徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


1.木曽川水系フルプラン資料(2004年4月13日)
及び関係県市の需要想定調査への批判

富樫幸一(岐阜大学地域科学部)

( 目 次 )

1.経緯と要約
2.木曽川部会資料の検討
3.旧フルプランと実績の対比(資料3)
4.次期水資源開発基本計画に係る想定需要(資料4)
5.水道用水の需要想定値と需要試算値,再計算試算値
6.工業用水の需要想定値と需要試算値(工水プラン案,工水対比)

《資料ファイルへ》


(要約)


 木曽川水系水資源開発基本計画(フルプラン)は,1993年の全部変更において2000年を目標とした需要予測が行われていたが,同年の実績は工業用水の減少,水道用水の横ばい化の結果として大幅に下回り,過大な予測であったことが明らかとなった.水源施設等の整備の進捗だけなく,水余りの現状から専用施設がなくて水利権も設定されていない部分が木曽川総合用水や長良川河口堰において膨大に存在おり,一般会計に過大な負担を引き起こしていることが全く触れられていないのは問題である.
 今回示されている2015年を目標とした需要予測は,各県からの「需要想定調査」の回答と,国土交通省水資源部が独自に行なった「需要試算値」を対照して,ほぼ前者が上回るが大きな差はないという判断から需要想定調査に基づくとされている.しかしながら,岐阜県,愛知県,特に回答の対象外の名古屋市の独自の公表資料も検討すべきであるし,想定調査と需要試算値を精査すると,見過ごすことのできないモデルや数値上の問題が多数存在している.
 水道用水においては,愛知県における人口の過大予測,名古屋市の人口一定の想定と都市活動用水の過大予測,岐阜県では負荷率と利用量率の低下など不適当な資料操作が存在する.家庭用原単位,負荷率,利用量率を一定として再計算したところほとんど不変の結果となる.
 工業用水においても,水資源部の出荷額成長率の想定に対して岐阜県と三重県の値は高すぎる.補給水原単位は示されているが,その前の出荷額当りの使用水量原単位も算出すると,愛知県の場合は上昇するという不自然な値がとられている.岐阜県では1998年までの統計によって2015年のほぼ横ばいの予測を行なっているが,最新統計が利用できる2002年まで減少傾向が継続しており,すでに実態と乖離している.さらに岐阜県では地盤沈下対策として地下水規制とダム水転用も検討されているが,そのために必要とされる工業用水法による手続きや高コストの工業用水への強制転用による企業側への負担説明など,説明責任が果たされているとはいえない.


1.経緯と要約

 木曽川水系の水資源開発基本計画は,長良川河口堰着工後の1993年に2000年を目標とした全部変更が行われたが,すでにこの年を過ぎても膨大な水余りの実態が余りにも明らかであり,計画の見直しはまたもや先送りされてきた.それにも関わらず,徳山ダムの本体工事が着工されて事業が進捗してしまっている中で,2004年度予算の概算要求ではこれまでの事業費の2,540億円を約1,000億円も大幅に超過することが明らかとなった.2004年度の政府予算では,徳山ダム事業実施計画,さらには利水計画の変更を伴うフルプランの変更を行なわない限り,予算の増額が認められないという事態ににまで陥ったのである.
 この事業費及び財政負担の見直しの問題から,木曽川水系フルプランの変更作業が始まるという,本末転倒した事態そのものが大きな問題であるが,追加事業費の盛り込みをねらって,国土審議会水資源開発分科会木曽川部会で,昨年7月以来,検討が開始され,関係4県に対しては需要想定調査の依頼が行われた.岐阜県,愛知県,名古屋市,三重県に対しては,それぞれ「徳山ダムをやめさせる会」として,検討中の情報の公開とオープンな議論を求めて交渉を行なってきた.
 2004年度当初予算では,事業費増額の公式的な裏付けのない追加事業費分はさすがにカットされたのだが,追加事業費を補正予算に盛り込むために,木曽川部会及び中部地方整備局事業評価監視委員会を早急に開いて,追認するための作業が行われている.
 これに対して,新たなフルプラン資料(木曽川部会,2004年4月13日),ならびに岐阜県,愛知県,名古屋市の利水計画の変更と需要想定調査結果について検討したところ,結論的には

(1)工業用水の減少,水道用水の横ばいという実績に照らして,大幅な下方修正が行われているものの,適切とは考えられない資料操作によって一定の水需要の増加を見込むことによって,引き下げられた徳山ダムの利水上の必要性を無理に証明しようとしている.

