企画特集1 |
[’03取材メモから] |
【13】徳山ダム
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3分の1まで出来上がった徳山ダムの本体部分=11月27日、藤橋村で | 事業費増額 建設推進は袋小路に
利水巡り他県と溝
「治水安全度の向上のため、徳山ダムの07年度完成を強く要望する」
11月28日に大垣市内で開かれた徳山ダム建設の総決起集会。揖斐川流域市町村を代表した小川敏・大垣市長のスピーチに違和感を感じた。
強調するのは治水への期待ばかりで、批判が集まる肝心の利水には一言も触れなかったからだ。
その理由を尋ねた。小川市長は「徳山ダムの水は将来的には必要」と繰り返すが、必要時期や量は「読みにくい」などと明言を避け、「利水を問われると、歯切れが悪くなる……」と苦笑した。
下手に水の必要性を訴えると、完成後に償還が始まる利水の費用負担を押しつけられる。そんな意図が見え隠れした。
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県内で、同市以外に徳山ダムの水の利用を見込む自治体が13町あるが、利用計画はないままだ。それでも、梶原拓知事は「(徳山ダムの治水効果が発現する)試験湛水(たんすい)を、一日も早く実現したい」と建設を進めようとする。
愛知県や名古屋市は岐阜県と事情が異なる。国土交通省が揖斐川の氾濫(はんらん)で浸水する可能性があるとする地域に含まれておらず、2県市にとって、徳山ダムは単なる利水ダムだ。長良川河口堰(かこうぜき)の水余りが重くのしかかる2県市は、水資源機構の建設費増額案を認めようとしない。
愛知県は利水権の一部返上を検討し、名古屋市も与党会派の民主党名古屋市議団が市に撤退も視野に入れるよう求めている。
「徳山ダムはまるで岐阜県のためのダムだと思われているようだ」
岐阜県幹部は吐き捨てるように言った。
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財務省主計局は今月20日、来年度予算を内示した。国交省が要求した徳山ダムの建設費180億円を、「(事業費増額にあわせた)計画変更などの手続きがない」とバッサリ93億円に削った。
主計局は、計画が変更されれば残りの87億円も予算措置をする方針で、国交省は今年度中の変更を目指すが、三重県も加えた3県1市の同意が難航すれば工期が遅れることになる。とはいえ、増額の中身の精査や利水の見直しがおざなりになってもいけない。
こんな袋小路に迷い込んだ最大の責任は、事業費を使い切る直前まで増額を明らかにしなかった国交省と水資源機構にあると言わざるを得ない。
同機構中部支社の山口温朗副支社長は「節目節目で判断を仰ぐことは必要だった」と陳謝する。が、工期が遅れれば年約70億円の負担がさらに国民にのしかかってくる。
言葉だけでなく、その責任をとることが、上に立つ者の義務を意味する「ノーブレス・オブリージュ」ではないかと思う。 (大日向 寛文)
(おわり)
徳山ダム 治水や利水などを目的として藤橋村に建設中。水資源機構が事業主体で、総貯水量の6億6千万トンは日本最大。00年に本体工事を始め、07年度に完成予定。
現行計画の総事業費は2540億円だが、今年度中に2447億円を使い切る。このため、同機構は今年の8月以降、事業費を960億円増額する方針を打ち出し、国交省も計画変更の作業中だ。
ダムの妥当性を争った訴訟では、12月26日の岐阜地裁判決で国側が勝訴した。だが、水需要予測の見直しや自治体の負担増の解決も求めた。
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