徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ
徳山ダム裁判住民訴訟 第17準備書面
1.数値が表す意味
2.大垣地区合計水量の分析
3.生活関連型(在来型)について
4.回収水
5.新たな水源の必要はない
1.甲13の1〜9は『工業統計・用地用水編』の大垣工業地区(以下の大垣地区と同じ)の工業用水の推移をグラフ化したものである。甲14はその元となった『工業統計・用地用水編』の数値である。甲13の1は大垣地区全体について、甲13の2〜9は水量の多い上位8業種についてのもので、平成12年5月10日被告準備書面添付の資料[水需要予測モデル]や乙19『岐阜県工業用水需要量調査報告書』の産業型の分類では、繊維工業、パルプ・紙・紙加工品製造業、食料品製造業、プラスチック製造業は生活関連型、化学工業、窯業・土石製品製造業は基礎素材型、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業は加工組立型に属する(乙19p2)。1つの産業型に2以上の業種が分散しており、産業型としての傾向も読みとりやすい。 工業統計・用地用水編では、工業用水使用量は、用途別使用量と水源別使用量にまとめられ、両者の合計水量は同じである。用途別使用量は、工業用水使用量の用途別の水量で、ボイラー用水、原料用水、製品処理・洗浄用水、冷却用水、温調用水、その他に分けられている。また、水源別使用量は、工業用水使用量の水源別の水量で、工業用水道、上水道、地表水、伏流水、井戸水、その他、回収水に分けられ、そのうち、工業用水道からその他までは補給水で、回収水は使用水量から補給水量を差し引きして求められた水量である。 甲13の1〜9では、折れ線グラフの黒丸●が使用水量、黒四角■が補給水量、黒三角▲が回収水、棒グラフが冷却用水と温調用水の合計(冷却・温調用水)である(Y1軸・水量)。また、白三角△は回収率(回収水/使用水量合計)、−印が冷却温調率(冷却・温調用水/使用水量合計)、×印が回収水/冷却温調用水である(Y2軸・百分率)。 本件では、被告岐阜県知事は平成元年2月1日に旧フルプランに基づく「徳山ダム建設事業に要する費用負担」に同意し、平成10年1月6日に新フルプランに基づく費用負担に同意した。これらの同意により岐阜県は支出を負担することになり、本件事業費を毎年度支出することになったのである。従って、本件では、平成元年、平成10年の各同意時における水需要予測が重要な意味を持つ。また、費用負担金の支払いは毎年度なされており、支出差し止めを求め、損害賠償を求めている支出は毎年度、各年度のものである。従って、毎年度ごとの需要予測が重要な意味を持つ。 2.大垣地区合計水量の分析(甲13の1) (1) 補給水量 補給水量は現実に需用者が外部の水源から取り入れて補給する水量であるから、工業用水供給量の基礎になるものであって、将来の工業用水需要量を検討するうえで重要な資料となる過去の実績である。 補給水量の動きは昭和48年(1973年)646,835m3/日までは上昇傾向にあるものの、その後、昭和55年(1980年)には529,264m3/日と漸減し、昭和56年(1981年)には426,169m3/日と減少し、以後平成12年(2000年)の331,796m3/日に至るまで漸減傾向になっている。 (2) 回収水 回収水は、工場の水使用工程を循環している水で、使用水量から補給水量を差し引きして求めたものである。 回収水量の動きは、昭和53年(1978年)の254,578m3/日まで増加するが、以後は平成12年(2000年)の194,904m3/日に至るまで漸減している。 (3) 使用水量 使用水は補給水と回収水をあわせたものであるが(水量計算のうえでは、使用水量から補給水量を差し引いて回収水量を求めている)、使用水量の実績は次の通りである。 昭和48年(1973年)には797,376m3/日あり、昭和55年(1980年)の774,044m3/日に至るまでおおよそ80万m3/日前後の値で推移する。昭和56年(1981年)には659,597m3/日と大きく減少し、昭和57年(1982年)には591,336m3/日となり、これより平成12年(2000年)の526,700m3/日に至るまで漸減している。 3.生活関連型(在来型)について (1) 平成12年5月10日被告準備書面添付の資料[水需要予測モデル]の「3.需給水量予測」によると、平成22年(2010年)の被告による需要予測結果が示されている(乙19p5、6にも示されている)。その中では需給水量は、生活関連型(在来型)が392千m3/日となっており61%を占める。乙19p2によると生活関連型(在来型)とは、繊維工業、パルプ・紙・紙加工品製造、食料品製造などであるが、大垣地区ではこの生活関連型(在来型)の中では繊維工業の占める割合がきわめて大きく、全業種の淡水補給水量の中でも大きな割合を占める(甲14)。例えば、上記[水需要予測モデル]の基準年である1990年では、工業統計表では、繊維工業の補給水量は大垣地区全体のそれの37%を占めている(甲14−1990年)。従って、繊維工業の動向は工業用水需要量に大きな影響を与える。 (2) 甲13の3では繊維工業の動向が示されている。 使用水量は昭和50年(1975年)の378,348m3/日を境に減少に転じ、昭和56年(1981年)には232,194m3/日になり、平成3年(1991年)には197,574m3/日に漸減した後、平成12年(2000年)には71,896m3/日と大きく減少している。