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社会 |
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<ニュースインサイド>
『徳山ダム』住民移転先で地盤沈下
徳山ダム(岐阜県藤橋村)建設に伴い、水没予定地の旧徳山村民83世帯が集団移転した同県本巣市の「文殊(もんじゅ)団地」。1987年に地盤沈下が判明し、家屋が損傷するなどした52世帯には、ダム事業を進める水資源機構が再移転などの対策をとっている。ところが、対策の対象外とされた31世帯でも家屋損傷の被害が相次いでいることが分かった。古里を離れて約20年。移転先でも苦労に見舞われる旧村民の思いは−。団地を訪ねた。(岐阜支社報道部・小中 寿美)
岐阜市中心部から車で北西へ約30分。水田に囲まれた住宅街の一角に文殊団地はある。52世帯の多くは、既に近くの団地などに再移転し、かつて家があった場所は、コンクリートの基礎が残るだけだ。
団地南側の傾斜地には木造2階建て庭付きの豪華な家が並ぶ。対象外の31世帯の住まいだ。この一軒一軒すべてに被害が出ているという。
梅本花子さん(78)宅は、応接間やトイレのドアが閉まらなくなった。道路を横切る亀裂はタイル敷きの玄関先まで届いた。梅本さんは「どんどん大きくなるみたい」と顔を曇らせる。山本信次さん(80)宅は庭の敷石を真っ二つにして亀裂が走り、部屋の畳は傾きからか不自然に浮く。「ここが安住の地、骨を埋めるとこやと思ったのに…」
目を凝らすと、家の壁や石垣など至る所に細かいひび割れが見られる。庭の土が陥没した家、車庫の床のマンホールのふたが8センチも沈み、鉄板を敷いた家もある。「何より怖いのは地震。揺すったら持たんと思う」。住民の一致した不安だ。
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地盤沈下について対象外とした31世帯に機構は何も説明してこなかった。住民の求めに応じて機構が初めて説明会を開いたのは一昨年5月。団地の地盤沈下が明らかになって15年も後だ。
「対象にならないのは沈下しない(もともと山の)地山部分だから」。機構の説明に、その場は収まったが、同年秋、ある世帯が車庫増築のため敷地を掘り返すと、地下1・5メートル辺りで粘土層が現れ、ごみが出てきた。
「地山じゃなかったのか」。住民に不信感と不安が広がった。機構は、直径10センチほどの穴を深く掘るボーリング調査11カ所に加え、8世帯の敷地で深さ約2メートルの穴を掘って地層をみるトレンチ調査を実施。赤土の下はコンクリート片や空き瓶、ビニール袋などが混ざった黒土が出てきた。しかし、機構は「地盤沈下は1センチ以内で問題ない」と答えるにとどめている。
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今年1月、31世帯でつくる「文殊団地宅地問題対策協議会」は、被害の確認やトレンチ調査結果の詳しい説明を求める要望書を提出した。会長を務める山本さんは「悪いところがない家は1軒もない。文殊団地の問題は終わってはおらん」。町内会長の根尾惣七さん(68)は住民の願いを代弁する。「このままでいいのか悪いのか、事実を見てはっきりさせて」
地盤沈下対策対象の52世帯に含まれながら残っている世帯もある。臼井留吉さん(83)は、風呂場タイルがはがれるなど被害が早くに出て、修理したばかりに、後に始まった再移転を選択できなかった。ところが「昨年になって『再移転した跡地の利用で邪魔になるからいずれ出てもらう』と言われた」と憤る。
「確固たる判断で対策をとってきた。誠意を持って説明していく」と機構側。「ダムは国策だからと離村したが、機構のやり方には納得できない」と臼井さんら。溝は簡単には埋まりそうにない。
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