徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


徳山ダム裁判 第二審

控訴理由書

第1章 法律論について

第1 土地収用法20条1号該当性について
1 収用法20条1号要件該当性に関する控訴人の主張
 原判決は、控訴人の収用法20条1号該当性に関する主張を、おおむね「本件事業が新規利水の必要性を欠く以上、本件事業は収用法20条1号要件に適合しない」、とまとめている(判決書p6)。しかし、原判決の整理は全く違っており、控訴人は、最終準備書面で整理したように、本件事業は法20条1号に該当するものと積極的に主張するものである。
 本件事業が収用法3条34号の2(水資源開発公団が設置する水資源公団法による水資源開発施設)に該当するため、収用法20条1号で事業適格性が認められるものである以上、収用法20条3号該当性を判断する際には、新規利水開発の必要性が本件事業の同号該当性の基盤をなし他の目的の前提となるのであり、また、精確な予測に基づいて、明確に水需要が認められなければならないのである。

2 法20条1号該当性が認められる意味
 原判決は、本件事業で、新規利水目的が他の目的の前提となると解すべき文理上の根拠はないと述べる(判決書p96)
 しかし、本件事業が収用法3条34号の2(水資源開発公団が設置する水資源公団法18条1項1号の水資源開発施設)に該当するのは、あくまで徳山ダムが水公団が起業者として公団法により建設する水資源開発施設であるからである。水公団は水資源開発基本計画に基づいて水資源開発施設を建設することを業務とする特殊法人である(公団法18条1項1号)。水資源開発施設は、洪水防御、流水の正常な機能の維持と増進の治水関係用途を目的に含むことができるが(公団法55条2号、20条4項、特定施設)、水資源開発施設にこのような治水関係用途の目的を併せ有することができるだけある。水公団が建設できるのはあくまで水資源開発施設であり、水公団がこのような治水関係用途を含む特定施設を建設できるのは、当該施設に水資源開発施設としての新規利水の目的があるからである。水公団は、上記のように水資源開発施設として、新規利水の目的なくしては施設の建設等の業務はできず、不特定補給や渇水対策は流水の正常の機能の維持と増進であり、洪水調節も含めて、これらは治水関係用途として、新規利水の目的が成り立つことを前提にして、それに附加された付随的な目的である。
 国土交通省は新規利水用途、治水用途、どの目的でも単独でダムを建設できる。したがって、国土交通省が、他の用途の目的と併せて、新規利水目的も設置目的の一つとする多目的ダムを建設する場合、他の目的は新規利水を前提としない。水公団が水資源開発特定施設を建設するのは、国土交通省が新規利水目的も設置目的の一つとする多目的ダムを建設するのとは異なるのである。
 ダムを設置する根拠となる法律には、公団法のほか、河川法、特定多目的ダム法などいくつもの法律がある。その中で、徳山ダムは水資源開発を目的とする公団法を設置の根拠法とし、水公団の設置管理する水資源開発施設として位置づけられていることに、積極的意義があるのである。徳山ダムは水資源開発特定施設として、新規利水に併せて、洪水調節、流水の正常な機能の維持及び発電の目的を有するものとされているにすぎない。公団法に基づき公団法に基づいて水公団が設置管理する水資源開発施設である以上、その目的の基盤となり他の目的の前提となる目的は新規利水である。
 たとえば、現在、促進法により水資源開発水系の指定がされている豊川水系フルプランでは、寒狭川(豊川)に設楽ダム(総貯水量1億m3)が計画されている。水資源開発水系である豊川水系には、水資源開発施設として、宇連川に水公団が設置管理する宇連ダムがある。設楽ダムは、豊川水系フルプランに基づく水資源開発施設でありながら、公団法18条1項1号イに基づき水公団が設置するのではなく、特ダム法に基づき国土交通省が設置する。これは、新規利水開発水量が1.1m3/s、特に都市用水(水道用水)が0.8m3/sと非常に小さいため(徳山ダムのように配分貯水容量も示せない)、新規利水、特に促進法や公団法の主目的である新規都市用水開発をダムの主要な目的とすることができない結果、公団法18条1項1号の水資源開発施設と位置づけられないのが大きな原因とみて間違いない。
