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岐阜 |
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<湖になる古里>第1部(7)
移転先、沈む思い
「徳山ダムの試験湛(たん)水うんぬんの前に、水資源機構は文殊団地の地盤沈下の問題を早く解決してくれ」。旧徳山村民が移転した五つの団地の一つ、文殊団地(本巣市)の自治会長を務める根尾惣七さん(71)は、いら立ちを抑え切れない。
同団地では、移転開始三年後の一九八七年ごろから、地盤沈下による家屋損傷が発生。団地を造成した機構は、盛り土をした区域に建つ五十二戸に対し、再移転などの対策をとった。
だが、機構側が「再移転の必要はない」とした残りの三十一戸についても、五年ほど前からブロック塀のひび割れなど家屋の被害が出始めた。住民側は「土を入れ替えて、地盤沈下がこれ以上起きないようにしてほしい」と訴えたが、機構側は「宅地として耐えられる」と判断。土の入れ替えをせず、家屋の補修費のみを負担することを提案し、住民側の主張とは平行線のままだ。
昨年七月には同団地自治会の調査で、団地内の公園の地中からコンクリート片などが見つかった。これについても機構側は「沈下に及ぼす影響は小さい」として従来の方針を崩していない。
「団地のほとんどすべての家で、地盤沈下による被害が出ている」と、根尾さんは訴える。事実、ある住宅では土台のブロックの継ぎ目に長さ約二メートル、幅約一センチのひび割れが入っている。家屋の中でも、風呂場のタイルが割れるといった被害が出ているという。
地盤沈下が原因と見られる被害は建物以外にも。数年前には、団地内の道路に埋設されていたガス管が破裂し、ガス漏れが発生した。団地内の七十代男性の家では、五年ほど前に自宅敷地内に埋設の水道管が破裂。自費で修復したという。
一部の住民に再移転を認めた機構側の対応は、もともと同じ文殊団地に住んでいた人々の心に微妙な溝をつくった。
「残された住人は『なんで私たちだけが』という思いを抱いてしまう」と、山本信次さん(82)。地域の行事でも、再移転した住民と残った住民で自然と固まるようになってしまったという。
「『お国のためだ』と言われ、住み慣れた故郷を出てきた。この年になってこんなことになるとは」。山本さんはそうつぶやくと、唇をかんだ。
<地盤沈下問題> 旧徳山村民が移転した5つの集団移転先のうち本巣市の文殊団地と徳山団地で地盤沈下が発生している。文殊団地では52戸に再移転などの対策がとられた。徳山団地では1987年ごろから建物損傷の苦情が出始め、水資源機構は今年1月、85戸に損傷や基礎の傾きがあったと発表。家屋補修や地盤改良工事を行う方針。
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