徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ
4.揖斐川の水害対策の下での徳山・横山ダムの新洪水調節計画案の問題点
在間正史(弁護士)
要約
徳山ダムと横山ダムの洪水調節容量を増量したうえ、両ダムの洪水調節方式を変更する新洪水調節計画案が発表され、1959年9月型洪水で万石地点における河道流量を計画高水流量3,900m3/sにできること、上流ダム計画を中止することが発表された。しかし、根尾川型洪水の場合は、河道流量を3,900m3/sにすることはできないと予想される。上流ダム計画の中止によって、工事実施基本計画は破綻した。 揖斐川の現況河道は、計画河道に比べて、流れにくく、また、河積も小さく、流過能力は小さい。しかし、計画河道に改修されると、流過能力は増大する。また、2mの堤防余裕高があり、実際の河道流過能力は大きい。揖斐川はかなり安全な河道である。 洪水が堤防を越えるのを完全になくすことはできない。揖斐川の水害防止において必要なのは、洪水が溢れても決壊しない堤防や輪中堤によって水害を防止することである。そのためには、徳山ダムの洪水調節と流水正常機能維持の治水用途は中止して、その治水費用は、洪水が溢れても決壊しない堤防構築等に充てられるべきである。 国土審議会水資源分科会は、木曽川水系水資源開発基本計画について答申を行う審議会である。したがって、徳山ダムの有効貯水容量を現行のままにして、新規利水容量を減量して、洪水調節と流水正常機能維持のための治水容量を増量する審議・答申することは権限がなく、できない。新たに、流域委員会等によって流域住民等が主体的にかかわって、木曽川水系河川整備計画が作成される。その後に初めて、国土審議会水資源分科会は、徳山ダムの有効貯水容量や新規利水容量の減量の審議・答申が可能となる。 |
揖斐川の洪水対策の下での徳山・横山ダムの新洪水調節計画案の問題点
1 万石地点河道流量は計画高水流量3,900m3/s以下になるか
万石地点上流の計画高水流量配分(m3/s)《図表1へ》 図表1 万石地点上流の計画高水流量配分 (m3/s) 図表1の工事実施基本計画の計画対象5洪水のなかで、徳山ダムと横山ダムで万石地点の河道流量が計画高水流量3,900m3/sを超えていたのは、図表2の徳山・横山従来計画欄のように、1959年9月型洪水と1960年8月型洪水である。また、2002年(平成14年)7月洪水でも計画高水流量を超えている。 現洪水調節計画と新洪水調節計画案の流量(m3/s)《図表3へ》 万石地点上流のダムである根尾川のダム計画はなくなった。根尾川の河道流量は図表3の基本高水流量となり、これが揖斐川本川へ流入していくことになった。また、新洪水調節計画案では、揖斐川本川では、河道流量が、万石地点より上流では、図表1の計画高水流量よりも更に少なくなることになった。 (1) 過去の洪水における水位と流量の関係 図表4 ◇は1975年(昭和50年)の前、◆は1975年(昭和50年)以後の値である。 1965年以前の洪水での粗度係数nが小さいことが読み取れる。これに対して、1975年(昭和50年)洪水での粗度係数n、また、1992年(平成4年)測量の河道での粗度係数nが大きいことも読み取れる。この粗度係数nが精確とすると、同じ4,000m3/秒を超える流量でも、図表2の観測水位と観測流量や図表4のように、1975年の前の洪水では水位が6m程度であるのに対して、1975年以降の洪水では水位が7m以上になっているのが、ある程度説明がつく。 現況河道は計画河道に比べて流れにくい粗度係数である。マニングの公式など平均流速の公式で流量は1/nに比例するように、粗度係数nが大きいと、流れにくく、同じ水位でも流量は小さい。逆に、同じ流量では水位は高くなる。 揖斐川の河積は、現況河積は、計画河積よりも小さく、計画河道に比べて河積不足である。現況河道は浚渫等により計画河道に河積拡大される。 工事実施基本計画の計画規模を超える洪水は必ず発生する。工事実施基本計画での揖斐川の計画目標が、100年に1回の確率で発生する可能性の計画規模の洪水に対して対策をとるものである以上、当然のことである。あらゆる洪水に対して洪水位が堤防高を超えないようにすることはできないのである。 揖斐川の中下流域は、堤内地盤高が洪水時の揖斐川本川の河川水位よりも低い。したがって、堤防が決壊したときは、大量の河川水が流入して、被害は甚大なものになる。このことは、監視委員会資料やパンフレットでも示され、強調されている。大量の河川水が流入する堤防決壊とその被害を防ぐことは重要である。 工事実施基本計画の計画規模を超える洪水は必ず発生し、あらゆる洪水に対して洪水位が堤防高を超えないようにすることはできない。また、堤防が決壊したときの被害は甚大である。そうであれば、河川計画は、このような超過洪水に対して被害を防止できるものでなければならない。 そのためには、堤防を洪水が溢れても決壊しないようにすることが第一である。洪水が堤防を越えても、越流するだけで堤防が決壊しなければ、流入水量は格段に少なく、被害も軽微で済み、無くすることもできる。また、輪中堤などの二線堤によって、水害被害を軽微にし、無くすこともできる。 2000年12月に河川審議会によって中間答申『流域での対応を含む効果的な治水の在り方について』が発表されて、「流域対応による治水」が打ち出された。