 徳山ダムは水公団が公団法に基づいて、新規利水目的のための水資源開発施設として設置管理するダムであって(公団法18条1項1号、2項)、これに附加して治水用途の目的も併せ有するだけである。
 徳山ダムも新規利水開発が目的に位置づけられなければ、公団法18条1項12号イ(水資源開発基本計画に基づく水資源開発施設)が設置の根拠法となることはなく、水公団が事業主体となることもなかったのである。徳山ダムは新規利水がその目的とされたからこそ、水公団事業として水資源開発施設となったのである。本件事業において、新規利水目的は、ほかの3つの目的と質的に異なるのであって、これを欠くことは徳山ダムを水公団が公団法に基づき設置する法的根拠を失うことになるのである。
 したがって、本件事業が、収用法20条1号で水資源開発施設の建設として事業適格性が認められる以上、収用法20条3号該当性の判断においては、他の目的の前提として、まず、新規利水の目的が存在しうるか、新規利水の必要性があるかについて判断されなければならない。そこで、新規利水の目的が認められなければ、本件事業はその根拠を失い、他の目的について判断するまでもなく、収用法20条3号該当性が認められないことになる。
 また、収用法20条3号該当性の判断において、事業の合理性、必要性が認められるには、新規利水開発の必要性が、精確な予測に基づいて、合理的なものと認められなければならず、それが認められない以上、本件事業はその法的根拠を欠くことになる。
第2 収用法20条2号該当性について
1 原判決の判断
 原判決は、水公団が公団法によって設立され、資本金は全額政府出資で、本件事業についても建設大臣の認可を受けた事業実施計画に基づいて遂行しており、公団法による事業遂行に必要な財源措置も手当てされ、各費用負担者から同意も得ているから、事業遂行の能力があると認定する。
2 評価
 しかし、水公団が事業遂行の財政的基盤を有するのは、事業による開発水に対応する水需要があるからであって、それが認められなければ経済的に事業を遂行することはできない。
 関係自治体が水資源開発に参画するのは、対応する水需要があるからであって、需要が見込まれない水資源開発費を支出することは法律的に不可能である。
 すなわち、地方財政法及び地方公営企業法は、工業用水道事業及び水道用水事業は、法律上当然に地方公営企業として運営されなければならない旨を定めており、地方公営企業は独立採算により、事業の収入によって企業経営をしてゆかなければならない。徳山ダム建設費負担金は、工業用水道事業者及び水道事業者が負担し、給水料金で回収しなければならないのである。地方公営企業は利用する見込みのない不良資産を購入することができないから、水の需要がない限り建設負担金が支払うことは許されない。
 後に検討するように、水需要がなく開発水が水道や工業用水道の用に供されないことが明らかである場合は、水公団は事業を行う財政的基盤を失うこととなる。単に公団法によって設立されていることや、資本が政府の全額出資であること、実施事業が建設大臣の認可を受けた計画に基づいているからといって経済的基盤が確実であるということはできない。
 よって、収用法20条2号に該当するということはできない。
第3 収用法20条3号該当性について
1 原判決の判断 −裁判の名に値しない判決−
 ここでは原判決の判断枠組みについてのみ述べ、処分の合理性を基礎づける事実及び推計に関する評価の誤りについては、後に述べることとする。
 原判決は、「政策的、専門技術的判断」、「社会公共の利益を増進させる見地」、「長期的、先行的観点」などの理由を付けて、被控訴人大臣に非常に広汎な裁量権を認めたうえで、被控訴人大臣の本件処分に裁量権の逸脱、裁量の濫用はなかったと判断した形式をとっている。
 しかし、原判決は、被控訴人大臣の主張をそのまま受け容れ、さらに一部では被控訴人大臣が主張すらしていない被控訴人大臣に有利な事実を証拠もなく認定して、控訴人の主張について全く判断しないまま、被控訴人大臣の本件処分を適法と判断している。
 原判決は、被控訴人大臣の裁量判断を審査した形式をとりつつ、全く審査を行わずに被控訴人大臣の判断を是認しており、裁判の名に値しないものである。
 以下、原判決の論理にどのような誤りがあったのかを述べる。

