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2.岐阜県大垣地域の将来の水需給

在間正史(弁護士)

要約

この度の木曽川水系水資源開発基本計画の改定に伴い、岐阜県は、2015年(平成27年)を目標年次とする新長期水需給計画をまとめた。
 大垣地域の工業用水需要量を46.5万m3/日と予測しているが、これは、回収率を38.8%と予測したものである。しかし、大垣地域では、地下水揚水規制をすることによって、現在の回収率35%が70%程度に向上するので、既存水源によって、上記需要量に対する供給が可能であり、大幅な余裕がある。新たに徳山ダムなどを水源とする工業用水道は不要であり、ダム使用権と工業用水道は不良資産となるうえ、支払い不能債務を生む。
 また、大垣地域の水道用水需要量を19万m3/日と予測しているが、大垣地域では既存水源で21.5m3/日の供給が可能である。したがって、既存の水源で供給可能であって、新たに徳山ダム等の河川水を水源として供給する必要がない。


岐阜県大垣地域の将来の水需給

1 岐阜県大垣地域の工業用水の将来需給

(1) 岐阜県の計画見直し
 木曽川水系水資源開発基本計画の改定に伴い、岐阜県は水需給想定調査を行い、2004年3月9日に、2015年(平成27年)を目標年次とする新しい長期水需給計画をとりまとめ、発表した(以下、新長期水需給計画という)。国土交通省に対する水需給想定調査の回報は、これを内容としている。そのうち、現行木曽川水系水資源開発基本計画で建設が計画されている徳山ダムの供給予定地域である大垣地域の需要予測は図表1の通りである。

z-graph01.jpg

 岐阜県は、「今後の工業用水需要量は、横這いまたは微増傾向で推移するものと考えられる。」とし、図表1のように、目標年である2015年の大垣地域の工業用水需要量は46.5万m3/日と予測した。現行長期水需給計画での2010年の大垣地域の工業用水需要予測量63.8万m3/日を大幅に下方修正したのである。
 しかも、この工業用水需要予測量は従来通り「製造品出荷額×使用水量原単位×(1−回収率)」により求めているが、製造品出荷額の予測においては安全側をとって、予測の上限の経済成長率を採用して、すなわち需要予測値が大きくなる大きめの経済成長率を使用しているのであるが、それでも工業用水需要量はこれほどの大きな変更となった。
(2) 工業用水の需要推計
 国土審議会水資源分科会第2回木曽川部会資料4のなかの「工業用水の需要試算値算出方法及び算出結果」において、「最終的に算出する試算値は工業用水道の使用量及び取水量であるが、まずは工業用水の補給水量を求める」とされている。そして、補給水量の算出は以下の式によるとされている。
  補給水量=工業用水補給水量原単位×工業出荷額(H7年価格) ……… (1)
  使用水量=補給水量/回収率 ……… (2)'
  (2)'式は次の(2)式の誤記である(以下では、(2)式を用いる)。
  使用水量=補給水量/(1−回収率) ……… (2)
 (1)式によれば、補給水量は工業出荷額と補給水量原単位によって変化するが、(2)式から、補給水量原単位は回収率によって変化するので、補給水量は、回収率によって変化す、る。したがって、(1)式で将来の工業用水の需要予測をするとしても、将来の回収率を精確に想定しなければならない。
 もし、将来、回収率が大幅に向上するのであれば、補給水量原単位は大幅に減少し、補給水量も大きく影響を受ける。
(3) 大垣地域における回収率の向上
 回収率は、使用用水量に対する回収水量の割合とされる。
 回収水は工場の工程内を循環している水である。したがって、回収水量は計測することができない。回収水量は、水量を計測したのではなく、全使用水量(つまり合計水量)から回収水以外の補給水の水量を差し引いて計算上求めた水量である。以下の関係にある。
  回収水量=使用水量−補給水量 ……… (3)
  回収率=回収水量/使用水量 ……… (4)
  補給水量=使用水量×(1−回収率) ……… (5)
 回収水は、使用水を循環再利用した水であるから、その水源は用途別の使用水である。再利用しやすいのは、工業統計の分類の用途別用水のうち、温度調整に用いられる冷却用水と温調用水、合わせて冷却温調用水である。これらは、基本的に冷やせば使用できる状態に戻って、再利用が可能となる。これに対して、製品処理用水と洗浄用水は、再利用のためには、使用後の廃水を再利用できる程度に浄化処理しなければならない。
 したがって、理論上は、冷却温調用水は100%の回収が可能である。そうすると、冷却温調用水の全用水量に対する割合を検討すれば、回収可能な水がどの程度あるか、どの程度の回収率まで可能であるかをみることができる。また、水源別用水量と用途別用水量は等しいので、冷却温調用水量と回収水量を比較すれば、回収可能な冷却温調用水のどれほどが実際に回収されているか、将来回収率の向上は可能か、どの程度可能かをみることができる。
 そこで、大垣地域と同じ岐阜県内の可児市とを比較したのが図表2である。
《図表2へ》

