徳山ダム建設中止を求める会・事務局



《環境省への要望》   「イヌワシ・クマタカの保全策なき湛水開始は容認できない」


要望書提出にあたって

徳山ダム建設中止を求める会代表 上田武夫


 2006年4月に入って、環境省の業者への発注が随意契約ばかりだ、不明朗だ、コスト意識が低い、という話題が沸騰しています。環境省発注のもののみならず、「環境」関係の業務の発注は、一部の法人・業者に偏っています。
 徳山ダム集水域における「環境保全業務」「大型猛禽類調査」においても、こうした傾向は顕著です(2005年1月27日付け中日新聞記事は、その一端を報じています)。
 しかし、より大きな問題は、多額の公費(「徳山ダム集水域の大型猛禽類調査」として直接支出された額だけで7億6500万円)が投入された調査結果が「絶滅危惧種の保全策」に、少しも活かされていないことです。

 生物多様性条約を批准した日本国政府には、絶滅危惧種を保全する国際的責務があります。その責務を主要に担うのが環境省ではありませんか?
 しかるに、環境省野生生物課は、徳山ダム集水域のイヌワシ・クマタカの保全について、「環境影響評価法の適用されない事業だから、環境省(庁)は何も言えない」「環境基本法は、事業者が保全に責任を持つとなっているから、環境省(庁)は知らない」「個別事業について、いちいち関知できない。徳山ダム集水域の大型猛禽類の調査結果を事業者から入手していない、する気もない」と、他人事のように言い続けてきました。

 環境基本法も、環境影響評価法も、「環境省は(環境アセス法適用事業以外の)個別事業に関心をもってはならない」「助言や指導をしてはならない」などとは、規定していません。
 どちらの法律も「趣旨」に遡れば、そして生物多様性条約批准国としての国際的責務に照らせば、環境省は、積極的に関心をもって、保全策立案の助言をするべきです。 
 254km2に、イヌワシ2番い、クマタカ17番いが生息する地域での、「浜名湖2杯分の湛水」などという自然大改変は、「個別事業にいちいち対応できない」というレベルのものではありません。アンブレラ種であるイヌワシ・クマタカが絶滅の危機に瀕している、この状態に手を拱くだけでなく、有効な保全策を採って行こうと考えるならば、環境省が、積極的に関心をもつべき地域であり、事業です。

 環境基本法は、その第三条で
環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。
と謳っています。

 この高い理念を実現することを強く願って、以下の要望書を提出します。



要 望 書

   環境大臣 小池百合子様(野生生物課御中)

2006年4月21日

徳山ダム建設中止を求める会代表 上田武夫

 日本は「生物多様性条約」を批准し、絶滅危惧種の保全を国際的に約束している。
 徳山ダム建設事業は「自然との共生」を標榜してはいるが、生態系の保全に向けての大型猛禽類(イヌワシ・クマタカ・オオタカ)の「保全策を実施し、その結果の検討」をしていない。
 湛水という自然大改変にあたり、国として絶滅危惧種であるイヌワシ・クマタカの棲息を保全する施策はあるのか。 

 徳山ダムの運用開始を急ぐ理由は存在しない。新規利水は「いつ使うかの当てにならない」ものであり、専用施設の計画も具体化していません。発電も同様です。
 唯一「それらしい」理由としている洪水防御においても、徳山ダムで得られる「安全」は、遅々として進捗していない堤防強化等に比べて、極めて小さいものです。(揖斐川流域で、度重なる浸水被害に遭っている大垣市荒崎地区の洪水対策として緊急に必要なのは「徳山ダム」ではない。)
 一方、湛水開始前に、やるべきこと、解決すべきことが山積みにあります。自然との共生を標榜している徳山ダムの重要課題である「保護方策の実施結果の検討は湛水をする前のこの時期までに行われていなければならないはずです。しかし、膨大な経費をかけた「大型猛禽類調査」によっても、未だ保全策は出ていません。
 大型猛禽類は『生態系の傘』(アンブレラ種)である。その保全に向けての調査の観点は、
@分布、個体数、生態といった基礎的な知見の収集。
A開発行為による生息、繁殖への影響(繁殖成功率を低下させている要因の把握)等の回避、軽減。
B積極的な生息環境保全への取り組み。
C個別種の生態的特徴に応じた保護方策の検討。
 こうした内容に則しての調査が、毎年行われてきており、その結果は年度ごとに上半期、下半期に分けて報告書が出されています。しかし、調査によって得られた情報が、保護につながるデータとして整理、累積されていません。調査は記録するだけでなく分析に必要なデータとして整え、分析の結果から方策を立てて保全に繋げる視点が大切です。

 イヌワシ・クマタカの保全は、「生物多様性条約批准国」として重要な責務です。
 このことを十分に自覚し、大型猛禽類の保全策が立っていない無策なままの現状で、自然大改変(試験湛水強行)を行わないよう、国として(環境省として)事業者に指導、助言することを、強く要望いたします。

                                     以上




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