補給水量も昭和50年(1975年)には329,547m3/日であったところ、昭和56年(1981年)には169,618m3/日になり、平成3年(1991年)には158,243m3/日に漸減した後、平成12年(2000年)には64,337m3/日と大きく減少している。回収水については48,801m3/日であったが、平成12年(2000年)には26,582m3/日である。 (3) このように、生活関連型(在来型)産業中、大きな割合を占める繊維工業については、最近20年の補給水量、使用水量の傾向は一貫して減少傾向である。そして、特に、平成4年(1992年)以降は年々大きく減少している。これは大垣地区での繊維工業を中心とする繊維関連産業が衰退していることが原因と考えられる。工業出荷額(製造品出荷額)、工場敷地面積も平成4年(1992年)以降、年々減少している。 前述の通り、被告による平成22年(2010年)の需要予測結果によれば、工業用水需要量は基準年の平成2年(1990年)に比べて平成22年には大幅に増加しするとしている(乙19p5、6)。そして、生活関連型(在来型)はそのいずれの年においても需要の中心をなし、平成2年(1990年)でも、平成22年でも大垣地区全体の工業用水需要量(補給水量)の約60%を占めている。生活関連型(在来型)の中心をなすのは、上記のように繊維工業である。従って、繊維工業の工業用水需要量が増加するのがその前提である。 しかし、生活関連型(在来型)の中心である繊維工業の実績は、淡水補給水量はもちろん、製造品出荷額、敷地面積も年々大きく減少しており、減少・衰退傾向にあり、予測のような上昇・増加傾向とは大きく異なっており、それとは全く矛盾する傾向にある。 4.回収水 (1) 補給水量は使用水量から回収水を差し引いたものであるから、回収率(回収水量/使用水量)の向上は補給水量の減少をもたらす。大垣地区の場合、回収率は平成2年(1990年)で33%、平成12年(2000年)で37%であり、他地域に比べて著しく低い(甲13の1、甲14)。従って、適切な措置により回収率の向上が可能であり、まずそれを向上させるべきであって、回収率の向上を見込むことができる。回収率の向上に関する考察は新規工業用水需要量(補給水量)を検討するうえで極めて重要である。 ところで、冷却用水及び温調用水では温度調節のための用水であるので使用後の水質がよく、冷却して元の温度にすれば再使用できる。そのため実際の回収水は、その大部分が用途別での冷却・温調用水の使用後のものである。従って、使用水量合計に対する冷却・温調用水の割合がもっとも容易な回収方法での理論的回収率であり、用途別合計水量に対する冷却・温調用水の割合がその回収の実態である。回収率向上の可能性は、これらの傾向をを見ることにより判断できる。 (2) 甲13の1〜9を見れば解るように、大垣地区内の冷却・温調用水は、使用水量なかで占める割合が大きく、また、回収水量に比較して多い。ただ、窯業・土石製品製造業は、製品処理洗浄用水でも、沈殿処理によって容易に回収・再使用が可能であるので、その回収水には製品処理洗浄用水が多く含まれているので、回収水/冷却・温調用水は1を超えて大きくなる。 大垣地区全体の13の1では、岐阜県知事による平成元年(1989年)の同意が行われた時期における回収水は216,019m3/日であるのに対し、使用水量は407,692m3/日、冷却・温調用水は463,698m3/日である。回収水と冷却・温調用水との比は47%である。平成10年(1998年)の同意時では、回収水は191,215m3/日であるのに対し、使用水量は354,819m3/日、冷却・温調用水は385,803m3/日である。回収水と冷却・温調用水との比は50%である。 これらの数値は冷却・温調用水については大垣地区では回収率向上の余地がかなりあることを意味している。すなわち、新規工業用水需要(使用水量)があったとしても、回収水を水源としてこれに対応できる余地が大きく、外部からの補給水量である徳山ダムなどによる新たな水源開発は不要であることになる。 5.被告は大垣地区の工業用水需要量(補給水量)が、結局のところ将来にわたって伸びていくこと、新規工業用水需要量(補給水量)を河川開発水に依存することをなどを前提に徳山ダム開発が必要であるとしている。 しかし、大垣地区の補給水量の実績の動向は漸減であって、将来の増加は望めない。特に、工業用水需要量(補給水量)の大部分を占め中心をなしている生活関連型(在来型)のさらに大部分を占めて全体の傾向を左右している繊維工業が大きく減少して衰退してるのである。 また、大垣地区の場合、回収率が極めて低く、回収率を向上させて、いわば新たな水源として回収水を利用することが可能なのである。もし、徳山ダム開発水によって工業用水道が建設されれば、使用水量の増加があったとしても、回収率が向上して補給水量は増加せず、建設されたダム開発水や工業用水道の水は使用されないことが確実である。 従って、どう見ても、大垣地区では新たな水源は必要なく、徳山ダムは必要がない。徳山ダムを建設しても、開発水は使用されない。岐阜県は、早くその建設費負担を断ち切らなければならない。 平成10年(1998年)同意はもちろん、平成元年(1989年)同意、さらに毎年度の支出も、このような大垣地区の工業用水の実態と将来傾向を無視したものである。 |