(2)最近20年間における渇水確率の適用によって,木曽川水系の水源施設の実際の供給能力が計画能力を大幅に下回ることのみが強調されて,新規の徳山ダムの建設を合理化しようとしているが,異常渇水時のソフトな調整(河川維持流量の引き下げ,農業用水からの転用,木曽川のダム群の統合運用)のなど,これまでに既に実績のある手法を意識的に排除している.

(3)かりに徳山ダムの利水容量を引き下げて,渇水対策に使うとしても,それに必要とされる専用施設の計画や費用の検討が実質的にほとんど行われていない.また,岐阜県の場合には地盤沈下対策としての地下水からダム水への転用も検討されているが,そのために必要とされる工業用水法による手続きや高コストの工業用水への強制転用による企業側への負担説明など,説明責任が果たされているとはいえない.

(4)各県の需要想定調査,名古屋市の利水計画,さらには需要想定調査結果と国土交通省水資源部独自の需要予測を詳細に検討(「精査」)すると,見過ごすことのできないモデルや数値上の問題が多数存在している.

 このような杜撰な資料に基づいて,徳山ダム事業の推進がフルプラン,事業実施計画として認められていくことは容認できない.国民,住民に対して,広く開かれた情報の公開と民主的な議論をわれわれは要求するものである.

2.木曽川部会資料の検討

 第2回木曽川部会は非公開で行われたが,ホームページに掲載された審議概要によると,各委員からは多少の意見は出たものの「概ね妥当と考えられる」という方向性となったものと思われる.直後に公開された資料も膨大なもので,関係者が短期間に準備した作業量は大変なものであったとも推察されるが,これを短時間の審議で結論づけるのは本来,無理であろう.また,われわれが地元の県市との交渉やそれぞれが公表した利水計画の変更に関する資料の検討もなされていない.
 以下,公表された資料に即してコメントしていく.

3.旧フルプランと実績の対比(資料3)

■旧プランの目標と実績
2000(平成12)年の旧プラン目標と実績を対比して,過大な予測であったことを一応明らかにしている.われわれが1993年プランに対して批判した「過大予測」という指摘が正しかったことが事実によって認められたことになる.(3-12に諸元の総括表)

■工業用水における地下水等の扱い
なお,この対比において注意を要する点は,水道は「地下水」を含んで61.1m3/sの予測に対して44.5m3/s,約73%の実績,工業用水は「工業用水道事業」分だけで,33.3m3/sに対して15.4m3/sの46%とされていることである(3-1,3).ここでは地下水,上水道等を除き,地下水のみ別途検討していることになるが,これらの合計は約18m3/s(2000年)であり,水道と工業用水の基準をそろえるべきであろう.

■長期的な傾向と構造変化
図1と図3のグラフを見ると,1985(昭和60)年実績と2000(平成12)年実績の棒グラフの対比では,想定値を大幅に下回るとはいえ実績は増加したように見えてしまうが,第1回部会(2003年7月)資料では毎年の経年的なグラフもあったことから,80年代末のバブル期の増加はともかく,1990年代の工水の減少,90年代後半以降の水道需要の低迷も構造的な変化として付記されるべきである.後で見る長期的な需要予測でも,こうした構造変化が明示されないことによる問題がでてくる.

■水源施設の進捗状況だけで,専用施設等の未整備は無視
取水実績との対比は,渇水の発生との関係でのみ言及されている.開発水量に対して現実に専用施設が完成して水利権が設定されている水量との格差は非常に大きいことが意識的に排除されている.したがって,通常の専用施設の状況やその必要性・コストについて,以下の検討でも出てこない.かりに異常渇水対策も問題があるとしても,専用施設がなければ事実上は無意味である.

4.次期水資源開発基本計画に係る想定需要(資料4)

■2015(平成27)年を目標としている.