2 需要拡大を前提にした誤り
 原判決は、収用法20条3号の「事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること」の解釈について、「事業計画全体の合理性の有無は、・・・国土全体の土地利用の観点からみて適正かつ合理的であるか否かにより判断される。この判断は、事柄の性質上極めて政策的、専門技術的なものであって、洪水調節、利水、発電等の社会公共の利益を増進させる見地からの判断が要求される」(判決書p100)と述べる。
 この文言から、原判決が「洪水調節、利水、発電等」が社会公共の利益を増進させるものであるとの立場をとっていることが明らかである。しかし、本件では、本件事業において「洪水調節、利水、発電」が社会公共の利益を増進させるものか否かが争いになっているものであって、原判決は出発点からして被控訴人大臣側に立って判断しているものと言わなければならない。
 社会には洪水調節、利水、発電以外にも多くの利益が存在するのであるが、原判決は、洪水調節、利水、発電等の社会公共の利益を増進させる見地からの判断が要求されるとして、この三つの利益を増進させる、つまり、他の利益に比べて、この三つの利益を優越して推進するとの前提で検討を行っているものである。
 また、「洪水調節、利水、発電」を行う施設が社会公共の利益を増進させるのは、利水や発電では、需要が存在すること、洪水調節では洪水防御に役立つことが前提である。水需要がないのに利水施設を建設したり、電気を必要としないのに発電施設を作ったりすることは社会公共の利益を増進させることにはならない。むしろ、需要に対応しない施設を建設することは、社会公共の利益を損なうものである。
 以上のように、社会にその需要があるかどうか判断する前から、需要に対応する施設を建設することが社会公共の利益を増進するものと思い込んで判断することは誤っている。

3 専門技術的判断を理由とする判断回避
 原判決は、本件事業認定処分は専門技術的なものであるとする(判決書p100)。
 しかし、本件事業に即して、どのような専門技術性が問題になっており、その専門技術性ゆえにどのような裁量が処分権者に認められるかについて、原判決は理由を示さない。また、専門技術に照らして処分権者の判断が正しかったかどうかの審査を全くしていない。
 処分権者が専門技術的判断をなしているのであれば、当該専門技術に照らして、処分権者の判断が正しいものかどうか、客観的に検証が可能であり、専門技術によって合理性を裏付けることができる。したがって、処分権者が専門技術的領域に関わる判断をなした場合、裁量の範囲はむしろ狭くなるというべきである。
 原判決は、専門技術に照らして、処分権者の判断の合理性を検証すべきであったのに、そのような検証をしないまま判断をしており、全く誤っている。

4 余剰の水があることが政策的に正しいとした誤り
 原判決は、「水資源開発施設の計画を進めるに当たっては、長期的、先行的な観点から整備する必要があるとともに、自然を対象とすることから予測を超える事態が生ずることも想定して、予測と実際が異なったときにも支障を生じないだけの余裕を見込む必要がある。すなわち、水不足の事態を生ずるよりは、余剰の水がある事態の方が政策として安全かつ妥当であろう」(判決書p120)と述べている。
 これは新規水需要が将来的に必ず発生し、そのための新たな水資源開発施設が必要になるとの考えに立つものであり、先に指摘したと同じく需要拡大を前提にした誤りを犯しているものといえる。
 本件事業のような巨大公共事業を推進することは巨額な財政負担をもたらすものである。余剰の水がある事態というのは、供給に余裕があるということでは決してなく、無駄な施設を建設して支払い不能な財政負担を負ってしまったということである。将来水需要が発生しなければ施設は不要なものとなるだけでなく、建設費の負担は無駄になって回収できないばかりでなく、さらに必要もない巨額の維持管理費の負担を残すこととなる。莫大な建設費、維持管理費は、地方財政を圧迫し、破綻させるおそれもある。昨年来の徳山ダム建設費増額騒動で関係自治体が水利権返上をはかっているのは、そのような危機に直面しているからに他ならない。
 社会の需要に合致した適正規模の事業を行うことが、正しい政策的判断なのであって、需要に対応しない施設を建設することは政策的に誤りである。余剰の水があることは社会公共の利益に反するものである。
 「余剰の水がある方が政策として安全かつ妥当であろう」という原判決の認識は、余りにも安易な思い込みであり、このような考え違いが、処分権者が判断した水需要予測が合理的なものかどうかの審査を怠った原因であると言わなければならない。