 大垣地域の回収率F/Aは、1990年(平成2年)は33%、2000年(平成12年)は37%である。冷却温調用水率J/Aは、1990年は73%、2000年は67%、回収水量/冷却温調用水量F/Jは、1990年は45%、2000年は55%である。大垣地域では、回収率は30%台と一般的水準からみて低いうえ、冷却温調用水の半分程度しか回収して再利用されていない。
 現在の大垣地域の全国的に見ても非常に低い回収率は、図表2のように、大垣地域の工業用水は殆ど全面的に地下水を水源としており、水使用者である工場にとって受水経費は地下水を汲み上げるポンプの電気代でしかないことが原因である。地下水は水質や水温で優れており、そのうえ経費的にも最も安価であるので、それが利用可能であれば、企業として最も使用したい水源である(この地下水が豊富であるということは、地域として最高の自然の恩恵であり、誇りとすべきものである)。補給水のなかで地下水の占める割合が大きいことが、回収率が低い理由である。
 これに対し、可児市でも、回収率F/Aは30%台と低い。しかし、製品処理洗浄用水率G/Aが60%前後であるのに対して、冷却温調用水率J/Aが30%台である。用途別用水量のなかで、廃水が汚れていて回収再利用が困難な製品処理洗浄用水の割合が高いのである。一方、回収再利用の容易な冷却温調用水についてみると、回収水/冷却温調用水F/Jは100%を超えている。冷却温調用水はすべてが回収再利用されている計算になるのである。そして、井戸水の補給水量における割合が4%と低いのに対して、工業用水道率B/Aが40%、工業用水道の補給水量における割合が60%近くある。可児市では、工業用水道依存度が高いのである。このように、工業用水道依存度が高くなると、回収可能な水、つまり、冷却温調用水の回収が高まり、回収率は、理論上可能な冷却温調用水率まで高まり、むしろ、それ以上の率になる。これは愛知県尾張地区において、尾張工業用水道事業が事業開始して、工業用水道法による地下水揚水規制が実施された後でも見られている現象である。
 可児市や愛知県尾張地域の例は、工業用水道依存度が高くなると、回収再利用が進み、回収率は、冷却温調用水率よりも高くなることを明らかにする重要な実例である。つまり、地下水揚水規制などによって水源が地下水から工業用水道になると、回収水量は冷却温調用水量よりも多くなる、つまり、回収率は冷却温調用水率よりも高くなるのである。
 大垣地域では、回収水量/冷却温調用水量F/Jは、2000年でも55%であり、回収率向上の余地は非常に大きい。もし本当に厳格に地下水揚水を規制すれば、また、強制的に地下水代替水源の工業用水道の使用を強制すれば、経費削減のために回収率が飛躍的に上がることは間違いない。回収率は冷却温調用水率の70%程度まで向上する可能性が高い。
 その結果、回収率が向上すると、(1)、(2)式より、補給水量原単位は大幅に低下し、補給水量は、工業出荷額の増加があったとしても、これを相殺して、現在値よりも、横ばい乃至減少することになる。
 図表1の新長期水需給計画での2015年の予測回収率38.8%は、地下水揚水規制を前提とするものであれば、誤った過小な回収率である。上記のように、地下水揚水規制をすれば、回収率は冷却温調用水率の70%程度まで向上するのである。
(4) 回収率の向上による供給削減
 新長期水需給計画は、2015年の工業用水需要量(補給水量)の予測を回収率38.8%で計算している。図表1の新長期水需給計画の水需要予測における工業用水使用量を前提にしても、回収率を70%に上昇させることによって、以下の計算のように、需要に対する供給が十分に可能であり、大幅な余裕がある。
 需要量=使用水量×(1−回収率)ゆえ
 @使用水量(予測)
  2010年 71.8万m3/日 ≒44.8万m3/日÷(1−0.376)
  2015年 76.0万m3/日 ≒46.5万m3/日÷(1−0.388)
 A回収率を70%とした場合の将来の需要量(予測)
  2010年 21.5万m3/日 ≒71.8万m3/日×(1−0.7)
  2015年 22.8万m3/日 ≒76.0万m3/日×(1−0.7)
 B既存水源(地下水)による将来供給可能量
   新長期水需給計画では地下水揚水量を平成6年の81%に削減するとしている
   (工業用地下水揚水量は平成6年以降、年々減少している)
  1990年地下水揚水量(需要量)53.0万m3/日の81%   42.9万m3/日
  1998年地下水揚水量(需要量)44.8万m3/日の81%  36.3万m3/日
 C既存水源による将来供給可能量(B)と将来需要量予測(A)との比較
  1990年基準の供給可能量42.9万m3/日>A2010年・15年予測需要量
  (Aとの差)  2010年 21.4万m3/日  2015年 20.1万m3/日
  1998年基準の供給可能量36.3m3/日>A2010年・15年予測需要量
  (Aとの差)  2010年 14.9万m3/日  2015年 13.5万m3/日
 以上により、地下水揚水規制により回収率が向上すれば、向上分が代替水源となり、それだけで地下水代替水源として必要十分であって、徳山ダム等の河川水を水源とする工業用水道事業は必要ないのである。
 そして、工業用水道事業を行ってしまえば、回収率の向上が一挙に進んで工業用水道は使用されず、徳山ダム建設ダムの費用はもちろん、さらに工業用水道事業自体の経費も料金で支払えない不良資産を増大をさせてしまう。その結果、岐阜県の一般会計が多大な損害を被ることになる。この点から、徳山ダムによる新規利水開発は、不要なのではなく、行ってはならない事業である。

2 岐阜県大垣地域の水道用水の将来需給

 岐阜県は、新長期水需給計画において、徳山ダムの供給予定地域とされる大垣地域の水道用水の需要予測を図表3のようにまとめている。

z-graph03.jpg

 大垣地域は、現在の水道用水の水源はほとんどが地下水である。大垣地域では、上水道の計画1日最大取水量が19.4万m3/日、簡易水道の最大給水量実績推定値が2.1万m3/日であり、合計21.5m3/日である。これを大垣地域の供給可能水量と見ることができる。
 図表3の新長期水需給計画の2015年予測値19万m3/日は上記供給可能水量21.5万m3/日を下回っており、供給能力を超えていない。
 したがって、水道用水需要が新長期水需給計画の予測のようになっても、既存の水源で供給可能であって、新たに徳山ダム等の河川水を水源として供給する必要がないのである。

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