、徳山ダム事業費大幅増額にあたって、木曽川水系水資源開発基本計画全部変更と事業再評価制度をご都合主義的に組み合わせて、徳山ダムの目的・用途は大幅に変更された。私たちの権利を奪った事業認定の対象となった事業計画は崩れ去り、もはや存在しない。それでも「事業認定処分時には・・・」という論法が、まかり通る法曹世界の常識は、市民感覚からはほど遠い。国が事業認定した計画が国によって変更(否定)された以上、私たちの権利を返すべきであるのにそうならない(既成事実が積み上がり、すでに私たちが権利を有していた土地の原形もとどめない)土地収用法の運用のあり方は、憲法29条の趣旨に照らして許されるのであろうか。控訴審裁判所には、そこまで配慮して頂きたいというのが、控訴人としての私の願いである。 1.原判決は日本の司法の恥辱 原審判決書を読んで、私は驚き呆れた。日本の裁判官の頭の程度というのは、普通の日本語の文章を理解出来ない程の低さなのか、と。 原審判決のいうところの「原告の主張」は余りにも誤解・無理解が横行している。主張してもいないことを「判断」されては、原告として、納得できるはずがない。 また原審判決は、いわゆる日光太郎杉事件判決を引用し「本来最も重視すべ諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず、または本来考慮に容いれるべきでない事項を考慮に入れ若しくは過大に評価すべきでない事項を過大に評価し、このため判断が左右されたものと認められる場合には」事業認定は違法になると述べていながら、内実は全く事実審理を放棄・拒絶し、証拠に基づくことなく、控訴人らの主張を否定し、被控訴人(国)の主張を丸飲みしている。 さらに判決書p119の「こうした地形のもとで更に地盤沈下が進行した場合、洪水への脆弱性が顕在化し、深刻な影響が生じることが明らかである」の部分に至っては、原審裁判所が最低限の経験則さえ弁えていないことを露わにしている。 原告の主張をねじ曲げ、証拠と事実から目を背けてひたすら行政の判断を追認することを目的化したこのような判決が確定するならば、司法の恥辱であり、自殺行為であると断ぜざるを得ない。この第2審においては、証拠から目を背けず、しっかりと事実判断をして頂きたい。 2.事業認定処分時以降の事情は考慮されないのか?…利水 上述のごとく、徳山ダム事業の計画は、事業認定処分時とは大きく変わろうとしている。 「本件水需要予測を是認した建設大臣の判断が著しく不合理だと断定することはできないというべきである。したがって、建設大臣の判断に裁量の範囲の逸脱及び裁量権の濫用はない」とする(控訴人からすれば極めて不当な)判断をした岐阜地方裁判所においてさえ、「当裁判所は、公団の本件水需要予測について建設大臣が平成10年12月にこれを是認した判断が、当時においては建設大臣の裁量の範囲を逸脱するものではないと判断するにすぎないものであり、現時点においてはウォータープラン21の水需要予測の方がより合理的であると推認される。したがって、独立行政法人水資源機構としては、早急に水需要予測を見直し、最終的な費用負担者である国民、県民の立場に立って、水余りや費用負担拡大等の問題点の解決に真摯に対処することが望まれる」と述べている。 そして、現に6月15日に閣議決定された新・木曽川フルプランは、利水容量において、事業認定処分時の55%に減じている(なお過大・架空である)が、事業認定処分時においても、「将来の水需要」は架空・過大であることは認識できた。そのことは第1審において、私たちが精緻に立証した通りである。 3.法治国家であることは望めないのか?…治水 徳山ダム事業実施計画は大きく変わろうとしいる。 「水源施設」としての不要性が露わになった今、「徳山ダムによって揖斐川の治水安全度が大きく向上する」と謳う「新洪水調節計画」(元は「治水計画」という言葉が用いられていた。その呼称をわざわざ変えたことは、「疚しい」ところがあることを自白したようなものである)という治水計画変更がフルプランと事業再評価制度(*1)をご都合主義で組み合わせるという方法でなされようとしている。 *1:国交省中部地整及び水機構中部支社自身による事業再評価を「監視」することになっている中部地方整備局事業評価監視委員会8治水計画の議論などしたくてもするだけの知識のない委員で構成されている)の議論は、つまるところ「ここまでやってしまったから、このまま建設するしかない」という無内容なものであった。 