徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


徳山ダム裁判 第二審

控訴理由書


 序章 はじめに

第1 原審弁論終結後のできごと
 原審は2002年(平成14年)12月25日に弁論が終結したが、その後、徳山ダムを巡って大きな動きがあり、衆目の関心を集める事態となっている。
 2003年(平成15年)8月になって、水公団は、突如として「総事業費が1010億円を上乗せした3550億円となる」との見込みを発表し、平成16年度予算として180億円を概算要求した。現行の徳山ダム事業実施計画では、徳山ダム建設事業費は総額2540億円であるから、水公団が示した上乗せ見込額は現行費用の約40%に相当する膨大なものとなる。水機構がこの時期に事業費の大幅増額の見込みを発表したのは、2003年(平成15年)度の建設事業で事業費の97%を使い切ることとなったからである。
 事業費増額に対して、開発水の供給対象地域として事業費を負担することとなる愛知県、岐阜県、名古屋市は、「公団から説明がない」「いきなり1010億円増額というのは納得できない」「事業費負担同意をしないこともあり得る」と一斉に非難した。
 治水費用を負担する三重県も強い不快感を示し、共同事業者である電源開発株式会社、買電予定の中部電力株式会社は「これ以上の事業費負担増は受け入れられない」と明言した。
 2003年(平成15年)10月9日に開催された、中部地方整備局事業評価監視委員会の2003年(平成15年)度第2回会議では、委員から、「前回審議(平成13年度事業評価監視委員会)から2年間で1000億円も増額するのは常識では考えられない」、「前回言及されていれば審議に反映できた。(事業費を使い切る直前まで増額を明らかにしなかったのは)悪しき先送り作戦といわれても仕方がない。極めて遺憾だ」等の意見が相次いだ。
 このような批判に対して独立行政法人水資源機構(2003年(平成15年)10月に水資源開発公団から改組)の斎藤仁志中部支社長は、「2年前(前回審議をした平成13年度事業評価監視委員会の時点)で、1000億円ほど増額することはわかっていた」、「いいかげんな数字を出すのはまずいと当時、判断した」と述べ、前回審議の時点で大幅な増額が必要となることを認識していたことを明らかにした。
 2003年(平成15年)7月に独立行政法人水資源機構法施行令が制定され、水資源開発施設について、事業の廃止や利水者の事業からの撤退に関する規定が整備された。
 現行の木曽川水系フルプランは、目標年次である2000年をすでに3年経過したが未改定であり、2003年(平成15年)7月に国土審議会水資源開発分科会木曽川部会が開催され、改定作業が始まった。2003年(平成15年)8月に、木曽川水系フルプランの改定のための2015年(平成27年)における水需給の想定調査の依頼を受けて、現在、愛知県、名古屋市、岐阜県は調査を行っている。
 このうち愛知県は、2004年(平成16年)2月16日に、水道用水として4m3/sを利用する現行計画を2.3m3/sに下方修正すると発表した。未利用となっている長良川河口堰の工業用水を水道用水に転用することで安定的な供給ができると判断したとしている。その他、名古屋市や岐阜県の水需要予測も横這い程度に大きく下方修正されることが確実視されている。その結果、新しい木曽川水系フルプランでは、水需要予測が下方修正されることは必至である。木曽川水系フルプランにおけるダム等の水資源開発施設計画は根本から修正されることとなる。徳山ダム建設事業についても、事業の廃止を含めて、木曽川水系フルプランや事業実施計画の作り直しが必要である。
 このように本件事業認定処分での利水上の必要性の根拠は、大きく揺らいでいる。
第2 控訴審審理にあたって配慮すべきこと
 このような動きは、本件訴訟に対して、いくつかの大きな示唆を与えるものと言わなければならない。
 第1に、事業計画の合理性を基礎づける新規水需要は、精確な需要予測に基づいてなされなければならないということである。
 原判決は、水需要予測で採用すべき手法、資料、予測の結果得られた結論について、ことごとく、「不合理であると断定することはできない」などとして、原審で控訴人がなした精確な予測方法に関する主張を全く検討しないまま、被控訴人の主張を丸呑みする判断をした。そのような判断の前提となっているのは、「水資源開発施設の計画を進めるに当たっては、長期的、先行的な観点から整備する必要があるとともに、自然を対象とすることから予測を超える事態が生ずることも想定して、予測と実際が異なったときにも支障を生じないだけの余裕を見込む必要がある。すなわち、水不足の事態を生ずるよりは、余剰の水がある事態の方が政策として安全かつ妥当であろう」(判決書p120)という思い込みである。
 しかし、本件事業のような大規模開発を進めれば、多額の財政負担を負わせることになる。今回の関係自治体、関係機関の対応は、「余剰水がある事態の方が政策として安全かつ妥当」などという安易な考えで事業の合理性を判断することはできないという当然の理を明らかにしたものである。
 第2に、水公団は、水資源開発施設の建設を推進するための特殊法人であるということである。
 今回の事業費増額騒動の中で、水公団は、現行計画の施設建設費を使い切る寸前まで建設事業を押し進め、次年度分の事業費をまかなうことができなくなった段階で、突如事業費の上乗せ見込みを発表した。常識的には考えられない不誠実な対応であり、関係自治体、関係機関、一般市民から非難が巻き起こったことは当然である。本体工事という既成事実を先行させて、見直しの余地をなくしてしまおうという意図が明白である。
 本件事業の合理性判断のもとになった資料は、水公団が作成し、被控訴人に提出した「徳山ダム事業認定に関する参考資料・資料V(徳山ダム公益性に関する資料)」(乙115)である。この参考資料では、基礎資料の選択、判断手法の採用において、控訴人が指摘したような不自然、不合理な部分が少なくない。しかも、その不自然、不合理な部分は、いずれも徳山ダム事業の必要性を基礎づける方向にはたらくものばかりである。これら基礎資料の選択、手法の採用の合理性を判断するにあたっては、参考資料が本件事業を遮二無二押し進めようとしている水公団によって作成されたものであることを念頭において、慎重に判断すべきである。
 第3に、水資源開発基本計画(フルプラン)の内容、および、それに基づく開発水や水利権の転用は変更の余地がない絶対のものではないということである。
 前述のとおり、愛知県は徳山ダム開発水の水道用水4m3/s分の一部を返上するとともに、長良川河口堰の開発水の工業用水分を水道用水に転用すると発表した。これは、愛知県の希望に応じて木曽川水系フルプランの改定や水利権の転用がなされるであろうことが前提になっている。ある施設で開発した水源に余剰が発生すれば、水利権者としては、それを他の用途に転用することも可能なのであって、単なる行政計画に過ぎないフルプランの枠組みに拘束されて転用ができないということはない。したがって、水資源開発施設単体ではなく、水利権の転用、移譲などを視野に入れた上で、フルプラン地域全体で開発水の需要と供給を検討する必要があるというべきである。

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