徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ



徳山ダム裁判住民訴訟 第18準備書面

1 岐阜県予測
 1) 岐阜県予測の手法
 2) 工業統計表による上位8業種による検討の有用性
2 
生活関連型
 1) 岐阜県予測
 2) 繊維工業(甲13の3):在来型
 3) パルプ・紙・紙加工品製造業(甲13の4):在来型
 4) 食料品製造業(甲13の2):在来型
 5) プラスチック製品製造業(甲13の6):先端型
 6) まとめ
3 
基礎資材型
 1) 岐阜県予測
 2) 窯業・土石製品製造業(甲13の7):在来型
 3) 化学工業(甲13の5):先端型
 4) まとめ
4 
加工組立型
 1) 岐阜県予測
 2) 電気機械器具製造業(甲13の8)
 3) 輸送用機械器具製造業(甲13の9)
 4) まとめ
5 
岐阜県予測の基本的誤り
 1) 使用水原単位
 2) 回収率
 3) 工業出荷額
 4) 予測式自体の問題
 5) 工業用水道による供給必要水量の検討の欠如

1 岐阜県予測

1) 岐阜県予測の手法
被告岐阜県知事外1名は、平成12年5月10日付け準備書面(四)の第四の二において、その別紙「水需要予測モデル」を用いて、岐阜県が行った大垣地域の工業用水の需要予測(以下、この予測を「岐阜県予測」、別紙を「水需要予測モデル」という)を主張している。
岐阜県予測は2010年(平成22年)における工業用水需要量である淡水補給水量(以下、補給水量と略称)を予測している。そこでは、工業用水の最終使用者で需要家である製造業を「基礎資材型」、「加工組立型」、「生活関連型」に3分類し、さらにそのそれぞれについて「在来型業種」、「先端型業種」に分けて、合計6タイプの業種について工業用水需要量(補給水量)を予測している(「水需要予測モデル」1.モデル作成の方針を参照)。
もっとも、いずれのタイプにおいても、以下の需要水量予測式を用いている(「水需要予測モデル」2.需要水量予測式)。
   需要水量=使用水原単位×全事業所出荷額×(1−回収率)・・・・・・・・・(1)
回収水量は、使用水量−補給水量であるので、上記(1)式のうち、(1−回収率)とは使用水量に対する補給水量の率である。したがって、上記(1)式の需要水量は補給水量である。
そして、2010年における上記(1)式の右辺各項(説明要因)のうち、使用水原単位、回収率については、1984年から1990年までの実績値に基づく予測モデル式によって2010年予測値を求め、また、工業出荷額については、1994〜1998年は年率3.57%、1999〜2010年は年率2.80%の毎年の伸びを予想して、2010年の需要水量(補給水量)求めている。
その結果、大垣地域で、需要水量(補給水量)が1990年の530千m3/日から2010年には638千m3/日に増加する予測をしている。
回収率は、回収再使用が容易な冷却用水と温調用水の合計水量の全用水使用水量に占める割合と、それがどの程度回収再使用されているかによって大きく変化する。したがって、上記式(1)においては、回収率は需要水量に大きく影響する要因である。回収率については、「水需要予測モデル」2-3.回収率予測モデルによれば、モデル式によって求めている。採用したモデル式は、基礎素材型(在来型)はロジステック曲線、加工組立型(在来型)は修正指数曲線であり、その他の基礎素材型(先端型)、加工組立型(先端型)、生活関連型(在来型)、生活関連型(先端型)は全て実績固定である。
また、使用水原単位も、「水需要予測モデル」2-1.使用水原単位予測モデルによれば、同様にモデル式によって求めている。採用モデル式は、基礎素材型(在来型)、加工組立型(在来型)、基礎素材型(先端型)、加工組立型(先端型)、および生活関連型(在来型)は全てロジステック曲線、生活関連型(先端型)はベキ曲線である。

