負担膨らむ前に撤退を
――原告側の証人として出廷し、経済地理学専攻の立場から、国側の水需要予測は過大だと指摘されました。提訴から4年たち、「水余り」の状況はどう推移しましたか。
「当時より悪くなった。工業用水は不況や節水の影響で、需要の減少が続いている。水道用水についても90年代半ばから伸びが止まった。完成済みの岩屋ダムや木曽川総合用水の水ですら、きちんと使われていない。これまで国は需要が伸びると言い続けてきたが、今年7月の国土審議会の部会ではついに需要は減少か横ばいだと明らかにした」
――渇水対策にダムは有効ではありませんか。
「一般的にいってダムは10年に1度の渇水を想定して造られている。94年の大渇水のような30〜40年に1度の大渇水には対応できない。だからといって大きいダムを造れば費用がかかる。94年の大渇水では、都市用水のダムは空っぽになったが、農業用水を回してもらって対応できた。お金がない今、既存の施設を転用して有効活用するべきだ」
――流域住民は徳山ダムに治水効果を期待しています。
「昨年7月の大垣市の水害のように、揖斐川の支流に雨が降ったら、徳山ダムはあまり役に立たない。ダムができれば安心と考えるのではなく、水があふれる場所に住まないなどの自衛策を考えた方がいい。治水の費用は国が7割を負担するが、国家財政が危機的状況にある中で、国民全体を説得できるか疑問だ」
――960億円の事業費増加をどう考えますか。
「事業費の不足は予想していたが、ここまで増えた要因は、元住民の移転先の地盤沈下に伴う再移転費用と、ダム湖周辺の土地を買収して岐阜県の公有地にするための費用《注1》だろう。名古屋市や愛知県が『再移転は水資源機構の失敗だ』『岐阜県の土地取得費用をなぜ負担するのか』と主張するのは当然。このため、来年度予算の編成が目前に迫っているのに、自治体から計画変更の同意を取れない異常事態になっている。利水を管轄する経済産業省と厚生労働省も、補助金が削減されている中、徳山ダムだけすんなり増額を認めるとは思えない」
――事業評価監視委員会《注2》は増額を認めました。
「利水でも治水でも、専門家として調査した上で判断を下すべきだ。『予算編成が差し迫り、このままだと事業継続できないから増額を認めた』という発言は無責任だ」
――群馬県に建設中の戸倉ダムでは、東京都、埼玉県などが撤退を表明しました。
「当然の判断だ。戸倉ダムの場合、利水面から撤退を判断したが、全国的には東海地域が最も水が余っている。負担の少ないうちに徳山ダムも撤退するべきだ」
《注1》村道や林道の付け替え工事の一部を中止し、かわりに付け替え予定地一帯の民有林約180平方キロを岐阜県が買収して保全する。買収費249億円は水資源機構の負担。環境保護が目的とされるが、「関係者の事前合意がない」「買収費用が高すぎる」と批判も多い。
《注2》公共事業の再評価のため、国土交通省中部地方整備局が設置した機関。大学教授や弁護士など11人の委員で構成され、事業の継続や中止を提言する。徳山ダム建設事業では、01年10月に「継続」と判断した。
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