「これからは、治水計画変更の際は、バックデータも公開し、住民の皆さんの意見をよく伺って行います」(1996年6月、建設省中部地建河川調査官・上総周平氏の談)という河川法改正趣旨からすれば、「新洪水調節計画」として「未整備ダムを不要とする」まで踏み込んだ治水計画変更(*2)では、河川法第16条の2の手続き(単に形式的なものでなく、この条文を加えた趣旨に則ったもの)が必要である。この手続きを一切飛ばした形で徳山ダム事業費増額に係る事業実施計画変更が行われ、実質的に治水計画変更までなされていくことは、河川法脱法行為であると断ぜざるをえない。 *2:中部地整は、河川法16条の2の手続きをしない理由をいろいろ挙げるが、その一つに「改正に伴う過渡的な措置として『みなし河川整備基本方針・河川整備計画』=現行工事実施基本計画の範囲内である」というものがある。しかし、現行工事実施基本計画の高水計画決定の過程を詳細に記した「木曽川水系工事実施基本計画参考資料 V.基本高水、計画高水流量決定に関する資料 2.揖斐川 建設省河川局 1968年9月」を見れば当然のことだが、単に現行工事実施基本計画の文言からみても、中部地整の言い訳は通らない。仮に「現行工事実施基本計画の範囲内」だとしても、1995年〜1997年にかけて行われた徳山ダム建設審議委委員会において「治水計画」として説明されたものからすれば大きな変更であることは間違いない。 揖斐川流域住民としての私たちは、膨大な血税を投入して、危険な新「治水計画」を、河川法を僭脱したまま押しつけられようとしている。 すでに決まったかのようにされている徳山ダム事業費960億円増額のうち、約180億円が岐阜県の治水負担分である。これから完成まで毎年60億円超の岐阜県の予算が注ぎ込まれるのである。これだけの巨費の数分の一で、常に水害の脅威にさらされている大垣市荒崎地区に、住宅地の被災を免れる囲い堤などの対策をとることが出来る。こうした住民無視の「治水計画変更」は到底容認できない。 既成事実の積み上げが法を蹂躙していくのを傍観せざるを得ないのであろうか?法治国家であることの崩壊を見過ごすしかないのであろうか? 控訴人として、私は、第2審裁判所が「法の番人」としての役割を果たすことを強く期待したい。 4.ダムは災厄を及ぼす 控訴人らは、フルプランに位置づけられた水源施設としての徳山ダムは不要であることを、立証して来た。そのことの正しさは、現実が示している。 しかし、控訴人である私たちは、単に「徳山ダムは不要だ」ということのみなならず、将来にわたって、次々と問題を引き起こし続ける−災厄をもたらす−ものであると訴えたい。 財政負担については、第1審の準備書面等でも述べている。 自然環境−生態系については、控訴人・上田武夫が述べた通りである。 私はさらに付け加えたい。徳山ダム湛水は、大きな誘発地震を引き起こす可能性がある、と。 2004.6.25号の「週刊金曜日」によれば、日本地震学会会長の大竹正和氏(地震予知連絡会会長でもある)は 《ダム誘発地震を学問の立場から「現在では学界の常識」と断言する》 《「ところが、日本ではダム誘発地震の研究はタブー視されてやりにくかった。私以降、跡継ぎがいません。水が地震発生の原因であることは、水を貯める、押し入れる、両方の実験から言えることです。ダム誘発地震の研究は地震発生メカニズムを発見するためにも重要です。」》と言う。 徳山ダムにおいても、ダム湛水による誘発地震の可能性については1970年代から地元住民によって問題視されており、1984年の長野県西部大地震の発生によって、より具体的になった(徳山村住民が、移転先として、必ずしも揖斐川流域にある揖斐川町・表山団地を選択しなかった大きな理由の一つと聞いている)。 6億6000万m3=浜名湖2杯分という膨大な湛水量、160mもの深さの湛水、ダム湖の下の活断層=揖斐川断層の存在・・・これらについて、何ら科学的な検証が行われていないのである。 控訴審裁判所におかれては、これらすべての事情も踏まえて、原審判決の誤りを正して頂きたい。法も何も無視して、既成事実優先で進められている徳山ダム建設。せめて危険な湛水を阻止しうるような判断を早期にされるよう、心からお願いするものである。 |
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