2) 工業統計表による上位8業種による検討の有用性
そこで、上記6タイプの業種の需要水量予測が過去の実績に照らして合理性のあるものであるのかを、「工業統計表・用地用水編」の大垣工業地区(大垣地域、大垣ブロックと同じ)の部分を用いて検討する(甲13及び甲14)。工業統計表は30人以上の事業所を対象とする経済産業省(旧通産省)の工業統計であり、被告岐阜県知事が用いた乙19『岐阜県工業用水需要量調査業務報告書』の「岐阜県工業統計調査」と資料の出所は同じものである。
大垣工業地区で、岐阜県予測での基準年である1990年において補給水量の多い業種を多い順に8業種を並べると、繊維工業、プラスチック製品製造業、パルプ・紙・紙加工製品製造業、化学工業、電気機械器具製造業、窯業・土石製品製造業、食料品製造業、輸送用機械器具製造業である(甲14p6)。
この8業種の合計水量は大垣地区全体の水量に対して、基準年の1990年(平成2年)においては、使用水量では612,427m3/日で、全体水量644,960m3/日の95%、補給水量では403,788m3/日で、全体水量434,561m3/日の93%である。したがって、この8業種を検討すれば、大垣地域全体を検討したとみてよい。
乙19『岐阜県工業用水需要量調査業務報告書』p3で、岐阜県予測における「先端型産業」(「先端型技術産業」ともいっている)が説明され、表1.4.1.2.2にその産業部門別の細分類が示されている。工業統計表の分類番号は、上2桁が産業別の中分類を、4桁で細分類を表している。例えば、中分類でプラスチック製造業に属する業種は新しい細分類では、「22**」と表示される。
同表1.4.1.2.2によれば、生活関連型(先端型)の対応業種は、プラスチックフィルム製造業、プラスチックシート製造業、プラスチックフイルム・シート・床材・合成皮革加工業、および他に分類されないプラスチック製品製造業と、他に分類されないパルプ・紙・紙加工製品製造業であり、大部分はプラスチック製品製造業である。また、基礎素材型(先端型)の対応業種は、大部分が分類番号の上2桁が化学工業を示す20となっており、化学工業である(残りは、窯業・土石製品製造業と非鉄金属製造業である)。1990年の使用水量をみると、化学工業は70,461m3/日で(甲14p6)、基礎素材型(先端型)は70,430m3/日であり(乙19p4)、両者は殆ど同じである。化学工業が基礎素材型(先端型)の中心をなし大部分を占めている。加工組立型(先端型)に対応する業種は、一般機械器具、電気機械器具、輸送用機械器具、精密機械器具の各製造業に分散している。
したがって、上記の上位8業種は、
 生活関連型(在来型):食料品製造業、繊維工業、パルプ・紙・紙加工品製造業
 生活関連型(先端型):プラスチック製品製造業
 基礎資材型(在来型):窯業・土石製品製造業
 基礎資材型(先端型):化学工業
 加工組立型(在来型)と同(先端型):輸送用機械器具製造業、電気機械器具製造業
と6タイプに分散しており、全ての類型をカバーすることができる。
そこで、以下では産業分類ごとに、代表的で水量も多い業種ごとに過去の実績を分析し、岐阜県予測に合理性があるかを検討する。

2 生活関連型

1) 岐阜県予測
岐阜県予測における生活関連型(在来型、先端型)の2010年(平成22年)における需要水量は442千m3/日であり、全体水量638千m3/日のうち69.2%を占めることになる。そのうち、(在来型)は392千m3/日で61%であり、第1位で、それもずば抜けた割合である(「水需要予測モデル」3.需給水量予測)。
乙19p5、6によれば、生活関連型(在来型、先端型)の1990年における需要水量(補給水量)は374千m3/日であり、全体水量530千m3/日の70.1%を占め、2010年と殆ど割合は変わらない。また、1990年から2010年の増加分は88m3/日で全体の増加分108千m3/日の81.4%を占めている。
乙19p4によれば、従業員30人以上の事業所の生活関連型(在来型)の需要水量(補給水量)は253,645m3/日で補給水量全体の58.4%である。乙19p5、6では、これを利用して従業員1人以上の事業所の生活関連型(在来型)の補給水量を求めており、それは320千m3/日で補給水量全体の60.4%であり、2010年と殆ど割合が変わらない。また、従業員1人以上の事業所の生活関連型(在来型)の補給水量の1990年から2010年の増加分は72m3/日で全体の増加分108千m3/日の66.7%を占めている。
したがって、1990年も2010年も、生活関連型、特にその在来型の需要水量が全体の大部分を占める構造は変わっておらず、生活関連型、特にその(在来型)の水需要動向が将来の需要水量に決定的な影響を持つことになる。
岐阜県予測では、回収率は、生活関連型(在来型)は実績最高値固定で2010年値は25.70%、生活関連型(先端型)は実績実績最高値固定で2010年値は66.80%である。