■各県の「需要想定値」と水資源部の「需要試算値」の二重性
「水道及び工業用水の需要想定値については,国土交通省水資源部が関係県に対して実施した需要想定調査の結果を基に設定する.
 なお,これらの需要想定値について検討するため,吉野川水系フルプランの改定(平成14年2月)の際に用いた試算方法と同様に,国立社会保障・人口問題研究所が全国共通の方法により産出した人口伸び率の推計値,内閣府等が設定した全国の経済成長見通しの推計値等を用いて,近年の傾向等を基にして需要試算を行い,それと需要想定値との比較検討を行った.」(4-7)

 以下,名古屋市,愛知県,岐阜県の需要想定調査に関係した資料も合わせて検討していく.
・名古屋市上下水道局(平成16年3月22日)「水需要予測及び徳山ダムの必要水利権量について」
・愛知県企画振興部土地水資源課(平成16年2月16日)「徳山ダムの利水計画の見直しについて」
・岐阜県基盤整備部水資源課(平成16年3月9日)「徳山ダムの利水計画の見直しについて」

■対比の結果
 岐阜県水道:想定値,11.79m3/s>試算値より2.8m3/s多い 
 愛知県水道:    32.56m3/s>      1.7m3/s
 三重県水道:    7.67m3/s>      0.9m3/s

 岐阜県工水:   ,1.83m3/s>      0.1m3/s
 愛知県工水:    14.47m3/s<       1.2m3/s

 以上より,地元の各県からの回答前に,水資源部でも独自の作業が行われたことが分かる.結果を見ると,地元の予測の方が大きい(愛知県工水を除く)のだが,大きな差はないというは判断からか,この地元想定値の方を基にして設定するとなっている.

5.水道用水の需要想定値と需要試算値,再計算試算値

■水道用水の需要試算のモデル(4-18)
家庭用水(有収水量)原単位=
a×(人口当たり所得)b×(水洗化率)c×(高齢化率)d×(冷房度日)e
 長野県を除いて(重)決定係数は高いが,変数毎の各県の係数値で(水洗化率),(高齢化率)の係数がばらつきすぎている.ここからモデルの妥当性には疑問が残る,まだわれわれ独自の計算は行なっていないが,とりあえず個別の変数間の相関係数値を示すべきであろう.

■水道用水の各県の2000年実績と2015年需要想定値(水道プラン案,水道対比1・2)
@愛知県
・行政区域内人口:5,065→5,251千人
 国立社会保障・人口問題研究所の市町村別人口予測(2003年12月)5,064→5,153千人
 愛知県の人口が過大予測.人口研予測では,名古屋市の減少(2,171,557→2,109,639人)を尾張用水・愛知用水地域での増加(2,891,997→3,042,985人)が上回る程度.
名古屋市の人口想定は,H14年実績が219.3万人(市内回帰),予測(H27)は同一値の219万人.

・都市活動用水有収水量 412.8→404.4千m3/日
 工場用水(水道分) 66.00→89.50千m3/日(これも過大)

・名古屋市の年活動用水の過大予測予測との不整合
  営業用 市内昼間人口  H14年実績 251.4万人(過去最高254.3万人減)
              予測     270万人(過大評価)

  営業用   実績17.8 2010計画 20.0 予測22.9万m3/日

A岐阜県
・有収率は引き上げているが(81.9→87.9%),負荷率(82.6→77.7%),利用量率(97.7→92.8%)を逆に引き下げているのは疑問である.

■諸元を変えた場合の需要予測の再計算試算値(水道修正予測)
@家庭用有収水量原単位(90年代後半から横ばい),負荷率,利用量率を2000年=2015年とする.
A人口,都市活動用水,工場用水は,一応,各県予測値を採用
B有収率では上昇する予測を採用

【参考:水資源部の試算方法】
・有収率,利用量率は一定.負荷率は最近10年のうち,下3年間の平均値.(4-22)

・日最大取水量は,46.93→52.37m3/sの需要想定値に対して,45.21m3/sでほとんど不変の結果となる.つまり,水道用水の需要増加は諸元を操作した結果にすぎない.

6.工業用水の需要想定値と需要試算値(工水プラン案,工水対比)

■工業用水の需要試算のモデル(4-23?26)
 工業用水補給量原単位=
a×(経過年,S55年=1)b×(水源構成:地下水,表流水,その他の比率)c

・三重県の基礎素材型で決定係数が低すぎる
・岐阜県は基礎資材型,加工組立型,生活関連型とも(水源構成)の係数値が高い

■1980?2000年の期間で回帰:フルプランエリアの全業種で再計算した結果(図)
・全体としてみると適合性が高いのだが,94年渇水(工水減),90年代後半も時系列回帰部分と補給水原単位の逓減傾向の停滞にギャップが生じている.原単位はこうしたモデル上の説明変数ではなく,実質出荷額の増減と補給水量の減少傾向の表面的な結果であるとするわれわれの主張の方が正しいはずである.