5 長期的、先行的見地による判断を理由とする判断回避
 原判決は、「長期的、先行的な観点から整備する必要がある」から「予測を超える事態が生じることも想定して、予測と実際が異なったときに支障が生じない余裕を見込む必要がある」(判決書p120)と論じる。
 しかし、本件処分で問題となっている予測は、予測が超える事態が生じることを想定しなければならないほど遠い将来を目指して行われるべきものではない。被控訴人大臣は「開発の適地が希少で代替性の乏しく、複雑な権利関係を調整してはじめて建設が可能となる上、計画から完成に至るまで長期間を要する。このため、このような施設の整備は、一時的な経済の変動や水需要の状況に左右されることなく、長期的な観点に立って立案されるべきである」(判決書p23)と主張し、原判決も同様の立場に立っているようである。しかし、本件では、計画立案から完成に至るまでの期間が問題となっているわけではない。「本件事業は高度経済成長期である昭和46年に着工され、平成19年度に完成する予定である」(判決書p4)から、事業全体で見ると非常に長い期間を要しており、この間に、建設予定地の住民や、関係自治体、関係機関などとの利害調整などの準備を要している。しかし、本件訴訟で問題となっているのは、本件処分をなした1998年(平成10年)時点で完成予定である2007年(平成19年)に、遅くとも、水公団予測に用いられた2028年(平成30年)に新規水需要が存在するかどうかであって、9〜20年先の将来に関する予測に合理性があるか否かなのである。被控訴人大臣は、本件ダム建設事業の立案段階から完成までに要する期間と、本件訴訟で問題となっている将来予測の期間を意図的に混同させるような主張をしており、原判決もこの主張を鵜呑みにして判断をしているが、全く誤っている。
 原判決は、計画の目標年次に「予測を超える事態が生じている」可能性については全く言及していない。「予測を超える事態が生じている」おそれを合理性判断の要素とするのであれば、そのような事態が生じる可能性が認められなければならない。水需要の実績を真摯に検討すれば、9〜20年後の将来に「予測を超える事態が生じている」可能性はないことは明らかである。

6 水需要予測の結論の合理性に対する判断の欠落
 原判決が決定的に問題なのは、処分権者が前提にした、水需要予測の結論の合理性に対する判断をしていないことである。
 原判決は、予測の前提とした水需要実績データの取捨選択、あてはめた推計手法の選択などについて、実質的に審査を全くしていないけれども、一応形式的には取り上げて、判断をした体裁をとっている。
 しかし、本件処分の合理性を基礎づけるのは、完成予定の2007年度(平成19年度)に徳山ダムの開発水に対応する新規水需要が存在するかどうかという結論につきる。したがって、原判決は、まず、徳山ダム建設の根拠となる水需要予測の結論部分である水需要予測値が、水需要実績の推移に連続性があって適合する合理的なものかどうかを判断しなければならなかった。しかし、原判決はこの点について全く判断をしていない。
 原判決は、データの取捨選択、推計手法の選択について、「不合理とは言えない」などとして被控訴人大臣の主張をすべて容れているが、そのような「不合理とは言えない」ということの積み重ねと、「政策的、専門技術的」、「長期的、先行的」、「余剰の水がある事態の方が政策的に安全かつ妥当」などの言い訳によって、水公団予測や被控訴人大臣の水需要予測が合理的であると認められるかについて判断せずに、合理的な説明が不可能な結論に全く目をつぶっているのである。

7 小活
 後に検討するとおり、本件事業の前提となる水需要予測値の結論は、水需要実績のトレンドに全く適合しない、連続性のないものであり、合理性を認めることはできない。したがって、本件処分に合理性は認められず、3号要件に該当しないことは明らかである。
第4 収用法20条4号該当性について
 4号要件は、「収用という手段をとる必要性が認められるか。」を問題とするものである。
 収用という手段をとる必要性については、開発水の利用計画が全く具体化しておらず、計画が現実化される目途すら立っていないことを考慮する必要がある。
 徳山ダムの開発水は大垣地域と名古屋市の工業用水、愛知県と名古屋市の水道用水に利用されることになっている。しかし、大垣地域の工業用水道事業や水道事業は計画も立っていない。また、名古屋市の工業用水道事業と愛知県や名古屋市の水道事業は、専用施設としての取水・導水施設の計画もない。
 このように開発水の利用計画が具体化していないのは、そもそも新規水需要がないからである。需要がないから給水事業が現実化する可能性はない。また、たとえ無理に給水事業を実行しようとしても、これから事業計画を立て、用地を確保し、施設を建設して事業を開始するのは、何時になるか分からない。このような実施される可能性がなく、無理矢理実施しようとしても、何時になれば計画が立てられ事業が実施されるか分からないような、出来るかどうか分からない給水事業の水源開発のために、収用という手段をとることは必要性が認められない。
 できるかどうか、いつ使われるかわからない事業のために、収用という強制的手段を執る必要性は認められず、4号要件に該当しないことは明らかである。

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