2) 繊維工業(甲13の3):在来型
繊維工業は、大垣地域の代表的業種であり、生活関連型(在来型)業種の中心を占める。実際、1990年(平成2年)では、使用水量は200,890m3/日で全体の31.1%、補給水量は155,496m3/日で全体の34.3%である。また、乙19p4によれば、生活関連型(在来型)の使用水量は319,532m3/日、補給水量は253,645m3/日である。繊維工業は、生活関連型(在来型)うち、使用水量で62.9%、補給水量で61.3%を占めている。したがって、繊維工業の動向は水需要の動向に大きな影響を与え、重要な意味を持つ。
実績は、1975年をピークに、使用水量、補給水量ともはっきりとした減少傾向が認められる。特に、1992年以降は、それ以前に比べて、減少の傾きが大きく、毎年の減少度が大きくなっているのが明らかで、1998年(平成10年)には1990年の50%を下回るようになっている。その結果、2000年には、全体水量に対して、使用水量71,996m3/日は13.7%、補給水量64,337m3/日は19.4%にまで落ち込んでいる。これは、大垣地域の産業構造が変化していること、特に、大垣地域において繊維産業自体が衰退していることを示している。
回収率は1989年の29%をピークに減少し、1990年は24%、2000年には11%にまで低下している。生産量の落ち込みによって水余りが生じているために、回収水を利用する動機付けが乏しいことを物語っている。上記のように、岐阜県予測では、繊維工業が中心を占める生活関連型(在来型)の回収率は過去1984〜1990年の実績最高値固定によって25.7%である。
冷却・温調率は1990年では82%、2000年では70%であり、冷却・温調用水に対する回収水の割合(B/E)は1990年では27%、2000年では15%である。最も回収再使用が容易な冷却・温調用水の少ししか回収されていない。冷却・温調用水は使用後そのまま冷却するだけで容易に再使用が可能となるので、理論的には全部を回収することが可能であるから、回収率を冷却・温調率程度まで向上することは可能で容易である。したがって、回収率が向上して補給水量(需要水量)が減少することは容易である。
岐阜県予測の実績最高値固定の回収率25.7%は、まだ大幅な向上、冷却・温調率の70〜80%程度までの向上が可能であり、25.7%で固定すべき値ではない。岐阜県予測の回収率25.7%は過小な回収率である。

3) パルプ・紙・紙加工品製造業(甲13の4):在来型
1990年(平成2年)の水量全体に占める割合は、使用水量で10.5%、補給水量で12.6%である。
実績は、使用水量、補給水量とも1990年以降は横ばいから漸減傾向にあるといってよい。回収率は年ごとに変動が大きくバラツキがみられるが、回収率が高かった年は、冷却・温調率との差が少なくなっており、その年は冷却・温調用水が多く回収されていることが読み取れる。
1990年では回収率は24%、冷却・温調率が45%、冷却・温調用水に対する回収水の割合(B/E)は53%であり、2000年では回収率は18%、冷却・温調率が26%、冷却・温調用水に対する回収水の割合(B/E)は69%であるから、回収率向上の余地は十分残されている。
岐阜県予測の実績最高値固定の回収率25.7%は、まだ向上、冷却・温調率程度までの向上が可能であり、25.70%固定すべき値ではない。岐阜県予測の回収率25.7%は過小な回収率である。

4) 食料品製造業(甲13の2):在来型
実績は、使用水量、補給水量とも漸減傾向である。回収率はきわめて悪いが、これは原料用水として使用されるためであり、この業種の特徴である。
1990年(平成2年)の全体水量に占める割合は、需要水量である補給水量では4.9%であり、あまり大きな意味を持たない。