■工業出荷額の成長率
・「出荷額の将来の伸びは,H13年及びH14年は経済成長率の実績値,H15年からH22年までは「構造改革と経済財政の中期展望」(H14.1.25閣議決定)及び同参考資料(内閣府作成)で示された推計値,H23年からH27年までは国土交通省国土計画局における推計値を採用」(4-24)
 2001(H13)?2015(H27)では22.0%の伸び→年平均成長率に直すと1.33%
・愛知県(1.49%)はともかく,岐阜県(3.11%),三重県(2.90%)の想定は高すぎる.

■淡水使用水量原単位と愛知県分の再計算
・淡水補給量原単位は示されるが(4-13?17),回収水を含めた使用水量原単位が明示されていない.
・愛知県の場合は,56.4→58.1m3/日・億円というおかしな結果であることが分かる.仮に使用水量原単位が50.0m3/sに低下すると想定すれば,工業用水補給水量は1,652→1,869千m3/sの増加ではなく,1,605千m3/sへの減少になる.

■回収率,負荷率,利用量率
・回収率は岐阜県は想定値(37.4%)が試算値(31.1%)より高い.
・負荷率では試算値で愛知(82.5%),岐阜県(82.5%),三重県(80.8%)と想定値より低すぎるために,平均取水量に対する最大取水量が大きくなっている.

■実態的に減少傾向にある工業用水が,微増の傾向に転じることを想定している.
・岐阜県の場合でも,1984(昭和59)?1998(平成10)年までのデータを用いているが,2002年まで統計が公表されており,2002年までも右肩下がりが続いている.横這いまたは微増傾向の予測では,実績とすでに乖離することが明らかである.

■工業用水の需要試算のモデル(4-23?26)
 工業用水補給量原単位=
a×(経過年,S55年=1)b×(水源構成:地下水,表流水,その他の比率)c

・三重県の基礎素材型で決定係数が低すぎる
・岐阜県は基礎資材型,加工組立型,生活関連型とも(水源構成)の係数値が高い

■1980?2000年の期間で回帰:フルプランエリアの全業種で再計算した結果(図)
・全体としてみると適合性が高いのだが,94年渇水(工水減),90年代後半も時系列回帰部分と補給水原単位の逓減傾向の停滞にギャップが生じている.原単位はこうしたモデル上の説明変数ではなく,実質出荷額の増減と補給水量の減少傾向の表面的な結果であるとするわれわれの主張の方が正しいはずである.

■工業出荷額の成長率
・「出荷額の将来の伸びは,H13年及びH14年は経済成長率の実績値,H15年からH22年までは「構造改革と経済財政の中期展望」(H14.1.25閣議決定)及び同参考資料(内閣府作成)で示された推計値,H23年からH27年までは国土交通省国土計画局における推計値を採用」(4-24)
 2001(H13)?2015(H27)では22.0%の伸び→年平均成長率に直すと1.33%
・愛知県(1.49%)はともかく,岐阜県(3.11%),三重県(2.90%)の想定は高すぎる.

■淡水使用水量原単位と愛知県分の再計算
・淡水補給量原単位は示されるが(4-13?17),回収水を含めた使用水量原単位が明示されていない.
・愛知県の場合は,56.4→58.1m3/日・億円というおかしな結果であることが分かる.仮に使用水量原単位が50.0m3/sに低下すると想定すれば,工業用水補給水量は1,652→1,869千m3/sの増加ではなく,1,605千m3/sへの減少になる.

■回収率,負荷率,利用量率
・回収率は岐阜県は想定値(37.4%)が試算値(31.1%)より高い.
・負荷率では試算値で愛知(82.5%),岐阜県(82.5%),三重県(80.8%)と想定値より低すぎるために,平均取水量に対する最大取水量が大きくなっている.

■実態的に減少傾向にある工業用水が,微増の傾向に転じることを想定している.
・岐阜県の場合でも,1984(昭和59)?1998(平成10)年までのデータを用いているが,2002年まで統計が公表されており,2002年までも右肩下がりが続いている.横這いまたは微増傾向の予測では,実績とすでに乖離することが明らかである.

graph01.jpg

 図 フルプランエリアの全製造業の補給水原単位の実績とモデル式による予測値

(単位m3・日/億円・年)

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