遅きに失した感はあるが、「流域対応による治水」とは氾濫を受容する水害対策であり、21世紀の河川水害対策の方向を示すものである。洪水が溢れても決壊しない堤防や輪中堤などの二線堤の構築はその重要部分である。 したがって、揖斐川の水害防止において、現在世代の将来世代に対する責務として必要なのは、洪水が溢れても決壊しない堤防や輪中堤によって水害を防止することである。輪中地域として、川からの被災と恩恵に基づいて文化と風土を形成してきた揖斐川流域は、それを最初に実現する河川流域として最もふさわしい。 しかし、工事実施基本計画はもちろん新洪水調節計画案でも、決壊しない堤防をどのように構築するかについては、全く示されていない。このままでは、揖斐川では、破堤入水という甚大な被害が発生する。 揖斐川の水害防止のためには、徳山ダムの洪水調節と流水正常機能維持の治水用途は中止して、その治水費用は、洪水が溢れても決壊しない堤防構築等に充てられるべきである。 4 河川法の改正と国土審議会水資源分科会の権限 (1) 1997年に河川法が改正され、河川法16条の2第3項および4項に基づいて、流域委員会等によって流域住民等が計画作成に主体的に加わって河川整備計画が作成されることになった。これは、流域住民等が河川計画の作成に主体的にかかわる流域自治として改正河川法の最大の眼目であった。また、上記のように、2000年の河川審議会中間答申によって、21世紀の河川水害対策として、「流域対応による治水」つまり氾濫を受容する水害対策が打ち出された。 したがって、揖斐川の洪水に対してどのように水害防止を行うか、超過洪水を含めていかにして水害被害を無くしたり軽減するかを検討して決定するのは、改正河川法16条の2第3項および4項に基づいて流域委員会等によって流域住民等が主体的にかかわって行われる河川整備計画の作成においてであり、これと一体となった河川整備基本方針の作成においてである。 ところが、すでに河川法改正から6年を経過するが、揖斐川を含む木曽川水系では、河川整備基本方針も河川整備計画も作成されていない。未だに、その着手もされようとしていない。 (2) 徳山ダムの有効貯水量には、洪水調節と流水正常機能維持(不特定補給等)の治水用途が含まれている。これは、旧河川法での工事実施基本計画に基づくものである。 しかし、上記のように、河川法が改正され、新たに、流域委員会等によって流域住民等が主体的にかかわって河川整備計画を作成して、今後の河川計画を作成すべきものとされた。また、超過洪水対策の必要性と氾濫受容の流域対応による水害防止対策が方向づけられている。旧来の工事実施基本計画では今後の河川計画は決められないのであり、今後の河川計画は、新たな河川整備基本方針と河川整備計画で決められるのである。 (3) 国土審議会水資源分科会は、木曽川水系水資源開発基本計画について答申を行う審議会である。その計画の一つである徳山ダム建設事業でいえば、新規利水用途(容量)について審議する権限がある機関であって、洪水調節と流水正常機能維持(不特定補給等)の治水用途(容量)について審議する機関ではない。 現行木曽川水系水資源開発基本計画では、徳山ダム建設事業は、「新規利水容量約219,000千立方メートル(有効貯水容量約351,400千立方メートル)」と定められている。有効貯水容量と新規利水容量の差の容量は、洪水調節と流水正常機能維持のための治水(河川)容量などである。有効貯水容量をそのままにして新規利水容量を減量することは、洪水調節と流水正常機能維持(不特定補給等)の治水容量を増量することになり、治水用途の変更つまり河川の治水計画の変更をもたらす。 したがって、徳山ダムの有効貯水容量を現行のままにして、新たに、新規利水容量を減量して、洪水調節と流水正常機能維持(不特定補給等)の治水容量を増量すること、特に、新規利水容量の減量分を治水容量に振り替えることは徳山ダムの治水用途の変更である。国土審議会水資源分科会には、このことについて審議・答申する権限がなく、そのようなことはできない。 治水の用途や容量は、河川の治水計画(現行の改正河川法では、河川整備計画)において決められるべきことである。しかし、木曽川水系河川整備計画が作成されていないので、計画理論としては、徳山ダムの治水用途を有無を含めて決めることはできない。河川法改正附則2条の河川整備基本方針および河川整備計画がされるまでの間、工事実施基本計画をそれらとみなすのは経過措置であり、現状維持的にしか適用できない。少なくとも、治水用途・容量の変更はできないのである。 事業評価監視員会は、河川法上、河川整備計画等の河川計画に対して何の権限もない任意機関であり、住民参加手続もなく、その審議は河川整備計画の作成手続の代わりにはならない。 木曽川水系では、新たに、流域委員会等によって流域住民等が主体的にかかわって、超過洪水対策をとった氾濫受容の流域対応による水害防止対策を内容とする河川整備計画が作成されるはずである。そのなかで、徳山ダムについて、治水用途の有無を含めて決定される。 木曽川水系河川整備計画が作成された後になって初めて、国土審議会水資源分科会木曽川部会は、徳山ダムの有効貯水容量や新規利水容量の減量について審議・答申が可能となるのである。 |
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