5) プラスチック製品製造業(甲13の6):先端型
1990年(平成2年)では、使用水量は157,977m3/日で全体水量の24.5%、補給水量は60,926m3/日で全体水量の14.0%である。また、乙19p4によれば、1990年の生活関連型(先端型)の使用水量は142,445m3/日で全体水量の22.1%、補給水量は49,513m3/日で全体水量の14.9%である。したがって、プラスチック製品製造業は、岐阜県予測での生活関連型(先端型)の中心を占めるとみてよい。
実績は、使用水量は統計がとられた1985年の120千m3/日台から1996年の160千m3/日台に微増したが、1996年以降は横ばいから微減である。補給水量は統計がとられ始めた1985年の40千m3/日台から1998年60千m3/日台に微増したが、1998年以降は横ばいから微減である。
回収率は60%台で推移している。プラスチック製品製造業は1985年から統計が開始されたことにみられるように新しい業種であり、設備も近代化されている。冷却・温調率は90%台であり、使用される水のほとんどが回収可能である。しかし、冷却・温調用水に対する回収水の割合(B/E)は1990年では68%、2000年では67%であるから、回収率向上の余地は十分残されている。
上記のように、岐阜県予測では、プラスチック製品製造業が中心を占める生活関連型(先端型)の回収率は過去の1984〜1990年の実績最高値固定によって66.8%である。しかし、上記の冷却・温調率90%からは、一層の回収率の向上が可能である。実績値66.8%固定は過小な回収率である。

6) まとめ
生活関連型の業種はいずれも、需要水量が横ばいか減少である。特に、需要水量全体の約60%、全体増加分の約67%と大部分を占める(在来型)の動向は重要である。なかでも、(在来型)の需要水量の約60%、したがって全体の約34%を占めて、その中心をなす繊維工業の動向は重要であるが、繊維工業では水需要の低下が著しい。
また、岐阜県予測では、将来の回収率を過去の実績値固定によって求めているが、過去の実績値が低すぎるので将来の回収率が過小になっている。過去の回収率は、冷却・温調率からみて、その向上が可能で容易である。
これらを考えると、水需要予測モデルのように、2010年(平成22年)に生活関連型の水需要が442千m3/日になることは全く考えられない。

3 基礎資材型

1) 岐阜県予測
岐阜県予測における基礎資材型の2010年(平成22年)における需要水量は110千m3/日であり、全体水量638千m3/日のうち17.2%を占めることになり、うち(先端型)が84千m3/日で全体の13%、(在来型)が25千m3/日で全体の4%を占める。乙19p5、6では、1990年の需要水量である補給水量は、基礎素材型で103千m3/日で全体水量530千m3/日の19.4%を占め、うち、(在来型)は47千m3/日で全体の8.9%、(先端型)は56千m3/日で全体の10.6%を占めている。2010年予測値は1990年実績値に比べて、基礎材型全体には大きな割合の変化はないが、基礎素材型(先端型)の水量および割合の増加を予測している。

2) 窯業・土石製品製造業(甲13の7):在来型
1990年(平成2年)では、使用水量は43,764m3/日で全体水量の6.7%、補給水量は26,750m3/日で全体水量の6.2%である。実績は、使用水量、補給水量ともにほぼ横ばいの傾向を示し、増加傾向にはない。この傾向からは、今後の増加の見込はない。
回収率は1992年から向上し、2000年には61%となっている。冷却・温調率が低いのに回収率が高いのは、業種の特殊性が反映している。窯業・土石製品製造業における製品処理洗じょう用水は、化学物質によって汚染されているものではないので、沈殿層によって土砂を取り除くことによって容易に再利用が可能である。このため、回収率が比較的高かったもので、近年は再利用がさらに進んだために、回収率の向上が図られているのである。

3) 化学工業(甲13の5):先端型
1990年(平成2年)は、使用水量は70,461m3/日で全体水量の10.9%、補給水量は46,288m3/日で全体水量の14.0%である。
化学工業が基礎材型(先端型)の中心でその水量の大部分を占めることは前述した。岐阜県予測では、基礎資材型(先端型)の需要水量(補給水量)が1990年の56千m3/日(30人以上事業所では52.6千m3/日)から2010年には84千m3/日に増加して、全体水量の13%を占め、生活関連型(在来型)に次いで第2位となる予測である(乙19p4〜6)。
実績は、1982年以降、使用水量は80千m3/日から60千m3/日の間で推移し、補給水量は50千m3/日から40千m3/日の間で推移し、共にほぼ横ばいないし減少傾向である。この傾向からは、今後需要水量が増加する予測は困難である。
回収率は1980年以降、一時期を除いて30%台で推移し、1990年は34%、2000年は40%である。
実績の使用水量は1990年の70,461m3/日が2000年には74,131m3/日に、補給水量は1990年の46,288m3/日が2000年には46,485m3/日にと、共に1990年と2000年とはほぼ同じである。乙19p4〜6によれば、岐阜県予測では、基礎資材型(先端型)の需要水量(補給水量)は、1990年の56千m3/日(30人以上事業所では52.6千m3/日)が2000年には60千m3/日となる予測である。これを1990年の1人以上と30人以上の事業所の値の比で30人以上の事業所に引き直すと、55.8千m3/日となる。基礎素材型(先端型)の大部分を占める化学工業の需要水量の実績は1990年と2000年とはほぼ同じであるのに、岐阜県予測は2000年実績値とほぼ同じ回収率を用いても需要水量が増加する予測であり、実績と乖離している。
また、化学工業の冷却・温調率は1990年では94%、2000年でも94%、冷却・温調用水に対する回収水の割合(B/E)は1990年では36%、2000年でも40%である。最も回収容易な冷却・温調用水が半分以上も回収されていない。冷却・温調用水の回収がはかられていく余地はかなりあり、過去の実績回収率30%台、岐阜県予測で用いられた実績最高固定値39.4%は向上する可能性はきわめて高い。
岐阜県予測の基礎素材型(先端型)の需要水量の大部分を占める化学工業の実績をみると、岐阜県予測のような基礎素材型(先端型)の需要水量が2010年に84千m3/日になることは考えられない。また、2000年の実績において、既に予測値が実績値と乖離しており、予測の誤りが統計資料として出ている。

4) まとめ
基礎資材型の実績は、補給水量、使用水量とも横ばい傾向にあり、その傾向からは、今後、需要水量が増加することはない。仮に使用水量が多少増加することがあっても、回収率の向上によって、結局、補給水量が増加することはありえない。岐阜県予測のような基礎素材型(先端型)の需要水量が2010年に84千m3/日になることは考えられない。
また、2000年の実績において、既に岐阜県予測の予測値が実績値と乖離しており、予測の誤りが統計資料として出ている。

4 加工組立型

1) 岐阜県予測
岐阜県予測における加工組立型の2010年(平成22年)における需要水量は85千m3/日であり、全体水量638千m3/日の13.3%を占めることになり、うち、(在来型)は31千m3/日で全体水量の4.9%、(先端型)は84千m3/日で全体水量の8.5%を占める。乙19p5、6では、1990年の需要水量である補給水量は、加工組立型は52千m3/日で全体水量530千m3/日の9.8%を占め、うち、(在来型)は31千m3/日で全体水量の5.8%、(先端型)は21千m3/日で全体水量の3.9%を占めている。2010年予測値は1990年実績値に比べて、加工組立型全体の割合が増加する予測をし、なかでも、加工組立型(先端型)の水量および割合の増加を予測している。
岐阜県予測および乙19p5では、加工組立型(在来型)の回収率は1990年は19.8%、予測では修正指数曲線により、2000年は23.6%、2010年は29.3%である。また、加工組立型(先端型)の回収率は1990年は9.5%、予測では実績最高値固定によりどの年も21.2%である。

2) 電気機械器具製造業(甲13の8)
1990年(平成2年)の使用水量に占める割合は5.1%である。
実績は、使用水量、補給水量とも漸増傾向である。回収率は1992年から向上を始めているが、それでも2000年の回収率は26%にすぎない。
1990年の冷却・温調率が58%で、冷却・温調用水に対する回収水の割合は12%であり、2000年における冷却・温調率が43%で、冷却・温調用水に対する回収水の割合は60%であることから、回収率は冷却・温調率程度まで向上することは可能で容易である。回収率向上の余地は十分にある。
上記した岐阜県予測の回収率21.3%は、電気機械器具製造業としては回収可能量の半分以下であり過小な値である。

3) 輸送用機械器具製造業(甲13の9)
1990年(平成2年)の使用水量に占める割合は2.6%である。
実績は、使用水量、補給水量ともほぼ漸減、横ばいの傾向である。回収率は10%台から30%台と低い値で推移し、1993年以降は減少傾向である。1993年の回収率は25%、2000年は16%である。産業自体が停滞しているか過剰な水余りにあることを示している。
2000年の冷却・温調率は44%、冷却・温調用水に対する回収水の割合(B/E)は35%であることから、回収率は冷却・温調率程度まで向上することは可能で容易である。回収率向上の余地は十分にある。
上記した岐阜県予測の回収率21.3%は、輸送用機械器具製造業としては回収可能量の半分以下であり過小な値である。

4) まとめ
加工組立型の実績は、補給水量、使用水量とも横ばい傾向にあり、今後、需要水量が増加することはない。仮に使用水量が多少増加することがあっても、回収率の向上によって、結局、補給水量が増加することはありえない。

5 岐阜県予測の基本的誤り

以上、個別業種ごとに過去の水需要実績に基づいて、将来見通しや岐阜県予測を検討してきた。ここから、岐阜県予測にはつぎのような基本的な誤りがあることを指摘することができる。

1) 使用水原単位
岐阜県予測は、使用水原単位予測モデルとして、5業種について逆ロジステック曲線、生活関連型(先端型)につてはベキ曲線を採用している。逆ロジスティック曲線は一定の値に収斂して行く式であり、ベキ曲線は増加し続ける式であるが、収斂する値(飽和値)の設定理由や増加し続けるの理由について説明もなく、その根拠が明らかでない恣意的なものである。むしろ、収斂するとか増加し続けるとの仮定そのものが実績からみて根拠がないことは、原告ら準備書面(第16、第17)及び富樫意見書(甲12)で指摘しているところである。

2) 回収率
岐阜県予測は、回収率予測モデルとして基礎資材型(先端型)・加工組立型(先端型)・生活関連型(在来型)・生活関連型(先端型)について実績最高値固定を採用している。他方、基礎資材型(在来型)についてロジステック曲線、加工組立型(在来型)について修正指数曲線を採用しているが、飽和値の取り方の説明がなく、恣意的であり、結局、実績最高値固定と大差ない結果となっている。つまり、回収率は実績最高値に固定するとしているのであり、これは需要水量予測において回収率の向上は考慮しないとしているということである。
ところが、大垣工業地区の実績をみれば、地区全体では冷却・温調率は70%前後であり、冷却・温調用水に対する回収水の割合(B/E)は50%前後である。個々の業種についても、上記したように冷却・温調用水に対する回収水の割合(B/E)が低い。これは、回収再使用が容易な冷却・温調用水の多くが回収再利用されていないことを意味する。回収率向上の余地は大きく、それも容易なのである。したがって、回収率の向上を考慮しない需要水量予測は過大予測である。2010年の需要水量予測値638千m3/日は全くの誤りである。

3) 工業出荷額
岐阜県予測は、製造業工業出荷額の伸び率について、1998年まで3.57%、以後2010年まで2.80%と予測している。使用水量原単位及び回収率が固定されたり、すぐ飽和値になったりして一定になれば、需要水量は出荷額の伸びに従って増加することになる。
ここにおいて注目しなければならないのは、1990年の需要水量で全体水量の34%を占め、岐阜県予測の中心である繊維産業における1992年以降の使用水量の大幅な落ち込みである。これは、大垣地区において繊維産業が衰退し、その出荷額が大幅に落ち込んだということであり、産業構造が変化していることを示している。岐阜県予測は、出荷額は伸び続けるという前提に立っているが、その前提自体が事実によって否定されているのである。したがって、出荷額が伸び続けるとしている岐阜県予測は全くの誤りである。

4) 予測式自体の問題
岐阜県予測によれば、使用水原単位及び回収率はいずれも一定の値に収斂するので、需要水量(補給水量)は工業出荷額の増加に伴って増加することになる。しかし、過去の実績によれば、工業出荷額と需要水量(補給水量)にはそのような相関関係は認められない。富樫意見書(甲12図10)は工業出荷額と使用水量原単位の関係を説明したものであるが、原告らの説明と同旨である。つまり、上記(1)式によって需要水量予測を行うことは過大予測となって誤りである。実際、岐阜県における工業用水需要予測も過大予測と修正を繰り返してきた。このような誤った需要予測の方法は破棄されなければならない。

5) 工業用水道による供給必要水量の検討の欠如
岐阜県予測は1人以上の事業所の補給水量を工業用水需要量としている。
徳山ダムによる工業用水の必要性をいうためには、そこからさらに進んで、そのうち、工業用水道によって供給する水量がどれだけ必要かの検討をしなければならない。工業用水道は、ある程度以上の規模の補給水量を必要とする事業所でなければ利用されない。小規模零細事業所は工業用水道の対象外である。
岐阜県予測は、1人以上の事業所という小規模零細事業所まで需要水量に計算しているのであるから、そのなかで、工業用水道を利用する事業所の水量の検討が不可欠である。しかし、そのような検討は全くなされていない。



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